53)クロトは練習をする
気がつくと実戦場の隅に寝かされ、アメリアが心配そうに膝枕をしてくれていた。
シーラとジュリア、ついでにブックはアーヴァントに何やら指導を受けているようだった。
「大丈夫ですか?」アメリアが覗き込む。小さな顔が近くにあってドキッとするな。
「すまん。ありがとう。もう大丈夫だ」と、少し勿体無い気もしたが、膝枕から離れ地べたに座る。
そうして何があったのか聞くと、的に拳を当てた瞬間に、爆発でふき飛ばされたとのこと。
「一応、擦り傷や壁にぶつかった時のたんこぶは治しましたが、他にどこかおかしい所はありませんか?」
アメリアが心配そうに聞いてくる。肩を回したり両手をグッパーしてみるが、特に痛みがある所はないようだ。
「ありがとう。大丈夫そうだ。アメリアがいて良かったよ」
クロトが素直に謝辞を伝えると、両手を頬に当てて照れながらも嬉しそうなアメリア。
「あ、クロトお兄ちゃん起きた!」と、最初に気がついたジュリアが駆け寄ってくる。
そこで一旦休憩となったのだろう、全員がこちらへやってきて、それぞれに体を気遣う言葉を投げてくる。
「アーヴァント、手甲の能力はあの爆発なのか?」
「いや、最初に言ったろう、君は燃料が混在していると考えていると。多分、ちゃんとコントロールせずに法術を使おうとすれば、オベリアの砦で発生したと言う大爆発が発生するのだろうと思った。実際に見たかったのでな。おかげでいいものが見られた。今回の爆発と蒼月の手甲の能力は関係ないな」
こいつ、、、興味本位だけで動いてやがるっ、、、
「まぁ、最初はとにかく小さく力を使うための訓練をする。その過程で2つのエネルギーを融合するバランスを、自分の中で覚えていくんだな。技や手甲の能力はそれからだ。それまでは一旦手甲を外しておけ。ついでに貸せ。特性について文献にないか調べてやろう」
ブレない姿勢にもはや怒りよりも感心が先に立つレベル。
恐るべき男だ。アーヴァント。
「クロトお兄ちゃん、僕、魔法使えるみたい!」
ジュリアが嬉しそうに弓を持った手を掲げる。
「へえ、適性があったのか。良かったな」
「魔法を使えると言うか、もうすでに使えていたと言う方が正しい。試しに私がこの弓で何発か放ってみたが、空気の矢を尖らせたり、平にさせたりはできなかった。おそらく、空気の矢を魔力で加工しているのだろう。ガルーダは空を飛ぶ種族だからな。風属性への適性が高いのだろう。慣れてくれば矢以外の形でも放つことができるようになるはずだ」
えっへんと胸を張るジュリアの頭を撫でてやる。
「とりあえずは2人も、小さくてもしっかりと術を使うイメージをきちんと定着させることだ。4〜5日はかかるだろうが基礎は大事だ。丁寧にやれ」
というわけで、ようやく本格的に法術、もとい黒術の訓練が始まった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
術の修練中の寝泊まりはリヴィア姫が手配してくれた。というか、ロッセンに続き再びの貴賓室の開放だった。
王族クラスに中途半端に遠慮するとかえって大事になるとのアメリアの弁により、遠慮なく使わせてもらうことになった。
3日目の修練を終えた夕刻。折角なので街を見て回りましょうとのアメリアの提案により、夕食は街で摂ることにし、その旨執事さんに伝える。
ガノーは巨大な山の中心をくり抜いたような場所にある街だ。街に出るとやはり最初に目が向くのは四方を囲む山の内壁。
街の規模はロッセンの王都と遜色ないので圧迫感を感じることはないが、圧巻であることは確かだ。
中天には徐々に星が輝き始めており、大きく丸くくり抜かれた窓から星を見ているようで面白い。
「クロトさん、この街と王都バルデの大きな違いって分かりますか?」
「違い?」
「はい。バルデにはあって、ガノーではほとんど見かけないものがあります」
言われて街を見渡すも、パッと見てわかるような違いは見受けられない。
「ジュリアちゃんは分かる? って言っても、バルデを知らないか。あ、でもアルルでも同じ違いがあるわよ」
アメリアはジュリアにも水を向ける。
「うーん。。。屋台がない?」
確かに見渡すと屋台の出店がない。
「あ、すごい惜しい。ほぼ当たりと言ってもいいかな。正解は、木の建物がほぼないでした」
「本当だ、あらためてみると全て石の建物ばかりだな。ああ、なるほど、火事か」
「クロトさん鋭い。そうです。周囲を内壁に囲われているので、火事の時に火が回り易いのです。なので燃えやすい木の建物は立てることができません。防衛能力の高いガノーの唯一と言っていい弱点ですね」
とはいえ、法術の都ガノー。石でできた櫓のような街灯があり、炎ではない明かりが煌々と輝いているので夜でも薄暗さは感じない。
「これはガノーが誇る太陽の玉です。宝具のカケラを加工して日中に太陽の光をため込めるようにしているそうです。ロッセンでもいくつか譲り受けていますが、積極的に国外に輸出するほど大量生産できるものではないそうで、これもガノーならではの風景ですね」
城の執事さんに聞いたオススメの店は、ガノーの近くにある湖で獲れる、大きなヒメマスの蒸し焼きが名物だった。
ホロリと柔らかい白身は、蒸し焼きの際に敷かれた葉っぱから清涼な香りが移り食欲を促進する。
塩加減も絶妙で少し多いかと思ったジュリアでさえペロリと一匹平らげていた。
その帰り、気づいたのはシーラだ。
「クロト、あの男、ガノーに入る時に揉めた奴らの一人じゃないか?」
言われた方を見ると人通りのない街灯の下に、確かに池へとポイした男の一人がいた。
しかも何やら動きが怪しい。キョロキョロして落ち着きがない。
と、その男の上、街灯の灯りあたりで黒い影が動いたかと思うと、太陽の玉を取り外して懐に入れた。
男たちはそのまま逃げ去ろうとする。
「追うぞ!」「ああ!」
クロトとシーラが駆ければ男たちとの距離を詰めるのは一瞬である。
「止まれ!」シーラの呼びかけに振り向きギョッとした表情で速度を早めようとする男らだったが、時すでに遅し。
シーラに気を取られた隙に男たちの眼前には先回りしたクロトが両手を水平にして待ち構えていた。
吸い込まれるように腕に激突、ラリアットの形となって「グエっ」という声とともに地面に叩きつけられる。
「なんだこいつら」
「見たまま、太陽の玉を盗もうとしたんだろうな。ガノー以外では珍しいものだから闇市場で高く売れると聞いたことがある」
シーラが懐から出した紐で男たちを縛り上げる。
用意がいいなと伝えると、クロトと同行し始めてから常に持っているという。ふうん。
「君たち! 大丈夫か!」
アメリアたちが呼んでくれた衛兵がやってきたので、そのまま男たちを引き渡す。
入り口で一悶着あったことと、その時に4人組だったので少なくとも後2人共犯者がいると伝える。
お礼のため、住まいか滞在先を教えて欲しいとことだったが、クロトの名前を名乗り、第二騎士団の副長のブックに聞けば分かると伝えてその場を後にした。
翌朝、ブックがやってきて
「もうおとなしくしてもらうのは諦めたので、せめて悪さだけはしないでください」
とだけ言って、帰った。




