95)クロト、ぶん投げる。
アーヴァントの予想通り、ゴルゴンの首破壊は、暗示の解除を意味していた。玉座の間でも隅に転がされていた家臣達も、次々に石化が解けてゆく。
抱き合って喜び合うのもほどほどに、ヴァーミリアンと側近の2人と、エル・ポーロの面々以外は港への救援に走る。
朝日を浴び、玉座の間に空いた大穴から海を見るヴァーミリアン。
ヴァーミリアンに倣った訳ではないが、皆が朝日をなんともなしに見ていると、クロトが下から戻って来た。
「上手くいったな!」
玉座の間に入って来るクロトをパーティがハイタッチでお出迎えだ。
「あれ? サリナちゃんは?」クロト一人しか戻ってこなかったことに気づいたジュリア。
「ああ、俺が壁壊している時に、向こうでコソコソしている奴がいてな、気になるって追いかけてったぞ」
そんな話をしている間に、ヴァーミリアンが顔を腕でぬぐい、こちらを向いた。
「クロト、お主らのおかげで被害が最小限で済んだ。本当にありがとう。ワシにできる礼であれば何でもする」
「行きがかりで手伝っただけだから、別にいいよ。とりあえず勝ってよかったな!」
アメリアとシーラが言った通りの返答で、クロト以外の全員が笑ったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しばらくして港の方も順調だという報告が入って来る。
石化していた戦士も動けるものは掃討戦に参加してくれているそうで、これ以上はクロト達の出番はなさそうだ。
「あとはワシらの役目、ヌシらは休め」
ヴァーミリアンの言葉に甘え城の一室に案内されるたパーティは、そのまま全員泥のように眠りこけた。
昼過ぎ、クロトが目覚める。
「起きたか」声をかけたのはアーヴァント。
シーラも既に起きて、フレアを撫でながら入り口付近でお茶を飲んでいる。
アメリアとジュリアはぐっすりすやすや。
物音を立てないように部屋を出ると、アーヴァントもついてきた。
通路に出ると、パタパタと獣人達が走り回っている。事後処理で忙しいのだろう。
「おや? 起きたんですね。お疲れ様でした。まだバタバタしているので、ゆっくりしていてください」
多分上陸作戦に参加した戦士なのだろう、親しげに声をかけてくれるが、、、すまん、種別以外は見分けがつかんのよ。なのでふわふわっとした感じで返事しておく。
「ヴァーミリアン様も休憩中か?」
声をかけてくれた獣人にアーヴァントが質問を投げる。
「さぁ? 玉座の間にいなければお休み中かもしれないな、用があるなら玉座の間に行ってみてくださいよ」
お礼を言い、玉座の間へと向かうアーヴァント。暇なのでクロトも付いて行く。
「ヴァーミリアンに用があるのか?」
「ああ、ゴルゴンの首の扱いについて、確認しておきたい」
「ふうん? ゴルゴンの首調べたいのか?」
「いや、違う。あれは世にあってはならないものだ。ヴァーミリアン様なら破棄するとは思うが、2度と悪用できぬようにしてほしいと進言しようと思ってな」
「なるほど、、、アーヴァントのことだから、一通り調べてからとか言うと思ったが。ちょっと意外だな」
「私が興味があるのは、人々の役に立つかもしれない物だけだ。アレはどう足掻いてもろくな使い方にならん」
「確かにな」
話しながら玉座の間を覗くと、ヴァーミリアンは部下に何やら指示を出しているところだった。
指示を受けた部下が走ってゆくのを見送るヴァーミリアンがこちらに気づく。
「起きたか。よく休めたか?」
「ああ。ヴァーミリアンは休まずに?」
「もう少ししたら一度休息をとる。夜は宴会じゃ。楽しみにしていろ。。。と、そうだ、丁度いいちょっとついて来い」
ヴァーミリアンは玉座の横にある扉を滑らせ、隣の小部屋へ連れて来る。
「これの処分だが、良い方法はあるか?」
小部屋には光を失ったゴルゴンの首が無造作に転がされている。
「丁度その話をしにきたのですが、、、念のため、ヴァーミリアン様としては本当に処分で構いませんか?」
アーヴァントの真剣な問いにヴァーミリアンも目をそらさずに「当然である」と短く答えた。
「、、、分かりました。白虎王、では1つ、私に提案があります」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
クロトとアーヴァントは人気のない海岸へとてくてく歩いてきた。
あまりに自然に掴んで持っていたのですれ違う誰も気に留めることはなかったが、クロトの右手にはゴルゴンの首の半分がある。
「この辺でいいか」
潮風に頬を撫でられながら、クロトは肩をぐるぐる回す。
アーヴァントがヴァーミリアンに提案したのは「海に投げる」だった。
クロトでもそれは乱暴に過ぎるのではないかと思ったのだが
「下手に物々しく封印すれば、いずれ必ず封印を解くものが現れる。ならばいっそ、適当で誰の目にも留まらぬような場所へ捨ててしまうのが良い。例えばとんでもなく遠くまで投げることができるヤツが、海に向かって投げる、、、とかだ」
と、クロトを見ながら言った。
あ、投げるの俺?
