93)玉座の間
ヴァーミリアンと合流後に情報交換。
どうやらクロト達の方が騒がしかったためか、明らかにこちらに人造魔獣が偏っていたことが判明した。おかげでヴァーミリアン達はさほど人造魔獣に煩わされることはなかったそうだ。
また、クロト達が抜けて来た地下通路の出口で聞いた会話についても伝えると
「それは玉座の間だな」とヴァーミリアンが断言した。
実はクロト達が出て来た通路は、本来は玉座の間からの脱出通路だった。
正しい使い方としては、城が危なくなった時に3階の玉座の間の床から隠し階段へ。階段をおりて扉を抜けると即、クロト達が通って来た地下通路から脱出できる。
地下通路は城側からなら祠のようなカラクリはなく、地面に隠された板を開ければ通行できるとのことだ。
「隠し階段があるので、通路前の1階、2階に窓はない上、階段分の空間がある。声がはっきりと聞こえたのであれば3階の玉座の間であろう。窓もあるし、暑い季節だからな」
というのがヴァーミリアンの見解だ。じゃあ、さっきのところに戻って隠し階段から進めば不意をつけるんじゃないかと聞いたが、残念ながら隠し階段の扉は外からは開くことができない。壊せば当然、音で気付かれる。
「少なくとも先日わしが見た玉座の間にいた者達のうち4人は片付けたはずだ。残りが数名程度なら、まずは奇を衒わずに正面から様子を探ってみる方が早かろう」
ヴァーミリアンの決断によって、玉座の間へ繋がる通路を急ぐ。
防衛のため城内は複雑な通路で構成されており、2階から3階への道筋は大きく遠回りをしないとたどり着けない。
急ぎ進むと、広間に出たところで人造魔獣がたむろしており、こちらに気がつくと一斉に襲いかかって来た。
クロト達もそれぞれが戦闘体制に入ったその時である。
「おひいさま! 危ない!」
ヴァーミリアンの背後から斬りかかる凶刃! ロクタが身を呈してヴァーミリアンに覆いかぶさる。
ロクタを袈裟斬りにした人物は、ヴァーミリアンと同じ白い毛並みのティガ族の男。
倒れゆくロクタを抱きかかえながらその姿を確認したヴァーミリアンが、驚愕の色をなす。
「デラン叔父上!? 何故あなたが!?」
「ふん、青二才が余計なことをしおって、、、もう少しで打ち取れたものを、、」
デランと呼ばれた男はギラついた目で再び剣を振り上げる。
「まさか、伯父上が手引きしたのか!?」
「ふはは! 如何にも、これで私がおうざぎにっ!?」
喋っている途中でジュリアの矢が頬に直撃、ほぼ同時にアーヴァントの風魔法がデランの足元に小さな竜巻を生み出す。
横と下から異なる方向への衝撃を受けて、体をおかしな方向にねじりながら宙に浮いたデラン。
そんなデランの腰あたりに、クロトのパンチがどーん!
