92)月の消えた夜に
「お爺、、、なんで?」
へたり込んでしまったサリナを起こしてやりながら、サルートは渋い顔で言う
「別に白虎王の手伝いにきた訳ではないわ、ピラミッドに忍び込んだ不埒者を追いかけてきたまでよ」
実はサリナ達が出発した後、援軍反対派からは「今回の様なおかしな者が入り込まぬ様に、警備を厳重にするべきでは」といった声が上がり、いい機会だからと周辺の警備強化を行なっていたらしい。
そのうちの一人が、森の中で何者かが潜んでいた跡を発見したのが夕方のこと。
その後、念のため普段はあまり立ち入らぬ様にしているピラミッド内部まで調べたところ、中に不審者がいるのが見つかった。
不審者は警備のムーンウルフの隙をついて逃走。
周囲は大騒ぎとなり、援軍の説得をしていた者達も巻き込んでの島の大捜索が行われることとなった。
捜索は翌日の昼過ぎ、つまりサリナが浜辺で待っていた時間まで続き、崖下に隠してあった船で逃げ出すところを発見。
数人が小船で追いかけ、ロック島へ入っていったのを確認。
小船で追いかけた者達の報告を待って、族長サルートの指揮のもとムーンウルフの戦士がロック島に出航したのだった。
「来てしまったものが仕方がない。我らの目的の不埒者を捕らえるためじゃが、通りがかりに悪しきものがおれば、ついでに片付けてやるわい」
「お爺、、ありがとう」
「ふん、さっきも言ったが戦い方がなっとらん、帰ったら説教じゃ。まぁ、身体が無事なら良い。とっととお主はお主の役割を果たしてこんか」
「うん、分かった。行ってくる」
クロト達の元へと急ぐ孫娘を見送ると、サルートは再び気配を消して闇夜に溶けていった。
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先行していたクロト達は、人造魔獣を叩きながら暗闇から飛んでくる弓矢の対策に追われていた。
クロト達がいるのは庭に面した通路だ。人造魔獣を片付けながら進もうとすると、外の闇から矢が飛んで来てうざい。
中々の強弓でシーラのシールドにもそれなりの打撃を与えて来る。
突き刺さった板塀が弾け飛ぶため、近くに着弾するだけで厄介だ。
ジュリアが応射するも、敵の位置がわからず当たる気配がない。
そうこうしているうちに人造魔獣が続々と集まってくる。
人造魔獣はクロトが殴りつけ、転がして、シーラとアーヴァントがトドメを刺す。
ジュリアは何とか狙撃者を探そうとするが、先ほどから何故か徐々に暗くなっている様に感じ、庭の様子はわかりにくくなるばかり。
フレアを使って炎であぶり出す方法も考える。
だがクロトの意識が人造魔獣から逸れることと、建物が木造であることからこの場でフレアによる無差別攻撃は憚られた。
「もー!! フェザーアロー!!」
しびれを切らしたジュリアが庭へ絨毯爆撃を開始するも、一時は静かになるものの、再びどこからか弓矢が飛んでくる。
「このままでは全然進めんな!」人造魔獣の首を撥ねながらシーラも少々苛立った声をあげた。
と、庭に向かって矢を放っていたジュリアが「あれ? お月様が?」と言った時、庭は完全な暗闇に閉ざされる。
「何だ?」
「ああ、これは、、、」クロトの疑問にアーヴァントが何か答えようとした時、「ぐあああっ!!」暗闇の中から悲鳴が響いた。
そして弓による攻撃が止まる。
人造魔獣をあしらいながら何事かと庭先に注意を向けると、暗闇から現れた影はムーンウルフのシルエット。
「サリナさん?」アメリアの声より先に、通路の松明は別の人物を浮かび上がらせる。
「助力が遅れてすまない。ここからは我々も力添えしよう。詳しくはそろそろサリナが追いかけてくるだろうから、そちらに聞いてくれ」
弓を持ったまま気絶している獣人をクロトの足元に投げ、声の主は他の影と共に闇に溶け消えた。
