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第十話 『未来はどっちがホラー?』

基本的に平日は夜19時以降、休日は朝8~10時に更新。

たまに一日に複数話投稿することもあります。

【共通テストまで 219日】


夜の自習室。22時を過ぎると成人していない現役生組が帰宅し

自習室も空席が目立つようになる。


外は雨が降っているせいか、その日は空気が妙に重かった。


「なあ」

その空気を壊すように、タロウが口を開く。


「どうした4浪」

応える(おわる)


「黒岩さんと五條さんってさ、どっちの未来が怖い?」


突然やり玉に挙がってしまった黒岩と五條は

思わず参考書から目を上げて議論に加わってしまった。

「え?」

「怖い、とは?」


「いや、どっちの未来がお先真っ暗かって話」


「失礼すぎるだろ」

終がそう言って話を終わらそうとするが

当の本人たちがノリノリで、

「面白い、徹底的に議論しよう」と腕まくりをし始めた。


________________________________________


第1ラウンド:年齢


二人の試合が始まった。

司会はタロウ、審判は終だ。


「まず黒岩さん。32歳、無職、受験生」

「無職って言わないでよ」


「次に五條さん。23歳、浪人生、しかも5浪」

「しかもって言うな」


「うわ、どっちも怖い。選べねえ」

「さあ選べ、どっちが怖い?」


「俺の人生はまだ真っ白なキャンバスだ」五條が言う。

「俺の未来は“全部捨てた”」黒岩が言う。


「うわ……怖すぎ……」


軍配は五條に上がった。


________________________________________


第2ラウンド:失うもの


「黒岩さんは次の受験に失敗したら?」

「職務経歴書の空白期間が長くなる、つまり再就職が厳しくなる」


「社会って怖い」

司会のタロウがコメント。


「俺は? 次の受験に失敗したら何を失う?」五條が訪ねる。

「若さかな」

少し悩んで黒岩は答えた。


「なんだ、それだけか」

五條はふふん、と鼻を鳴らした。


「若さだけは金で買えない。20代前半の1年は重いぞ」


「哲学始まった」


「俺は23歳の時大学5年生。合コンにゼミに旅行……。

23歳は人生で一番楽しい時期と言っても過言ではない」


五條は黙った。

第2ラウンドの軍配は黒岩に上がった。


________________________________________


第3ラウンド:家族


「俺は親にまだ医学部を再受験することを言えてない」


「爆弾持ちかあ」


「ふふん、俺は毎日言ってるぞ」


「何を?」


「“今年こそ受かる”ってな」

どや顔の五條。


「嘘ばっかり、こっちも爆弾だ」


________________________________________


時刻は23時半。

あと30分でこのメディカル∞インフィニティの自習室も閉まる時間だ。


「結論出そうぜ!」

「もうやめて差し上げろ」


終はいよいよネタにするのが申し訳なくなったのか

議論を止めようとする。


「未来が怖いのは挑戦しているからだ。

立ち止まったり戻ったりする方がよっぽど怖いと思わないか」


五條はまったく気にしていないようで妙に台詞っぽく言い放つ。


「はは、ホラー映画の予告みたいになってる」

黒岩も笑う。


「いや、名言っぽいこと言って議論を終わらそうとするな。どっちが怖いの?」


「タロウ、そこは流してやれよ」


「未来は怖いよ、ここにいる全員。だから面白い」

どうやら五條は役者気分なのか、今日の言葉はやけにセリフ臭い。


「「「まとめた!」」」


「でも、今日分かったのは

親に言えていない黒岩さんのほうが怖いかな」


そういうと、黒岩のスマホが震える。


表示名は“母”。


「「「出ろ!!」」」

3人の声がそろう。


「いや今じゃない」

いつも落ち着いている珍しく黒岩さんが動揺しているらしく

手が震えている

コメディみたいにスマホを机の上に何回も落とした。


「黒岩さんがスマホのバイブみたいになってる!」


「未来が怖いのではない」と五條。つづけて


「今が怖いんだろう」

そういうと、五條は黒岩のスマホの通話ボタンを断りなく押した。


「あっ」

静寂。

通話が始まり、通話時間が1秒、2秒と増えていく。


黒岩がそっとスマホに話しかけた。

「はい、母さん」


3人は息をひそめた。


「え? 退職の件?」


「「「!!?」」」

浪人生トリオは顔を見合わせる。


「……え? 知ってる?」


黒岩の


「……応援してる?」


静寂。

黒岩の目は潤んでいるように見えた。


しばらく何か話した後、黒岩は通話終了ボタンを押した。


「どうでした?」


黒岩は笑って

「バレてた」


「ホラー終了だな」


「未来が少し軽くなったな」

五條は黒岩の肩をポン、と叩く。


「何、場をおさめようとしてるんですか。

ホラー勝負はアンタの勝ちだよ」


タロウがそういうと、五條は海外ドラマみたいに肩をすくめて見せた。



未来のことを考えるのが怖いのは、みんなだ。

しかしそれは本気だから。

安定を捨てた32歳。

未だ真っ白なキャンパスの23歳。


怖さは違う。

だが全員、震えている。


医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティ、

本日もホラー上映中。

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