41)腕輪
クロト、パール、アメリア、シーラ、アーヴァントや騎士、学者ら主だったメンツは天幕の中に集まり座っていた。
クロト達が体験した遺跡の内部についての説明が行われる。
パールの足は負傷したままだったが、自身が「まずは状況の報告だ。治療はその後でいい」というので、話を優先した。
「で、見つかったのがこれか」
アーヴァントが腕輪を手のひらへ置く。
実はクロト達がゴーレムの部屋から脱出後、祭祀の間に戻ると何もなかったはずの台座が光っており、その中心にこの腕輪が置いてあった。
怪しさはあったものの、そのまま放置するよりは持って帰ったほうがいいだろう、という判断のもと持ち帰って来たのだ。
「それで、今度は逆に進んだら、これといったトラブルもなくこの出口が見えたんだ。警戒と休憩を挟みながらだし、それなりに距離があったので時間はかかったがな」
やれやれといった感じで一息つくクロトに、アメリアが手を挙げる。
「そんなことより、なぜ、クロトさんはパールさんを、その、お、お姫様抱っこして現れたのですか?」
お、アメリアなんか機嫌悪い? 一晩行方不明だっからかな?
「いや、鎧が邪魔で背負いにくいし、背負ったら照明具で通路を照らし辛いからな。だから前で抱えた方が効率的だろ」
「はー、そうですか、そうですか。パールさん、本当ですか」矛先はパールに。
「そうだな。不甲斐ないがクロト殿には迷惑をかけた。が、2度もお姫様抱っこされるとは思わなかったよ」
「2度っ!? 2度って言いました!? 今!?」
詰め寄るアメリアと、イタズラが成功したような顔のパール。
シーラがあまりからかってくれるなと、パールを目線で咎める。
「さて、痴話喧嘩はどうでもいいが、まずは腕輪とゴーレムだ」
「ちわっ!? ち、違いますよ!?」
動揺するアメリアを無視し、話を進めるアーヴァント。
先ほどから腕輪を矯めつ眇めつ、様々な角度から眺めている。
「確かに腕輪のようだが、腕に取り付ける方法がわからんな」
腕輪は長さ10センチ程度の筒状で、銀の外観にいくつかの宝飾が取り付けられている。
しかし、腕に取り付けるための留め具が見当たらない。
人の手を潜らせるには筒が細いので、大人ではつけることは無理そうだ。
子供なら手が通るだろうが、腕を降ろせばそのまますり抜けてしまうだろう。
アーヴァントが他の学者にも見せて、何やら囁き合っていると、シーラが「あっ」と声をあげた。
「何か気づいたか?」アーヴァントがシーラに鋭い視線を向ける。
「いや、腕輪のことではなく、パールの足、もう直してやっていいか?」
そこで皆がパールの足の怪我のことを思い出し、一人が治療のできる法術師を呼びに行こうと立つが、アメリアが止める。
「このくらいなら、私が治療できます」
まだ機嫌は直っていなさそうだが、けが人を放っておくということはしない。
「少し痛みますよ」と言いながら、添え木をされた折れた足を両手で掴んで骨をなるべく真っ直ぐにし、添え木を強く縛る。
それから杖を足に添えて法術を発動する。
幸い見た目では綺麗な折れ方なので、15分もヒールをかければ概ね回復するらしい。
「騎士さんなのでご存知とは思いますが、あくまで応急処置ですので。数日は痛みは残ります。しばらくは無理せず様子をみてください」
「わかっている」顔をしかめながらも決して痛いとは言わないパール。
しかしヒールって万能じゃないんだな。
なんて思っていると「あっ、光った!」アメリアがヒールを発動させると同時に、学者が持っていた腕輪が光る。
「ヒールの法術に反応しているのか?」
アーヴァントが腕輪を受け取りアメリアに近づくと、光がより強くなる。
「メアリー。そのまま続けてくれ」
ん? メアリーって誰だ? 気になったがまずは治療と腕輪か。腕輪はアメリアに近づくほどに光を放つ。
「治療が終わってもそのまま法術を続けた方が?」
「いや、何事もなければ、改めてうちの法術師で実験する。普通に治療してくれ」
腕輪をアメリアのすぐそばまで寄せると、一瞬全員が目を開けていられないほどの光を放つ。
次の瞬間、アーヴァントの手から腕輪が消えていた。
「これは、どういうことだ?」
アーヴァントの手から消えたはずの腕輪は、アメリアの腕に装着されていた。
今は淡い光を放っているだけで、先ほどのような光の強弱はない。
「どうしましょう、、、これ?」
治療中のため腕を動かせないアメリア。
すると、先ほどまで顔をしかめていたパールの表情が、みるみる不思議そうな顔に変わる。
「アメリアさん。急に痛みが引いてきたのだが、、、というか、これは、、、、すまないがちょっと治療を止めてもらっていいか?」
困惑しながらもアメリアが法術を止めると、パールはすっくと立ち上がり、治療したばかりの足をあげたり、踏み込んだりする。
「あまり無理すると悪化しますよ」心配そうなアメリア。
「いや、直っている」
「?」
「完全に直っているぞ。足。痛みもないし、違和感もない。すぐにでも走り出せそうだ」
「そんな。私のヒールにはそこまでの力はないはずです。骨折が一瞬で治るなんて超一級の術師のみがなし得る技ですよ?」
黙って聞いていたアーヴァントがすっとアメリアの腕を掴む。
「!? 何を!?」
「失礼。思わず掴んでしまった。パールの怪我が治ったのは、つまりこの腕輪の力ということか?」
その場にいる全員の視線がアメリアの腕に集まった。
パールがストレッチや簡単な槍術の型の動きをして、間違いなく足が回復したことを確認すると、再び皆が座席に着く。
特に学者勢を中心に様々な予測が飛び交っているが、当のアメリアはひたすらに困惑である。
というのも、腕輪の外し方がわからないのだ。
腕との間には多少の余裕があり、腕に張り付いて困ったり締め付けて痛かったりという心配はないようだが、手をすぼめても腕輪が抜けるような状況にはならない。
そもそも光で皆の視界が遮断されていたので、どうやって装着されたかもわからないのだ。
色々な外し方の案が出たが、どうにも上手くいかない。
最終的に「遺跡に着脱の方法が記録されているかもしれない。ひとまずは遺跡を探ってみよう」
というアーヴァントの一言で、とにかくそのままにしておくこととなった。
そしてここで一旦解散。
徹夜となったクロト、パールは休息をとることに。
クロトの証言により深部までは距離があることがわかっているため、中途半端な時間に遺跡に入るよりは、朝早くにした方が良いだろうということで、遺跡の探索は明日の早朝からとなった。
焦点は腕輪のあった祭壇の間と思われる部屋と、ゴーレムの部屋。ゴーレムが残っていて、地上に現れるようなことは避けたい。
クロトとパールも探索の同行を買って出たが、2人が歩いてきた部分は照明が灯され迷うことはなく、そもそもクロトは客人であるし、パールはこの隊の統括をする立場なので一旦地上で待機。
もしゴーレムが多数残っており、ほかの騎士で手に負えないと判断された場合は再度遺跡に潜ることになった。
一通りの話し合いが終わり、皆が席を立った時に、そういえばとクロトとアーヴァントが口を開く。
「メアリーって誰だ?」
「アメリアとは誰だ?」




