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理論で恋は解けません!――天才兄貴の学術的聖域は、妹とメイドと親友のバグで溢れている  作者: 水上 空


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1/8

情報のノイズと、愛という名の計算違い


「俺が大学に求めるのは、知的で孤独な『静寂』。……のはずだった」


「説明しよう! 寂しげな兄を救うため、学校をサボって特製煮物を抱えて乱入したのが、この天才妹である!」


「訂正してください。ただの不法侵入であり、湊様の健康を害する甘やかしです。速やかに私が排除(お片付け)いたします」


「ちょっと、人の真心をゴミみたいに言わないでよ! お兄ちゃん、このメイドなんとかして!」


「……はぁ。計算不能なカオスに満ちた、俺の新しい日常。――さあ、物語の始まりだ」


「お兄ちゃん、はい、あーん。脳の海馬を刺激する『九条家秘伝・超記憶オムレツ』だよ」


国立SSS大学、特別栄誉寮『クジョウ館』。

本来、この国の未来を担う一握りの「天才」のみが入居を許されるこの聖域の301号室は、現在、極めて非論理的な熱気に包まれていた。


視界の端に映るのは、一分の隙もなく焼き上げられた黄金色のオムレツ。九条理央くじょう りおの家事スキルは、彼女の持つ複数の学位と同じく、もはや芸術の域に達している。


だが。


「理央。……以前も言ったが、このオムレツに使用されている卵の産地、鶏の飼料、および加熱温度のグラフを提出しろと言ったはずだ。私の脳が今必要としているのは最適なタンパク質であって、お前の『隠し味』という名の非論理的な脂質ではない」


俺、九条湊くじょう みなとは、膝の上に置いた量子力学の専門書から目を離さずに言った。


「もう! ちゃんと計算してあるわよ! 10種類のハーブと、お兄ちゃんの血圧を安定させる特殊成分(愛情)をミリグラム単位で配合した、世界に一つだけの特製メニューなんだから!」


キッチンでエプロンを翻し、胸を張ったのは俺の二つ下の妹、理央だ。

彼女は俺の大学進学が決まった瞬間、学園のシステムをハッキング(本人は『正当な手続き』と言い張っている)し、俺の「同伴者」としての入居権を勝ち取った。


「いい、お兄ちゃん。赤ちゃんの頃から面倒を見てる私(天才)が一番知ってるの! おむつを替えてあげたのも、離乳食を食べさせてあげたのも、全部私なんだから!」


俺は本を閉じ、深い溜息とともに眼鏡を指先で押し上げた。


「妹よ。お前は俺の二歳後に生まれている」


「……ぐぬぬぬぬ」


「お前が俺のおむつを替えるには、お前が時空を歪めて過去に遡るか、あるいは俺が二歳まで排泄の自立ができていなかったという不名誉な仮説を立てる必要があるが。……どっちだ?」


「……っ! そ、それは、イメージの話よ! 精神的には私がお姉ちゃんなの!」


「まったく!、理央。嘘は情報のノイズだ」


俺は椅子に深く背中を預け、天井を見上げた。

この寮に入ってから一週間。俺の研究効率は、理央の過剰な世話焼きと、それに伴う「お兄ちゃん大好きオーラ」という名の精神的ノイズによって、平時の30%まで低下していた。


