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怪盗×魔法少女  作者: 金屋周
第4章 夏の檻
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第25話:月に会う

『へいやっほー!あなたに癒しと潤いを!バーチャルタレントのビタミンちゃんこと椎名キンカンだよ!今日はゲーム実況をしていくんだけど、その前にみんなにお知らせがあります!もうすぐ夏休みなんだけど、お盆休みのあたりはちょっとお家の事情で忙しいのでお休みします!楽しみにしててくれた方はごめんね。その代わりなんだけど、それ以外の日はできるだけ毎日配信するようにするからね!それじゃあ!今日やっていくゲームは、みんなにオススメされた最恐の和風ホラーゲームと言われる──。』


ふーん……ビタミンちゃん、お盆の辺りは忙しいんだ……。


自室でスマホで配信を見ながら夕桔は思った。


私のお盆の予定なんて……ないわけじゃないんだけど、親戚に会ったりはしないな。最後に会ったのっていつだったっけ?


思い出せないくらいには前のことなんだろう。


「ふぅ……。」


しかし、こうしてのんびりと配信を見てると日常に帰ってきたって感じがするな。


この前は、あの後大変だったな。


月輪教団本部にて──。


「私は!もうこの生活はイヤなんです!皆様!私の言うことを聞いてください!」


月乃がそう叫んだら信者の人たちは意外という表情をせず頭を下げた。


それを横で見ていた私の方が意外だと思った。


てっきり月乃にご神体としての生き方を強要していて、意思を見せようものなら怒ったり制裁を加えたりするものだと思っていた。


「かしこまりました。それが【お月様】のお望みであるならば、何なりとご用命くださいませ。」


だけどこの信者たちにとって、彼女は絶対の存在だったのだ。


彼女の意志は全て尊重する。自分たちは従うだけの存在であると。


そこには深い深い忠誠が確かにあった。


きっと月乃が今まで自分の意志を発してこなかったのは、この人たちではない誰かにご神体としての生き方を強要されてきたからなのだろう。


だから月乃は自分の意志を伝えることは無駄なのだと、諦めてしまっていたのだろう。


「えっと……じゃあ……。」


今初めて、もしかしたら生まれて初めて、彼女は自分の気持ちを言葉にしようとしているのだ。


「私はこの方と……【ペルセウス・コーラル】さんとお友達になって、外に行ってみたいです!」


「素晴らしい!何でも協力いたします!」


「外の世界のことがもっと知りたいです!」


「素晴らしい!何でも協力いたします!」


「他には……えっと……何かありますか?」


私の方を見てきた。


我が儘を言えるようになったのにポンポン出てこないあたり、いい子なんだということが伝わってくる。


とはいえ、私に振られても言いたいことなんて……あるか。


「それじゃあ、勧誘ノルマ?みたいなのを止めてほしいかな。それのせいで泣いている子を見たわ。」


「……ということです!」


「素晴らしい!何でも協力いたします!」


大丈夫かこいつら?


まぁ本人たちがいいのなら放っておくか。


「さて、一件落着したようだし、私はこの辺で失礼させてもらうわね。」


「魔法少女様、お待ちください。」


何気なく帰ろうとした矢先、信者の1人に呼び止められた。


「こちら、我が教団の電話番号です。【お月様】はまだスマホをお持ちではありませんので。」


そう言って名刺を渡された。


「あ、どうも。」


つい受け取ってしまったけれど、魔法少女(わたし)から電話したら変よね?


電話かけるなら二ツ森夕桔からってことになるけれど、そこのところどう誤魔化そう?


……まぁ、それは後で考えればいいか。


「……そうだよ。考えないと。」


あの時のことを思い返しているうちに、結局電話してないことを思い出してしまった。


私が魔法少女であることを知っているのは月乃だけ。


信者の人たちは魔法少女【ペルセウス・コーラル】から電話がくるものだと思っているはず。そこに私が電話して不自然じゃない言い訳ってなんだ?


ホラーゲームに悲鳴を上げるビタミンちゃんに思考が乱されるので、一度配信を閉じる。


「うーん……要は別人で、それで繋がりがあるってことで……。」


そうだ。付き人とかマネージャーとか(この2つの違いって何?)、そういう人を名乗って代理で電話しましたってことにすればいい。


月乃がああ言っていたし、連絡先も貰ってしまったし、一度くらいは連絡するのが礼儀というものだろう。


時間を空けると面倒臭くなってしまいそうなので、早速電話をかける。


『はい。こちら月輪教団です。何をお悩みでしょうか?』


あ、こういう風に出るんだ。


「あの、私、魔法少女の付き人?の二ツ森という者です。月乃のことで……。」


『ああ。【ペルセウス・コーラル】様の。これはこれは、丁度良いタイミングです。』


丁度良い?