バキンと腰が逝った音を残して、部屋の隅まで吹っ飛び壁を半壊させながらめり込んで、そのまま装飾のように動かなくなった。
清々しい笑顔で「ふぃー」と額の汗を拭うクロト。別に汗かいてないけど。
三者三様に満足げな3人。先ほどから暗闇でチクチクとやられていたからストレスが溜まっていたのです。
手頃なのがいたのでぶっ飛ばしました。反省はしない。
唖然とするヴァーミリアン。
「あ、殺してないから心配するな。多分」
というクロトだったが
「おい! 遊んでないで交代だ! アメリアに治療をさせる!」
とシーラに怒られて、慌ててサリナ達だけで対応していた人造魔獣の相手に戻る。
入れ替わりで下がって来たアメリアとシーラ。
「先ほどもちょっと大きな怪我を治したばかりなのでどこまでできるかわかりませんが、とにかく治療してみます!」
すぐにロクタの傷の治癒に取り掛かるが、スォードの時と違い時間がかかっている。また、傷は塞がったが傷跡が残ったままだ。
「ちょっとこれ以上は一度休憩しないと厳しいかもしれません」
肩で息をしながら、申し訳なさそうに言うアメリア。
「いや、ここまで治してくれれば十分だ。アメリア、ありがとう。ロクタも、、あとは無理せずに後方に下がっておれ」
「不甲斐ないことで面目ありません」ロクタはそう言いながらも顔色は悪くない。早い治療が効を奏したようだ。
むしろアメリアの疲労の色が濃いのを見て、シーラがクロト達にも聞こえるように声を張る。
「そろそろアメリアの集中力が厳しい! 皆、治してもらうつもりで大きな怪我などするなよ!」
「了解! アメリア! しっかり休んどけ!」
元気よく返しながら、次々に人造魔獣の戦闘力を奪ってゆくクロト。
倒れた人造魔獣のトドメも効率良く行われてゆく。
「なるほど、、、このようにして、先ほどの廊下のような状況になったのか、、、」
ヴァーミリアンは妙に納得しながら、もはや作業と化した駆逐の様子を眺めていた。
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玉座の間にも下の階の騒ぎが聞こえ始める。
先ほどチッカーノと呼ばれた人間は、玉座であぐらをかき、ゴルゴンの首が入る箱を抱えながら入り口を睨む。
「どうする? ひとまず逃げるか?」
チッカーノの横には長剣を履いたツノのある剣士が立っている。
「逃げる? 何処にだ?」
おかしい。こんなはずではなかった。先ほどから何度もその思いが頭をめぐる。あの煩いラジアータが言った通り、白虎王を取り逃がしたのがケチのつき始めだ。
チッカーノの知らぬ間に参謀の席についた、カイロンとか言ういけすかない学者の指示通り動いたはずだ。
白虎王の叔父だと言うあの間抜けに王の座をチラつかせて唆し、デランの手引きでロックに上陸。
試運転も兼ねて街中でゴルゴンの首を使い、十分な効果を得て城内に侵入したまでは順調だった。
城内をほぼ制圧し、玉座の間で打ち合わせている時にヴァーミリアンが現れた。
チッカーノは認めようとしないが、彼はこの時焦ってしまった。本来であれば玉座の間にヴァーミリアンが完全に入るまで待たねばならなかったのだ。
そしてヴァーミリアンを取り逃がした。
チッカーノが彼の方から命じられたのは4つ。
1つはロック島の制圧。これは途中までは上手く行った。
2つ目はヴァーミリアンの確保。
3つ目はピラミッドの封印の破壊。これはあのアホどもが失敗をした。
そして4つ目は、、、
「そろそろ来るが?」
チッカーノの思考を剣士が乱す。
「う、煩い、今考えている」
「ほう。だがもう時間がないな。私は脱出する。あとは任せるぞ」
「何を言っている!? 逃げるならおれも連れてゆけ!」
「誤解するな、逃げるのではない、脱出して応援を呼んで来るのだ。お前はゴルゴンの首がある限りやられることはないだろう?」
「それもそうか、、、なら早く行ってくれ。」
「ああ。待っていろ」
そう言って玉座の間を出ると、喧騒に背を向けて歩き出す。
「あの程度の言い訳で信用するとは、、やはり呪具にはそれなりのリスクが伴うか。。。もはやまともな判断はできぬようだな。ゴルゴンの首は少々惜しいが、、まぁ、カイロンにみやげ話もできた。ここまでだろう」
剣士はひとり呟きながら行き止まりの壁にすっと手を向けると、壁はいくつもの切れ目が入って砕け、外への道を開ける。
3階から気にすることもなく外へと歩き出す。
音もなく降り立った先にはムーンウルフが立っていたが、気づかれることなくその横を悠々と歩き、城外へと消えていった。




