54)ジュリアの魔法
「解せぬ」
アーヴァントの元、基礎訓練の5日目。クロトは順調に小さな炎を手のひらに安定させることができた。
それに関しては良い。問題はジュリアだ。
同じく基礎訓練を始めたジュリアであるが、3日目にはアーヴァントよりお墨付きをもらい、本日、すでにしてオリジナルな矢の創生に成功していた。
一回り近い年の差があるジュリアに圧倒的な差をつけられたクロトとしては、焦る気持ちが溢れ出んばかりだったが、それこそ一回り近く年の差があるジュリアに嫉妬するのも大人気ないので表向きは「すごいなージュリア」と、余裕を見せていた。
なので、先般のつぶやきは誰にも聞かれていないであろう実戦場の隅っこでの発言である。
「ジュリアちゃんは若いですから、飲み込みが早いんだと思いますよ」
ゆえに、アメリアに後ろから声をかけられた際は飛び上がらんほど驚いた。
「うおっ、アメリア!? いつの間にそこに!?」
「あ、驚かせてしまいましたか? すみません。クロトさんがなんだかしょんぼりしているように見えたので、声をかけようかと、、、」
「イヤゼンゼンオドロイテナイヨ」
「なんか動きがカクカクしていますよ、クロトさん」
アメリアにクスクスと笑われて、なんだか焦ってもしょうがないなという気分になってきた。
なんとなくアメリアの頭を撫でると、「ひゃうっ、なんですか急に!?」と顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
いい気分転換にもなったので、再び小さな炎を出す訓練に戻る。
そこにアーヴァントがやってきて「そろそろ良いか。ざっくりとでも感覚をつかんだか?」と聞いてきた。
「うーん、コツをつかんだかと言われれば、まだなんとも言えないが、炎を出すイメージっていうのは何と無くわかった気がする」
「そうか、ならば十分だ。そろそろ次の段階へ進むぞ」
ジュリアに置いて行かれていたので、これは素直に嬉しかった。
とはいえ、すぐに技をという訳にはいかない。ここからは徐々に出力を上げて爆発しないようにコントロールする訓練だ。
未だ地味な繰り返し練習だが、それでも基礎が終わり次に進んだというだけでモチベーションは高めなので、クサる事なく続ける。
そんな風にあっという間に日は暮れて行った。
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この日の夕食はリヴィア姫と、2人いる兄のうち、ロヴァという王子、そしてアーヴァントという面々と席を共にした。
ファウザ王も同席した歓迎の晩餐会は到着翌日に済ませているので、本日は内輪の集まりである。
なぜ、この席にアーヴァントがいるかというと、学術部門の要職についているロヴァ王子とは学生時代の同窓で、親友なのだそうだ。
格式張った席でなく、クロトたちの話を聞きたいというロヴァ王子の希望により、これらのメンツでの会食となった。
「なるほど、遺跡でそんなことがねぇ。ほかの話も興味深いなぁ。しかし、クロトさんの蒼月の手甲、アメリアが選ばれた癒しの腕輪、ジュリアちゃんのエルフの秘宝、そして、ロッセンの無限の皮袋。王族が混じっているとはいえ、4人パーティで宝具4つはちょっと、聞いたことがないなぁ」
アーヴァントの親友らしくロヴァ王子も宝具に大いなる興味を持っており、話は自然と宝具方面へと進む。
ロッセンの宝物の皮袋は「無限の皮袋」というらしい。厳密には1部屋分の容量が限度の有限だけど。
「選ばれた、、、ですか? 特に何かした覚えもないのですが、、」アメリアが腕輪を見ながら首をかしげる。
「そういうものなのだよ、アメリア。もちろん全ての宝具が使い手を選ぶわけではないが、過去の文献を調べると使い手と親和性が高い場合のみ能力を発揮する宝具がいくつかあったのは事実だ。なんだ、アーヴァント説明していないのか?」
ロヴァ王子はアメリアを小さな頃から知っているので、自身の妹に接するくらい気安い。
「ふむ、まだ選ばれたと確信を持てる状況ではなかったからな」
「お前はそういう無駄に慎重なところあるよな!」
「お前は無駄に大雑把だがな」
と、軽口を叩きながら和やかに時間は過ぎてゆく。
デザートが出てきた頃、「そうだ、ジュリアちゃんのエルフの弓だが、同じものかは分からないが、似たようなものを文献で見たことあった気がする」とロヴァが言った。
「文献? どれだ? ここのところ蔵書を調べているが、それらしき記録は見つかっていないが」すかさずアーヴァントが喰いつく。
「学術部の方の蔵書か? そちらにはないのかもな。確か昔、城にある文献を見ていた時にエルフの弓の物語のようなものがあったような、、、」
「本当か? 頼む、王に許可を取ってくれ。すぐにでも確認したい」
「おいおい、今からか。。。まぁ、俺も気になるな。ちょっと見に行くか。そんなわけで皆すまん、俺たちは先に失礼するぞ。ゆっくりデザートを楽しんでくれ」
と、挨拶も慌ただしく去っていった。
「騒がしい兄ですみません」とリヴィアが頭を下げる。
「全然構わないが、いつもああなのか?」
「宝具のこととなるとちょっと。特にアーヴァント様と一緒だと予想外の行動をされることも多くて、、、」
ちょっと困った顔をするリヴィア。
ちなみに話題の中心であるジュリアは我関せず。デザートのケーキをモッキュモッキュと食べていた。
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数日後、いよいよ蒼月の手甲を付けての技の訓練である。
クロト達はガノーから少し離れた広い草原に来ていた。
「この間みたいに実戦場じゃないんだな」晴天に向かって、気持ちよくぐーっと伸びをしながらクロトが言う。
「ああ、クロトの爆発でわずかだが破損してな。現在修復中だ。思ったよりも威力があったみたいだな」
まじで? 弁償とか請求されたらどうしよう。とりあえずアーヴァントのせいにしておこう。
「さて、それじゃあまずはジュリアとシーラの2人だ。ジュリアは新しく編み出した矢をシーラに放ってみろ。シーラは例の多重シールドを実際の魔法相手に試してみろ」
ジュリアが元気よく「はーい!」と言い。シーラは黙って拳を握り気合いを見せる。
程よい距離をとって対峙する2人。
「いくよー!」ジュリアが弓を引くと、力が弓に圧縮されて、緑色の矢を形作り始める。
「フェザーーーーーーアローーーーー!!」
空高く放たれた弓は、最高高度に達すると同時に弾け多数の鷲の羽の形に変化し、一斉にシーラへ襲いかかる。
シーラは水平にした剣に手を添えて「はぁっ!」と気合を込める。
瞬間、いつもより薄いシールドが何枚も発生して、シャボン玉が膨らむように次々と大きくなってゆく。
シールドに激しくぶつかって消える羽の矢。しかし一定数当たるとシールドが1枚、また1枚と破壊される。
それでも、シールドを破壊し尽くす前に、羽の矢が尽きた。
「そこまで」アーヴァントが手を挙げて止めると2人が戻って来る。
「ジュリアのフェザーアローはいい感じだ。ただ狙いが散漫になっているので、もう少しコントロールできるようにしていこう。シーラの多重シールドはもう少し色々試してみよう。球体をイメージしたほうがいいかもな」
アーヴァントが改善点を指摘すると、2人は頷いた。
次はいよいよクロトの番である。




