60)国境の魔鳥
道の先に見えてきた山裾から伸びる壁は、反対側にもずっと続いている。
「これが国境か」
カナザを出立してから5日目。珍しく(?)予定通り行程を進み、昼食前にはマルメとの国境に着いた。
クロトにとって、書物で読んだいわゆる”国境”というものを見るのは初めてである。
「実は壁のある国境はマルメと各国の間だけなんですけどね。マルメは他の4王国全てに面しているので、昔から他の国より警戒心が強かったみたいです。よく物語なんかで取り上げられるので、国境といえば壁って印象が強い方が多いみたいですけど」
アメリアの説明を聞きながら馬の脚を進めると、国境前の人だかりが見えてきた。
国境は2つの門があり、左は列をなし、右からはポツポツとマルメから人が入ってくる。
左が出国用。右が入国用ということなのだろう。
「しかし混み合っているな。特に祭りなどもない今の時期はこれほど混むことはないと思うが、、」
少々確認してくるので並んで待っていろと先行するアーヴァント。クロトたちは大人しく列に並んだ。
少ししてアーヴァントが戻ってくる。
「原因がわかったぞ。昨日、一昨日と魔鳥が国境に来たらしい」
アーヴァントによると、魔鳥は中型で黒い羽が特徴のバルボアという鳥。
光っているものを集めたがる習性があり、輝くものを発見すると遠くからでも飛んできて取って行ってしまう迷惑な鳥である。
基本的には臆病な鳥なので、必要以上に刺激しなければ適当にあしらうことも難しくないが、子育て期や群れでいるときは注意が必要。
1羽が興奮状態になるとそれが伝播して襲いかかってくることがあるのだそうだ。
一昨日国境付近に現れたのは運悪くバルボアの群れ。国境には商品を山積みにした商人も数多く訪れる。
たまたま光の加減で商品の一つが光ったのだろう。それがバルボアの目にとまりこの場所で混戦となった。
平時の国境警備の兵士はそれほど多くない。国境の審査は一旦中止となりバルボアの対策に追われたのだ。
バルボアは昨日も再度群れで襲来。同じく国境審査を取りやめて対策に追われたため、実質2日間入出国の審査ができていないのだそうだ。
「なるほど、それで3日分の出国希望者で混雑していると」
「今日は近隣の警備兵を掻き集め、マルメ側の兵にも協力を仰いでバルボアに当たるらしいので、安心してくれとのことだ」
話しているうちにも、ゆっくりだが列が進んでいく。
しかし直後に「来たぞ! 魔鳥だ!!」という声が響いた。
声のした南の空から黒い塊が飛んでくるのが見える。50羽程度はいるだろうか。それなりに大きな鳥なので結構な迫力がある。
兵たちが集まって来て、弓や杖をかざすが、バルボアは巧みにかわし大した効果が得られない。
バルボアの勢いに押されて逃げ惑う商人や旅人も多くあり、早々に周辺は混乱の様相をきたし始めた。
「このままじゃラチがあかないな。ジュリア、いい機会だ。練習の成果を試してはどうだ?」
アーヴァントの提案に「任せて!」と、いそいそと弓を取り出すジュリア。
弓を引き絞ると緑に輝く矢が浮かび始める。光に反応した1羽のボルボアがジュリアに興味を示す。
「いけっ!!」解き放たれた矢は以前とは異なり、頂点に達するまでにいくつもの羽のような形状に変化、さらにボルボア1羽1羽に正確に突き刺さっていく。
一射で1/3のバルボアが何らかのダメージを受け、中にはそのまま落下を始める個体もあった。
間髪入れずに放たれる二射、三射によって瞬く間に数を減らしていくバルボア。
気がつけば最後の1羽になったバルボアの頭を正確に射抜き、「よしっ」とガッツポーズするジュリア。
え? 控えめに言って凄くない?
「ぼうっとするな! 落ちた鳥にとどめを!」
シーラの騎士らしい怒声に、呆然と見ていた兵たちが慌てて地面でのたうっているバルボアに駆け寄っていく。
そこでようやく何が起きたかわかっていなかった入国待ちの人々から、徐々に歓声と拍手が起こる。
照れながらも弓を掲げてポーズをとるジュリア。
「すごいなジュリア」クロトが声をかけると「アーヴァントさんとずっとコントロールの練習してたから!」
コントロール云々の話なのか? 話なのかもな。
その後。兵たちがバルボアの片付けをしているのを見ながら、入国待ちの人からお礼にお菓子をもらったりしていると
「おっ、追いついた! 良かった!」
聞き慣れた声が後ろから飛んで来た。見ればブックがこちらに駆け寄ってくる。
「いやー、多分間に合うとは思っていましたが、無駄にならなくてよかった」
わざわざ馬を飛ばして見送りに来てくれたのかと思えば、そうでもないらしい。
「ちょっと連絡事項があるんで」と、近くでバルボアの処理をしていた兵士を呼んで代わりに並んでおくように頼み、クロトたちを列から連れ出す。
行列に会話が届かないところまで来てから、珍しく真剣な顔をして
「アーミーアントの召喚を狙ったと思われる、魔法陣らしきものが見つかりました」と言った。
ざわつく面々。
「ただ、安心してください。どうも途中で破棄された形跡があり、召喚の危険はありません」
「途中で破棄されているということは、、、」アメリアが呟く
「そうです。遺跡の時のように破壊して隠蔽する時間もなかったとすれば、逃走中のカイロンが関わっていた可能性が高いと思われます」
引き続きカイロンを捜索中であるが、直近でアーミーアントの襲撃の可能性は大きく減ったとのこと。
アメリアがほっと息をつく。心配していたもんな。
出国前に少しでも懸念を減らしてやろうというパールの心遣いで、ブックがここまで派遣されたそうだ。
「まぁそんなわけなんで、後のことは気にせずに連合議会に向かってくださいよ。。。ところで、、、また何かあったんですか?」
バルボアの件をブックに話しながら、列へと戻った。
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ブック達の注意がバルボアに向かっていた頃。
国境の入出国場から離れた林に潜む3人の男がいた。
「そろそろ喚んだバルボアが向かった頃だ。これで3日目。兵達の意識がバルボアに向かい切っている頃合いだな。いくぞ」
「こんな日中に大丈夫でしょうか、、、」学者然とした男が不安そうに言う。
「ふん、日中だからこそ裏をかけるのだ」
林から連れ出して来たイエロードラゴンにまたがる騎士風の男。
「そんなことよりも、騎乗に慣れていないお前達は振り落とされないことだけ気にしておけ」
と、イエロードラゴンの手綱を握る。慌てて騎士の後ろに乗り込む2人。
「今回は失敗だったが、まあいい。。。。。次だ」
男達は人知れず国境の壁を飛び越えてゆくのだった。
ご一読いただき、ありがとうございます。
ファウザ編、終了。新章突入となります。またよろしくお願いします。




