61)メーリアーナ派
「ほんじゃま、気をつけて」
やたら軽い挨拶のブックと、感謝しきりの国境警備兵に見送られ俺たちはマルメに入国した。
「壁を超えたら別世界、、、ってわけじゃあないんだな」
「それはそうだろ。壁なんて人間が勝手に作ったものだ。さらに東には砂の国などもあるがな。さ、先を急ごう」
入国後の風景を見たクロトの感想に、シーラが促す。
バルボアの件などもありなんだかんだともう夕刻に近い時間だったので、近くの街でひとまず一泊することとなった。
宿でクロトの地図を広げ、今後のルートを相談。
「王都マーロウには立ち寄らない?」
姉もいるはずのマーロウに立ち寄らないと言い始めたアメリアに、ほかの面々が訝しげに問う。
「はい。姉様には会いたい気持ちはあるのですが、必要がなければ立ち寄らないほうがいいかと」
「ほう? その言い方だと何か理由があるのだな」アーヴァントが興味を惹かれたようだ。
「マルメは多種族への忌避感の強い方が比較的多い国です。特にマーロウは獣人の商人なども下に見ている事があります。なので、場合によってはクロトさんやジュリアちゃんが嫌な思いをすることがあるかも知れません」
「王都に住まう全員ではないが、マーロウを中心にマルメには初代女王を信奉するメーリアーナ派というのがいてな、こいつらは大陸の中央にある我らこそが大陸を支配するべき民族だと思っているらしい」とシーラが補足。
「王族でもあのダメな五男などは選民意識が強くて鼻持ちならない感じですし。。。他の王族の方は良い方も多いのですが。。。」
嫌なものを思い出したとでも言いたげに眉根を寄せるアメリア。
「ああ、アメリアが引っ叩いた、例のダメ五男な」シーラが笑いながら言った。
なにそれ気になる。皆の興味に応えるようにシーラが続ける。
「元々マルメとの婚約の話は、アメリアに持ち込まれたのだ。その相手がマルメ王家五男のダスク。こいつがなかなかのクズでな、アメリアにもメーリアーナ派の選ばれし俺が嫁に取ってやるのでありがたく思えって感じでやって来たんだ。そんでアメリアが引っ叩いた」
「へえ。そのダスクとかいう奴が悪いのは分かるが、そんなことして大丈夫だったのか」
クロトでも王国間のやり取りで引っ叩くのはまずそうだとは思う。
「アメリア以外にもそんな風だったからな。マルメ王家もそんな態度に出るとは想像もしていなかったらしく即、強制送還だ。代わりに慌ててやって来たのがクレア様の夫になるクード様だな。この件に関してはマルメが全面的に悪いと認めたので、ロッセンも拳を下ろしたといった所だ」
「もう! みんなの前で他国の王子を叩いたなんて、恥ずかしい話を!」アメリアは真っ赤になってシーラをポカポカ叩いていた。
そうして一旦、コホンと切り替えてから
「メーリアーナ派ほどではありませんが、ロッセンやファウザ以外の王国は魔族の商人の往来もほとんどありません。わからない相手を何と無く恐れて、不快な対応をされることはあるかもです。ジュリアちゃんもあんまり気にしないでね」
「わからない相手に恐怖と警戒を持つのは人に限ったことではない。いちいち気にしていたらキリがないぞ」
アーヴァントらしいコメントながら、手はジュリアの頭を撫でている辺り気遣っているのだろう。
「ボク、そんなに気にしないから大丈夫だよ」というジュリアだったが、基本的にジュリアに対して過保護なパーティである。アメリアがそれでいいというのであれば、今回はマーロウには立ち寄らないということで決まった。
「逆にクロトさんやジュリアちゃんに見てもらいたいのは、大陸最大の河川”ブープール”です」
話題を変えてとりわけ明るい声で、クロトの地図を指差すアメリア。
「ああ、ブープールは一度見ておいたほうがいいな」アーヴァントも同意を示す。
ブープールは東の山を源流としてマルメ国内を舐めるようにぐるりと進み、バルゲドの東から海へと流れ込む。
「一度東に向かう必要がありますが、川沿いに進めばバルゲドにもたどり着けます。最悪なんらかの足止めがあってバルゲドへの到着が遅れそうな時は馬を置いて、船で進む方法も取れますよ」
そういうことであれば特に反対する理由もない。
アメリアの予想では真っ直ぐ向かうルートと1〜2日しか違わないとのこと。それでも連合議会に出るまでには一週間以上余裕があるのでなんの問題もない。
そんなわけで翌日からは北東へブープールを目指して進むことになった。
翌朝は晴天。入国当初は違いを感じなかったマルメだが、はるか東にずっと稜線が続いているのがうっすらと見え、両サイドを山々に挟まれた国である事が分かる。
「だからこそ、国境を壁にする事ができたんだ」とはアーヴァント。
なるほど。
「距離があるのでそれほど大きく見えませんが、向こうに見える山脈はかなりの高さの山々なんですよ」
とアメリアが付け加えてくれる。また、ロッセンやファウザに比べて森が少ないのも大きな特徴とも。
ぽつん、ぽつんと田畑や建物が点在する草原を走るエル・ポーロの面々。
今日のフレアはアーヴァントの馬の上で丸くなっており、気分によって乗る馬を決めているみたい。
パーティーも猫として扱ってはいるが、そもそも猫ではない。しかし行動パターンはまるで猫のそれなので謎は深まるばかりである。
変化の乏しい風景に益体もない事を考えながら進んでいくと、先の方から太陽を反射しキラキラ光る水面が見え始めた。
まだ河口までは随分あるはずなのに、すでに対岸まで渡るには船が必要なほどに豊かな水量の河。
ゆったりと流れる水面に時折魚が跳ねるのが見えて、この河がもたらす豊かな恵みを象徴しているようだ。
「クロトと一緒に旅をしていると、こんな時に限ってなにか起きるのだよな」
河の流れに歩調を合わせるように進んでいくと、シーラが不穏なことを言う。
失礼なことを言うなとクロトが抗議の声を上げようとした時、向こうの方から叫び声が!
「助けて! 誰か助けてえええ!!」
「ほらな」と苦笑するシーラに目で合図しながら、馬の腹に力を込めて速度を上げた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
連合議会編、開始します。