「……呆れるな。そんな初歩的な計算違いをしていて、本当にお前は俺の妹(天才)か?」


「お兄ちゃんのバカあぁぁ! 理論バカ!」


理央は叫びながら、俺の頭をポカポカと叩いてきた。

計算によれば、この打撃による俺の脳へのダメージは皆無だが、彼女の心拍数は平常時の1.5倍まで跳ね上がっている。


「限界だな。……この部屋の環境変数を正常化するため、外部の安定した制御装置バッファを導入することにした」


「え……? バッファ? 何のこと?」


その時。

寮の厚い防音ドアが、何の前触れもなく開いた。

2. 招かれざる「正解」


「失礼します。本日より管理を担当させていただきます、メイドの静香しずかです」


入室してきたのは、一分の隙もない仕立ての制服に身を包んだ、凛とした佇まいの少女だった。

俺と同じ19歳。しかし、その瞳には感情の揺らぎなど微塵もなく、まるで高性能な演算機のような静謐さを湛えている。


「ちょ、ちょっと! 誰よあんた! ここは関係者以外立ち入り禁止……」


理央の抗議を、静香は無機質な視線で遮った。


「お嬢様。私は湊様が公式に依頼し、寮管理組合の承認を得た正式な専属メイドです。……お嬢様の現在のお世話状況をスキャンしましたが、効率が悪すぎて目眩がします」


「なんですって……!」


静香は手荷物から、宝石箱のようなケースを取り出した。中には、不自然なほどにキラキラと輝く純白のケーキが鎮座している。


「湊様。計算によれば現在の脳内エネルギーが枯渇寸前です。脳活性化に特化した『特製・高濃度糖分ケーキ』をご用意しました。最高級の和三盆を、理論上の最大値まで投入しております」


「……待て。今、俺を名前で呼んだか? あと、そのケーキ、糖分が飽和状態になって結晶化していないか?」


「湊様。私は湊様と『同い年』の契約パートナーですので、名前呼びは親密度の最適化に基づいた判断です。また、この結晶こそが脳へのダイレクトなブーストを可能にします。さあ、どうぞ」


「ちょっとおおぉぉ! なんでお兄ちゃんを名前で呼んでるのよ! それにその砂糖の塊、倫理的にアウトなんだから! 糖尿になっちゃうでしょ!」


理央がフォークを構えて静香の前に立ち塞がる。


「お嬢様。私は旦那様のバイタルを秒単位で管理しております。……おむつを替えたという虚偽の記憶に縋り、愛情などという不確定要素を食事に混ぜる妹君よりは、私の方が湊様の隣に立つ資格があるかと」


「くっ……この、エセメイド……!」


俺は、再び専門書を開こうとして、あきらめた。


狭い寮の部屋。

家事万能なはずの二人の天才が、火花を散らしている。

一人は感情を武器に、一人は効率を盾に。


「……呆れるな。お前たち。私の部屋の熱力学的平衡が完全に崩壊しているんだが、その責任はどう取るつもりだ?」


俺の言葉など耳に入っていないようで、二人は至近距離で睨み合っている。


「お兄ちゃん、どっちが正しいかハッキリさせて! 私の愛情オムレツか、この結晶女の爆弾ケーキか!」


「湊様。論理的な回答を期待します」


俺は眼鏡を外し、目頭を押さえた。

どうやら、俺の平和な研究生活という名の数式は、この日から永久に解けないバグに侵食されたらしい。


世界を数式で書き換えるのは簡単だ。

だが、この密室の中で俺を巡って争う「二人の天才」という非論理的な変数を解く方法は……。


残念ながら、まだどの専門書にも載っていなかった。


「……ふぅ。というわけで、ここまで読んでくれて本当にありがとう!」


「湊様、本編このエピソードの幕引きですね。お疲れ様でした」


「ああ、お疲れ様。……で、ここで終われば綺麗に締まるはずなんだが、何やら大事な『告知』が残っているらしい」



「そうなの! カクヨムで絶賛公開中の本編、『幼馴染が布団で「禁断の行為」にふけっていたので秒で登校しようとしたら、「プロット無視するな」と逆ギレされた件』も、この勢いのままぜひチェックしてね!」

↓   ↓    ↓   ↓   ↓

※活動報告にリンクあります※





「メタ要素とカオスが限界突破しているラブコメです。少しでもクスッと来たら、画面下の『★評価』や『フォロー』で応援していただけると、湊様の胃痛が少し和らぎます」


「……これ以上プロットが荒ぶらないよう、どうか温かい応援をよろしく頼む。それでは、本編でお会いしましょう!」

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