78)ささやかな祝杯
「それじゃあ! 妹よ! くれぐれも気をつけて旅するのだぞ! 私の戴冠式には立ち寄るだけでもいいから皆で必ず帰ってくるように!」
連合議会が終わるとすぐにゲラントとバーンの2人は帰国するという。
これから戴冠式まで待ったなしで準備をしなければならないので、本当に暇がないのだそう。
「私もこれで失礼させていただく。君達は諸島へ向かうらしいな、いずれ是非マーロウにも立ち寄ってくれ。歓迎しよう」
イグナシアも取り急ぎダスクを追いかけてきての参加だったので、仕事をほっぽったままだそうで、踵を返すと颯爽と立ち去っていった。
ちなみにクートは1月ほど滞在して、連合議会のありようなどについて勉強するとのこと。
「ジュリア達が出発するときは、エルトラで盛大な送迎会をするから出席してほしいのだ!」
とのことで、今回はジュリアも「いー」ってしなかったので、ありがたくお呼ばれすることにした。
そうしてようやく解散となり、パーティ達だけで部屋に戻ってきて、それぞれ思い思いに一息つく。
「いやー緊張した」
クロトがつぶやくと、アメリアがクスッと笑った。
「クロトさんでも緊張するのですね」
「そりゃあ、するよ。ファウザ王と謁見した時も結構緊張したぞ」
某国の王には、、、、まあいいか。
「まぁ、概ね我々の話に耳を傾けてもらえてよかった」
シーラが皆に紅茶を渡しながら会話に参加する。
「あー、ランカータの大使とか最後反対するんじゃないかってハラハラしたぞ」
「いえ、おそらくランカータ大使も落とし所は分かっていてあんな話をしていたように思います。狙いはわかりませんでしたが」
「あれ、フリなのか。おっかねえ」
「バルゲドの大使なんて海千山千の方しかなりませんので。ただ、そうですね、やはりランカータは他国よりも危機感の伝わり度合いは低くなるかもしれません。こればかりはどうしようもない事ですが」
そうは言いつつも、心配していた事を各国が共有してくれたという事実に、アメリアは肩の荷が下りた顔をしている。
「正直今の大使の面々は比較的穏当な方だと思うよ」
とシーラも言う。なんでも大使の噛み合わせ次第では、何が議題でも喧々囂々となる時もあるらしい。そのため大使の任期は国によって1年ずつズレて、任期は5年。1年以上同じ顔合わせにならないための決まりなのだとか。
「しかし、ファウザから1ヶ月にも及ぶ懸念事項に進展があったのだ、難事が去った訳ではないが、今日はささやかでも祝杯をあげないか?」
カップを傾けながらアーヴァントが提案する。普段あまり酒を飲むとは言わないアーヴァントだが、証言者としては唯一のファウザからの参席。やはり彼なりにプレッシャーもあったのだろう。
全員が賛成したので、今日は街で祝杯だ!
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夕方、それぞれに準備を整え街に繰り出した。
初日にも思ったが、港町特有とでも言うべきか、全体的に大きな声が飛び交っており独特な活気が街を覆っている。
「なんて店だったっけ?」
パーティの面倒を見てくれている執事さんにオススメのお店を聞いたところ「灯台亭」と言う店を紹介された。
目ぬき通りから一本入ったところにあり、観光客はあまり訪れず落ち着いて食事ができる。
街の人間もちょっとしたお祝い事に使う、知る人ぞ知る名店なのだそう。
ちなみにこの執事さん、連合議会中はフレアの面倒を見てくれていた。家でも猫を飼っているそうで、フレアも随分なついていたので、今回もお願いしている。フレア、猫じゃないけどね。
灯台亭は見た感じこじんまりとした店構だったが、奥に長く伸びていて2階にも個室があった。
執事さんが気を利かせて予約してくれていたので、すぐに2階の一番奥の個室に通された。
メニューはやはり海鮮系がメイン。自慢はエビ料理。そういえばゲラントとの晩餐でもエビが出てきたので、街の自慢がエビ料理なのかな。
アメリアとジュリアは果実水。他はアルコールが行き渡り、乾杯!
シンプルながら塩加減と焼き加減が絶妙な、小ぶりな海老の丸焼きを殻ごとバリバリと食べる。
”ボブロ”と言う聞きなれない白身魚を甘辛く煮付けた料理はジュリアに刺さったようで、夢中でつついている。
アーヴァントはスープの出汁についてあれこれ想像を巡らせているよう。
しばし食と酒を堪能してからアーヴァントがおもむろに口を開く。
「さて、連合議会は無事に終わり、諸島へ向かうことは決定しているが、いつ頃の出発とするのだ?」
「そうだなぁ。俺は別に明日でもいいんだが、そういえばクートと夕飯食う約束したんだっけか?」
「船のチケットの手配がいるから、明日は無理だな」そう言ってグラスを傾けるシーラ。アルコールを入れてもあんまり顔に出ないタイプなのか、平常運転。
「そうなのか?」
「いや、なんでも良ければ見つからないこともないだろうが、船が初めての人間もいるから。なるべく大きくて安定した船がいいと思うのだよ」
湖や川を除けば、船に乗ったことがないのはクロトとアーヴァント。ジュリアはエルフの里から出た時一回のみ。シーラも数える程とのこと。
「じゃあ、一番乗り慣れているのはアメリアか?」
何か果物っぽいソースがかかっているイカを、一口大にして黙々と口に運んでいるアメリアが、しばらくもぐもぐした後、ふるふると首をふる。
「私も初めてです。獣人の皆さんをロッセンでお出迎えしたことは何度もありますが、こちらから出向く時は連れて行ってもらったことないのですよね」
「と言うわけで、ほぼ全員が素人といっていいから、明日にでも私が手頃な船便を探してくるよ」
「あ、それならみんなで行きませんか? せっかくだし、港を見て回りましょうよ」
「うん! ボクも見に行きたい!」
「図書館に行きたい気持ちもあるが、、、万が一エルフの里の情報を手に入れる可能性もあるかもしれんな」
「よし、じゃあ明日はみんなで港見学だな。そんで、船便の日程で出発日としよう」
クロトがまとめて、その日の夜はまったりと料理を堪能しながら過ぎてゆくのだった。




