アイツの秘密
もう夏が過ぎる。雲の流れが速い。
俺はキヨと会ってから、足を突っ込まない事に決めた。
気持ちと裏腹なのどかな天気だ。俺は教室にいた。授業が耳に入って来るワケがなく、教科書に隠れて外を見た。足が無意識に貧乏ゆすりしている。
席替えして一番後ろの席だから、あんま目立たない。
チャイムが鳴って、先生に呼ばれた。
職員室。独特な雰囲気が嫌いだ。
「昨日の無断欠席何かあったのか?」
担任がめんどくさそうに聞いて来た。
「すいません。これからは連絡します。」
「まぁ。吉井は真面目だからな。悩みでもあるならいつでも言えよ。」
流す様に言った。俺は「ハイ」と言って職員室を後にした。
「みーきや。」
「わっ。びびったぁ。華どうしたんだ?」
「学校抜けよう!」
有無も言わさず、華に引っ張られて俺達は学校を飛び出した。
「早く乗れ。」
なぜかサングラスをかけた有野先生が車を出した。
「先生場所知ってるんすか?」
「言いたく無かったけど、オレ元ボスだから。決闘の場所はだいたい分かる。」
ずっと、華は俺の手を握っていた。
「いいか。時間的には間に合わねぇからな。」
「はい。」
「2時間はかかるんだよな。ってワケで電車で行ってくれるか?」
おいおい。正確な場所は分かってねぇだろ。俺と華は駅前でおろされた。駅前に杉岡がいた。
「来ると思ってた。ってか、ツルギさんに頼まれたんだけどな。」
俺は華の手を強く握った。
「オレ近道知ってるから。舞原は危ないかもよ。」
「私、着いて行きたい。」
華が背中を押してくれたんだ。
「一緒に行こう。杉岡案内よろしく。」
「オレが姫抱きしてあげようか?」
「やっ。みきや助けて。」
「こっちおいで。冗談はいいから、早く行けよ。」
「へいへーい。あんまいちゃつくと、谷底に落ちるかもな。」
ってか、電車乗らないのかよ。俺か華か分からない汗が手に滲む。
「みきや…手離さないでね。」
「当たり前だろ。ほら。恋人繋ぎなら大丈夫。」
華が安心したように、にっこり微笑んでくれた。
「ここ越えたら、すぐだ。」
コンクリートの壁がそびえていた。ヒョイと杉岡が飛んで登った。
「お前らの愛の壁乗り越えてみろよ。」
塀の上で見下ろす杉岡。俺は膝をついてしゃがんだ。
「つかまれ。」
「おんぶ?」
「ぐぇっ!首…っ苦し!」
華が、俺の首に巻き付ける腕の力を緩めた。
「ちゃんとつかまれよ。ダメだちゃんと足巻き付けろ。いくぞ。」
俺はそばにある木に登った。さすがにあの塀を一飛びで飛べねぇ。
「あと少しだ。」
木の枝に華を登らす。
「そこから、塀に飛べ。」
「ひゃ。怖い。」
「じゃあ俺から行くから、来いよ?」
俺は塀にジャンプした。足が滑りかけたけど、なんとか着地できた。
「華!来い!」
俺は両手を広げた。俺の胸に華が飛び込んで、バランスを崩した。
バチャン!
「川に繋がってたのか。良かった。」
「恐かったよー。」
しがみつく華を連れ、泳いで岸辺についた。
岸辺には、爽やかにスポーツをする少年たちがいた。
「…は?」
華も呆然とその様子を眺めている。
「お!吉井幹也!水浴びか?オレ達合併することになったんだ。」
「ん。ヒノトリと俺がタイマンで殴り合いをした末、仲直りしたんだよ。」
ボロボロで傷だらけのボス二人。
ってキヨは!?
「みっきーに舞原チャンじゃん。バドミントンしよ!」
「キヨ!このばかやろ!俺がどんだけ悩んでここまで来たと思ってんだよ!」
俺はキヨの胸ぐらを掴んだ。キヨは動じずに笑った。
「ちゅーは舞原チャンとしましょうね。」
「っバカ!」
「ちなみにオレ、交換学生だから。今色んな高校から生徒来てんだろ?」
さりげなく、俺の手を離した。
「未来までオレをどっかにやろうとしちゃってさー。マジで、寂しかったし。って事で、明日からまたよろしくな。」
「みんな転校って言ってたよ!」
「最初冗談だったんだけど、そんなに広がってたのかよ。幹也もオーバーだと思ったんだよな。うおっ!」
俺はキヨに抱きついた。
「なんだよ。くそー!もう離さねぇからな!」
「幹也…オレそんな趣味ねぇし。バカはお前だよ。早とちりしやがって。つかオレまで濡れるっつーの!」
弟のマサまでも…本気で騙されてたんだな。ってか、あの家族の事だから軽い冗談か。
青春は短いって言うけど、俺達はまだまだ走り出したばかりだ。
友情も恋も同じくらい大事だけど、その時のタイミングとかで判断すればいいと思う。
アイツの秘密は、誤解が誤解を呼んだ、甘ずっぱい青春ストーリーだった。
『大好き』って君に伝えよう。きっと心が温まるから。
ここまで読んで下さりありがとうございました。色んな人物を書けて楽しかったです。サイドストーリーをまた、書けたらなぁなんて思ってます。秘密って魅力的ですよね。なんでか分からないのに泣きそうになりながら、書いた場面も有りました。心に残ってもらえると嬉しいです。またお会いしましょう。