94)いつだって朝は来る
「この先が玉座だ」
ヴァーミリアンが指し示す場所には、扉が取り払われた部屋があった。
「これは、覗いた途端に石化もありえるな、、、」
「だが、このままでは中にいるかどうかも確認できん」
と、クロトとヴァーミリアンが逡巡していると、アメリアに抱かれていたフレアがヒョイっと廊下に降りた。
一寸伸びをして、クロトの足元をスタスタと通り抜ける。
「あっ、フレア! ダメだ!」シーラが声をあげるが、気にかけることなくそのまま玉座の間に入っていった。
少しして
「なんだ貴様は!」という怒号と共に、強い光が廊下にまで漏れ出した。
「ああ」動揺するシーラは今にも玉座の間に飛び込みそう。それを止めるアメリア。
「、、、取り敢えず、中にいるな。。ここに全員いてゴルゴンの首の持ち主が出てきたらまずい、一旦下がろう」
ヴァーミリアンの指揮のもと、見張りに名乗りを上げた数名の獣人を除き、玉座の間から少し離れた通路まで戻る。
と、そこにひょっこりとフレアが帰ってきた。平気そうだ。
「フレにゃん!」シーラがフレアを抱き上げる。
シーラ、、、フレにゃん呼び諦めてなかったのか、、、
と、そんなフレアの姿を見てアーヴァントがなるほどと一人妙に納得している
「フレアは生き物の枠には入っていないという事が、これではっきりしたな」
「?」ヴァーミリアンが訝しげな目線を向けるが、今説明するような話でもないのでスルー。
「とにかくフレアに石化が効かないなら、フレアに攻撃してもらっては?」
アメリアの提案にクロトが首を振る。
「目標が見えているならともかく、見えない状況じゃ難しいな。それこそただ城を燃やして終わりって可能性もある」
物騒なことを言い始めるクロトに、今度はぎょっとした目線を向けるヴァーミリアン。悪いがこちらもスルー。
「例えば俺が先に攻め入って、隙ができた所を一斉に襲うってのは? どうせ俺は戦力にはなれませんから」
「ならば俺も一緒に特攻しよう」
ここまでの道のりで深手を負ったヴァーミリアンの側近、ロクタの提案にムーンウルフのスォードも同意するが、ヴァーミリアンとサリナに「2度とそんなことを言うな」と怒られていた。
「逆に玉座の間を封印して、閉じ込めてしまうのは?」フレアを撫でながらシーラが提案する。
「長期戦を想定するなら悪くないかもしれないが、石化された者達の事を考えるとできる限り早期に決着をつけたい」
ヴァーミリアンの意見に、他の獣人の戦士も頷く。
窓から見える空は、徐々に白み始めている。
「あ。いいこと思いついた。あのなーー」
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「じゃあ、シーラ、アメリアたちの事は宜しくな」
クロトの提案した作戦のため、クロトに露払いを頼まれたサリナ、ウィルックの両名が同行。移動を開始する。
その時が来るまで他の者は待機。
特に疲労の大きなアメリアとロクタ、スォードは通路の端に座り休息を優先する。
他の者は順番で玉座の間の見張りを行っていた。
王女としては少々はしたないが、壁を背に足を投げ出す格好で呼吸を整えているアメリアの元に、ヴァーミリアンが近づいてきて、アメリアの前で片膝をつく。
「体調はどうだ?」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
「そうか。。ロクタは私の右腕と言っていい側近だ。私はアメリアに実際の腕とロクタ、2回も腕を救われたことになるな」
「行きがかり上です。お気になさらずに」
アメリアをじっと見つめていたヴァーミリアンが小さく目礼し、言葉を紡ぐ。
「恩は返す」
「いえ、別に恩義に感じていただく必要は、、、多分クロトさんもそう言うと思いますし、、、」
「先ほどシーラにも同じような事を言われた。だからアメリア。ヌシの元へきた」
「?」
「クロトに言っても同じ事を言われて終わりだろうが、アメリア、ヌシはロッセンの王女だ。”恩は必ず返す”。白虎王の言葉として、お主らが必要になった時に使って欲しい」