呆気にとられつつ、だいぶ数が減ってきた人造魔獣を片付けながら、シーラが弓の持ち主を近くの柱へ縛り上げる。
そうこうしているうちに「クロト!」と、サリナ達3人が走り寄ってきた。
「皆さん! 怪我が!」
アメリアがまずは治療と3人を呼び寄せる。
「サリナ! 詳しい話は後。もうちょっとでこいつら片付くから、それまでにアメリアに治療してもらえ!」
暗闇からの射撃が無くなったことで、人造魔獣を効率よく次々に叩いてゆくパーティー。
それを見て、言葉に甘えアメリアに治療をお願いする。特に「傷は深くない」と強がっていたスォードだが、明るいところで見ると、結構なダメージだ。ウィルックに支えられないと立っているのもきびしい状態だった。
シーラがシールドに専念し、スォードの治療が開始される、輝く癒しの腕輪に呼応する様に傷がみるみる塞がってゆく。
その様子を見て目を丸くするサリナとウィルック。
「、、、アメリアは伝説の天女なのか?」
「違います」即座に否定しながら治療を進めるアメリア。
少しして、「これで大丈夫だと思いますが、流れた血は補填というわけには行きません。スォードさんはこれ以上無理をしてはいけません!」と怒った顔でスォードを指差すアメリア。
スォードとしては、ある程度死も覚悟していたのであろう、治ってしまった傷跡を見ながら「あ、はい」と、気圧される様に返事をする。
「さぁ、残りのお二人も急いで治療しますので!」
想像の遥か上の出来事に当惑しつつも、サリナとウィルックは大人しく言われた通りにするのだった。
そうして治療が終わった頃
「よっし。とりあえず片付いたな」とクロトが拳をぶるんと振って返り血を飛ばす。
気がつけば廊下にはおびただしい数の人造魔獣だったものが転がっていた。
「すごいな、、、これ、すべてクロト達が、、、?」
「まぁ、動きが単調だからな。装甲も思ったほどじゃないし。それよりもさっき別のムーンウルフ達が来たぞ」
「ああ。実はー」
サリナがムーンウルフの島で起きた出来事や、ここに至る経緯を説明する。
「へえ。まぁ何にせよ来てくれて助かったな。まさかサルートも来るとは思わなかったが」
小休止も兼ね、人造魔獣を椅子がわりにサリナの話を聞いていると、
「クロト! 無事だったか!」と反対側の通路を走って来るヴァーミリアンの姿が見えた。
「おー、ヴァーミリアン達も元気そうだな! そっちはどうだった?」
「ああ、城に入ってすぐに2人の人族が襲ってきて、1人は倒した。しかし残りがおかしな術を使う奴でな、随分と翻弄されていたのだが、、、急に暗くなったと思ったらムーンウルフが現れて助けてくれた。サリナ、ありがとう」
「いや、、、私は何も、、」と、先ほどの話を繰り返し説明する。
「そうか、ピラミッドに何の用があったのか気になるが、とにかくその不審者を捉えて吐かせるしかなかろうな」
そこで廊下の有様を見渡しながら、ヴァーミリアンは呆れた声で「クロト、、、これは全てお前達がやったのか?」と聞いてきた。
「まぁ、動きが単調だからな。装甲も思ったほどじゃないし」と先ほどサリナに言ったことと同じ言葉を投げる。
すると、ヴァーミリアンの後ろに控えていた側近のロクタとヘクトが
「おい、動き単調だったか?」
「いや、不意打ちならともかく、気付かれてからは結構機敏だった、、、それより装甲、それほどでもなかったか?」
「そんなわけないだろ、背中とかめちゃくちゃ硬かったぞ、、、」
と、ボソボソと会話をしながら、クロト達をチラチラと見つめるのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
昨日後書きに書いたペンネームの件、「尋下よだか」にしようかなと思っています。
100越えても変わってなかったら、気まぐれとお思いください




