プロローグ
寒い。真っ暗だ。
眠い。そろそろか。
くしゃみ。
狭い部屋。壁が薄い。風の音。雪が壁にぶつかる音。
天井の隙間も雪に塞がれて真っ暗だ。昼か夜かもわからない。
この部屋もなんなのかわからない。気がついたらここにいた。
食べ物はない。天井の隙間から滴る水しか口にできるものはなかった。
もう眠かった。空腹や喉の渇きも、少し前からあまり辛くなくなった。
またくしゃみ。寒い。寒さだけが辛い。
もういいか。あっという間に終わる——
くしゃみ。
意識を失いそうになるとくしゃみで目が覚める。もう、いいのに——
いや、これは夢か。
さっきの、死んだ夢の続きか。
さっきの夢でなぜ死んだのかは思い出せない。
いきなり野原にいた。空は琥珀色。
『おまえも生まれ変わりたい?』
声がして振り向くと、変な女がおれを見ていた。目がばかでかい女。マンガやアニメのキャラみたいな。
生まれ変わりたいかと聞かれて、返事をした覚えはない。だが、デカ目女は笑った。
「そりゃそうだよね!オッケイ!」
次の瞬間、この部屋の中にいた。
いや瞬間ではなかったかも。気を失ったかなにかしたようだ。
瞼が開かない。
瞼越しに光を感じた。微かな光。
しばらくしてから瞼は開けることが出来たが、その時にはもう真っ暗でなにも見えなかった。
また、くしゃみ。
突然、部屋が揺れた。大きな音。地震か?
天井から音がする。それから——光。天井が壊れた。思わず悲鳴が漏れた。おれの声か?驚くほどか細い声。そして——
巨大な……手。掴まれ、持ち上げられる。
恐い。恐ろしい。身をよじるが、手から逃れられない。
巨人。わけがわからないまま、連れて行かれる。
外は光の洪水だった。明る過ぎてよく見えない。吹雪いているのはわかったが、巨人の胸に抱かれて風は凌げた。どこに連れて行かれるのか。これはなんなのか。
連れて来られたのは、家……いや、病院か?病院の匂いがする。
おれは固いベッドの上に降ろされた。巨人が2人。
「せいご2週間くらいですね」
せいご、とはなんだ?生後?いや、おれは——
太腿に激痛。叫んだが、変な声が出た。
「これで大丈夫でしょう。暖かくして、ミルクを飲ませて」
……なんの話だ?
目が明るさに慣れてきた。周囲を見回す。
鏡。
最初はポスターかなんかだと思った。だが動く。おれが首を傾げると、ポスターの中のやつも首を傾げる。鏡だ。
いや待て。
おれは人間だ。
猫じゃない。
あんなひ弱そうな、雑巾みたいにぼろぼろの、小さくて、目ヤニだらけで鼻水を垂らした——
くしゃみ。
鏡の中の子猫もくしゃみした。
シャム猫。
シャム猫の子猫。