ヴァーミリアンの真剣な物言いに、アメリアも真面目な顔で返す。
「分かりました。白虎王ヴァーミリアン様の言葉、確かに承りました」
返事を聞いて満足そうに息を吐くヴァーミリアン。
「それで良い。さて、話は変わるが、、、気分を悪くする物言いになってしまうかもしれんが、、聞いても良いか?」
「何でしょう?」
「クロト、、、あれは一体何者だ? 亜人? そんな事であれほどの能力を持つのか? ワシはそのような話は聞いたことがない。もちろん、クロトが悪しき者だとは思っていない。感謝もしている。先ほども言った通り、何かあればワシは全面的にクロトの肩を持とう。だからこれは単純な興味じゃ」
高い戦闘能力を誇る獣人の中でも、ヴァーミリアンの精兵ともなれば、諸島屈指の実力者と言っても過言ではない。その者達が多少なりとも手こずる人造魔獣を張子の虎のように潰してみせる。ヴァーミリアンの兵たちの手前、ことさらほめそやすようなことなしなかったが、ヴァーミリアンは心の中では若干の恐怖さえ感じていた。
「うーん。ヴァーミリアン様の気持ちもわかりますが、私にもわかりません」
困った顔をするアメリアは「でも」と続ける。
「クロトさんはクロトさんです」
そう言われてしまえばヴァーミリアンも苦笑するしかない。
「そうだな、、、すまん。つまらぬ事を聞いた。さて、もうそろそろ時間だろう。アメリアたちはここでそのまま休んでいろ」
立ち上がり剣の柄に手をかける。
「ヴァーミリアン様がやらなくても良いのでは?」
アメリアの問いに、ちらりとだけ振り返り獰猛な笑い
「何、此度の件、奴らにはいいようにやられたからな。このままではワシの気が済まんのよ」
そういって颯爽と歩き出した。
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「へクション!!」
クロトがくしゃみをする。
「大丈夫ですか?」サリナに心配されるが、手で大丈夫と合図する。
それから少ししてクロト達は先ほど城内に侵入した入り口まで戻ってきていた。
そろそろ日の出なのだろう。外は随分と明るくなった。
目的地まで到着すると、クロトが屈伸を始める。
「どうかな? そろそろいいと思うか?」
「そうだな、、、こう着状態のままなら準備はできていると思うが」
ウィルックの答えに、うん。と頷くサリナ。それを見てクロトは
「じゃあ始めるか」と足元にブーストをかける。
そのまま一旦膝を曲げて身体を沈ませると、思い切り飛び上がった。
一気に3階の玉座の間の辺りまで到達すると。そのまま壁を思い切りぶん殴る!
バゴン!ベギベギバギっ!!! 爆発音に近い音とともに壁が吹き飛ぶ!
「なななななんだぁ!!」
室内から一人の男の悲鳴が響くのが聞こえた。
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玉座に座るチッカーノは、ゴルゴンの首を抱きながら
「もうすぐ援軍が来る、もうすぐ援軍が来る」と呟き続けていた。
ゴルゴンの首の使いすぎで精神を著しく疲弊させたところへ、攻め込まれるかもしれないという緊張感が上乗せされ、もはや目の焦点は合っていない。
今のチッカーノにできることは、目の前に現れたものは誰彼構わずゴルゴンの首で石化させることだけだ。
当然彼は玉座の背後になど1ミリも気を配ってなどいない。
そして、その時が来た。
バゴン!ベギベギバギっ!!! 爆発音に近い音とともに壁が吹き飛び、破片がチッカーのへと降りかかる。
「なななななんだぁ!!」
思わず背後を振り向くと、壁には大穴が空いており、そこから朝日の光がチッカーノの目に突き刺さる。
眩しさに目を細めたほんの僅かな時間
「手こずらせおって。逝ね。」
背後からヴァーミリアンの大剣が振り下ろされる。
「あ、れ?」
そんな言葉を残し、真っ二つになったチッカーノの身体は、ゴルゴンの首ととともに半分ずつ前後に倒れて動かなくなった。