『【お月様】のスマホの契約が済んだのです。お時間のある時はございますか?ぜひお会いしていただきたく存じます。』


「えっと、じゃあ今週の土曜日で……。」


こうして今度は、正面から月輪教団の本部へと赴くこととなった。


そして当日──。


「暑い……。」


7月に入り、気温は増々上がってきている。


こんな暑い中、日中に月輪教団まで行くのは大変だ。


送迎しようかと言われ断ってしまったが、こうも暑いと素直に了承しておけば良かったと若干の後悔がある。


「やっと着いた……。」


前に来た時はもっと駅から近かった印象があった。暑さによってこうも印象が変わるものか。


「お待ちしておりました。二ツ森様。さぁどうぞこちらに。」


門の前で信者の人が待っていて、中へと案内される。


「この暑い中、ご足労いただきありがとうございます。母屋の方へご案内いたしますね。」


「どうも。」


私がここに来たことがあることは知らないからだが、こうして知っている場所を案内されるのは変な感じがする。


……というかこの人、私が来るまで外で待ってた?


屏風やら掛け軸やら飾ってある豪華な応接間へと案内され、高そうなお茶が出される。


「【お月様】をお呼びして参ります。少々お待ちください。」


待っている間ヒマなのできょろきょろと部屋の中を見回す。


この部屋に置いてある物、全部高そうだな……全部売ったらいくらになるんだろう?


流石にこの場で盗むわけにもいかないので、値踏みして遊んでいると足音が聞こえてきた。


襖が開き月乃が部屋に入ってきた。


「お待ちしておりました。えっと……夕桔さん。」


「それでは私はここで。何かございましたらお呼びくださいませ。」


「はい。ありがとうございます。」


信者の人は頭を下げると去っていった。


「えっと、あの……夕桔さん、とお呼びしてよろしいでしょうか?」


「え、うん。」


何で急に?


そう思ったけど、よく考えたら魔法少女としてしか名乗ってなかったな。


私の名前は信者から聞いていたのだろうけど、どう呼ぶべきか迷っていたのだろう。


「それでは、まずは先日のお礼を言わせてください。改めてありがとうございました。」


「気にしないで。成り行きだったんだから。」


「成り行き?」


「何でもない。忘れて。」


月乃にしてみれば救世主のように見えたのだろうけど、私は偶然目の前で起きた問題に首を突っ込んだだけだ。


「分かりました。それでですね。私はスマホなるものを購入してもらいました。なんでもこれがあればいつでも連絡が取れるそうです。」


買ったばかりの裸のピカピカのスマホを自慢げに取り出した。


……まぁ、信者の人から聞いていたんだけど。


「それじゃあ、連絡先交換しよっか。」


「はい!……えっと、どのようにすれば……?」


「えっとね……。」


とは言っても、私も詳しくないんだけど。


陽咲と交換した時はどういう風に操作したっけ……?


記憶を掘り起こしながら、見覚えのあるアイコンを片っ端からタップしてみる。


「……あぁ、できた。」


捜査すること数分。


『五宝月乃』の名前が友達欄に追加された。


「これでいつでも夕桔さんと連絡が取れるようになったのですね!」


「うん。返事遅くなるかもしれないけどね。」


凄く嬉しそうに微笑んでいる。


……この子にとっては、全てが新鮮でキラキラして見えるのだろう。


私のスマホが震えた。


「今の音はなんですか?」


「通知だよ。誰かが連絡してきたんだ。」


仕事関係の連絡は他人に見られても大丈夫な文面にしてくれているが、念の為月乃から見えないように確認する。


連絡人は……陽咲だ。


『もうすぐDry Moonの新作映画やるんだけど一緒に観に行かない?』という連絡だった。


へぇ~あれって今も映画やってるんだ。


子供の頃、毎年夏に映画をやっていた記憶はあるけど、まだ続いているとは思わなかった。


「お友達の方からのご連絡ですか?」


「うん。映画を観に行かないかって……。」


そこまで言って月乃の顔をみたら目がキラキラと輝いていた。


興味津々といった様子だ。


「えっと……月乃も来る?」


「いいんですか!?」


「う、うん。先方に聞いてみないとだけど……。」


そうは言ってみたものの、実際のところどうなんだろう?


陽咲目線だと、全く知らない赤の他人が同席するってことになる。


うーん……私がその立場だったら嫌だなぁ。


まぁとりあえず、ダメもとでも聞いてみよう。

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