「無論半分はクロトが海に投げ、残りはヴァーミリアン様の方でどこかの海にでも沈めていただければ、もう2度と1つの形をとることもないでしょう」
アーヴァントの話を黙って聞いていたヴァーミリアンは
「ならばいっそ、残りの半分も主らが持っていけ。この島からずっと離れた場所で投げ捨ててくれれば良い」
と、アーヴァントに任せるとゴルゴンの首を手渡した。
そんなわけで半分は遠くの海で投げ捨てるため、無限の皮袋に入れてある。
アーヴァント、忘れて放置するなよ。アメリアが皮袋を覗いたら悲鳴をあげるぞ。
しばし肩をぐるぐるして、十分にあったまったところで、念を入れてブーストもかける。
「じゃあ、投げるぞ!」
「ああ。頼む」
「そおおおおりゃああああああ!!!」
クロトの全力の投擲によって凄まじいスピードで回転しながら小さくなってゆくゴルゴンの首は、着水も見えぬほどの距離へ消えて行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あ、戻ってきた」
クロト達が部屋に戻ると、全員起床しており女子3人でお茶をしていた。
シーラはさっきからずっとお茶をしている気がする。
「どこ行ってたの?」
ジュリアの問いにアーヴァントが説明している。
クロトがアメリアの横に腰を下ろすと、
「先ほどサリナさんが来ましたよ」と言った。
なんでも先ほどの不審者を捕らえたところ、ムーンウルフの島に侵入した2人だったそうで、そのまま族長のサルートと合流。
不審者達を引き渡したり、ヴァーミリアンの元へ捕らえた二人の処遇について交渉に行ったりしていた。
「とりあえず情報は共有するという条件で、くだんの2人はムーンウルフが連れ帰ることになったみたいです」
ちなみにムーンウルフもヴァーミリアンから宴に誘われたが、サリナ達最初に合流した3人を名代として残し、他の者は早々に帰るとのこと。
「サリナさんもお爺様が帰ってしまう前に話があるとかで、またすぐに行ってしまいました」
「そうか。まぁ、サリナ達には後で会えるからいいが、あの爺さんにもお礼言っときたかったな」
「そう言うと思って、サリナさんに感謝の旨を伝えておきました」
さすがアメリア。抜け目がない。
その後は邪魔にならないように充てがわれた部屋でダラダラして、宴まで時間を潰す。
すると、外から「おひいさま! おひいさまはどちらか!!」と大声が聞こえて来た。
部屋から顔を出し「どうした?」と聞くと、家老って感じの初老の獣人が「おひいさまを見なかったか!?」とだいぶ慌てた様子で聞いて来た。
「昼過ぎは玉座の間にいたけど、その時はもう少ししたら一旦休むって言ってたぞ。で、何があったんだ?」
「獅子王様が、獅子王様の旗艦船が入港したのですじゃ!!」




