たった1日③
映画が始まる前の予告編。その間にトイレに行ったり、軽くポップコーンを食べたりと時間を潰す。久志もその間にトイレを済ませて、映画の予告編を見始めた。
「「あっ」」
私たちが見たのは去年2人で2周したアニメの劇場版。その公開が今週末にまで迫っていた。
「俺さ、公開今月末かと思ってたわ。」
「そうなん?見に行く?」
「見に行きたい気持ちは山々なんやけどさ、これはここでやってないんよな。」
「どこやったらやってるん?」
「そっち。」
そっちというのは私が住んでいる福井市にある映画館のこと。2人でよく行っていた、エルパにある映画館だ。
「じゃあ、土曜の晩にでもこっち来て、レイトショー見て泊まったら?」
「それいいかもな。じゃあ、また決まったら連絡するわ。」
「早くしないと先見るで。」
「それは待っててーや。」
そんな会話をしていると予告編も終わったようで暗くなる。中の人全員の注目がスクリーンに集まり、静かになった。
本編が始まる。ガヤガヤとした日常。その中で起こる事件。様々な人とのつながりや、今回出会った人たちとのつながり。そして、今回の中心となる人物。ゆるりとした日常の中にも、事件解決のためのヒントが散りばめられていて……
隣の久志を見る。その目はスクリーンに向けられていて、同じように推理しているのだろう。久志はアニメや映画を見るとき、没入するような質だ。その世界の中に飛び込んで、登場人物たちと同じように考え、動く。アクション系のものを見たときは疲れてるし、推理系のものを見たときは糖分を求める。
(そういうとこ、ほんと可愛いなぁ)
肘掛けに体重を乗せると、手が何かに当たる感覚が。見ると久志の手だった。
(あ、集中してたのに、やっちゃったかな?)
そう思って顔を窺うと、何も気にしていないようにスクリーンに夢中だった。
(よかった。でも、ちょっと癪。)
久志の手をそっと握る。ポップコーンを食べられなくなるし、ドリンクも飲めなくなるけどいい。久志はささやかな私の抵抗を受けたらいい。
そして映画本編はクライマックスに。今年は若干アクション要素が強かったから、推理と合わせて久志は疲れているだろう。
本編が終わって来年の映画の予告。これに関しては私も驚いた。まさか、あれが繋がってくるとは。たぶん、来年の飲み物はコーヒーかな。
「あ」
そしてやっと久志が気付く。
「真ん中ぐらいからずっと握ってたで。」
「そうなんや。気づかんかったわ。」
手を放して、荷物を持って、最後に忘れ物がないかを確認。時間はまだ夕方だけど、ここから帰るとなるとそこそこ時間がかかるわけで。
「送ってくわ。」
「別にええのに。」
「いや、俺がそうしたいだけだから。」
久志はそっぽを向く。ああ、これは、
「そんなに私と一緒にいたいんや。」
「そうやで。悪いか?」
恥ずかしそうに言う久志に笑いかける。こういうの言うの珍しいから。
「んーん、嬉しい。」
たった1日。1か月ぶりのこの数時間は私にとってもかけがえのない時間だった。




