28)アーミーアントの襲来
ガーヴォに引き止められつつ、法術の練習したり、パオロ達と稽古したり、街でムジュアに会ってお茶をしたりしていたら、結局、5日目の夜を迎えてしまった。
「そろそろ出発しようと思うが、どうだ」
「是非、そうしよう」誰よりも出発に乗り気なシーラ。連日の稽古でぐったりしている。
「思ったよりも長居してしまいましたね。明日の朝、出発にしましょうか。ガーヴォ様にも伝えてきますね」
とアメリアは部屋を出ていった。
そうして、明日にはオベリアの砦を辞すことに決まったのだった。
翌朝、お礼と挨拶のためにガーヴォの部屋を訪れていると、ガーヴォの副官が血相を変えて飛び込んでくる。
「将軍! 大変です! アーミーアントが、アーミーアントの群れが、オベリアに迫っています!」
「何? 確かなのか? 見間違いではないのか」
「間違いありません。昨日ここへ向かっていた商団が明るいうちにたどり着けず、砦から南へ半日ほどのところで野営を組んでいたのですが、そこにアーミーアントの群れが現れたと。旅慣れた商団だったらしく、アーミーアントを確認すると、荷物を捨てて馬に乗って逃げてきたそうです」
「では、商人の目撃談だけということか?」
「いえ、早朝オベリアに着いて、当直の兵にその旨訴え、その兵が私の下に来ましたので、信号弾を持たせて本当にアーミーアントであれば知らせるように様子を見に行かせたのですが、、、」
「信号弾が、上がったと、、、」
「はい、つい先ほど。信号弾の位置からすれば、早ければ2〜3時間後にはこの砦に」
ガーヴォと副官の緊迫したやりとりが続く。
「相手がアーミーアントでは、物量戦になるな。。。すぐに全兵士を叩き起こせ! さらに今、街にいる傭兵、戦闘経験のあるもの全てに協力を仰げ! 戦えるもので参戦を渋ったなら、其奴は今後オベリアには立ち入り禁止じゃ! 早急にゆけ!」
「はっ!」
副官が部屋を飛び出していった。
「すまんが姫、クロト、シーラ、お主らにも手伝ってもらうぞ」
「もちろんだ」
「当然だ」
「私は戦闘よりも後方で回復師とともに怪我人のフォローに回ります! まずは回復師を集めて、怪我人を集められる場所の確保と、怪我人が出た時連れてくるように周知を」
「助かる。それでは主立ったものを集めて作戦会議じゃ。3人も参加してもらう」
と、会議室へ集まる将軍と副官、治癒師の長や街の商いを統括する長も駆けつけてくる。議長はガーヴォだ。
「集まってもらってすまない。もうアーミーアントの襲来は聞いていると思うが、とにかく時間がない。まずはそれぞれの配置や役割をわしの方で決めさせてもらう。その後は状況を見ながら、適宜指示を伝えるので、それに合わせて動いてくれ」
まず、クロトや騎士団、傭兵でも実力があるものは全て前衛でアーミーアントの処理。
実力に不安のある傭兵や、腕に覚えのある商人などの民間戦闘員は後衛とする。前衛で傷ついた兵の回収と、治療所への搬送、および前線で取りこぼしたアーミーアントを複数で叩くのが主な役割。
国内屈指の防護壁を誇るシーラは後衛に配属され、突破されそうになったら広範囲シールドで時間を稼ぐ城門前の最後の砦役。
塀の上には直接戦闘ができなくても、法術や弓で援護できるものを配置。塀の内側には治療所を設置し、そこで治せる程度の怪我の者は、怪我が治り次第前線へ復帰。
「おそらく今、前衛で戦える兵力は2000、後衛が1000、後方支援が500人程度だろう。なるべく時間を稼いで近隣の戦力を集められれば少なく見積もって前衛だけでも5000は超える。5000の前衛があれば、防ぎきれるであろう」
一度喉を湿らせて、ガーヴォは続ける。
「だが、今から使者をやって、急な準備と移動時間を考えれば、援軍の到着に半日はかかろう。とにかく時間との戦いだ。援軍到着まで耐えきれず城門を抜かれれば、砦に住まう全ての者が命の危機にさらされる」
「近隣の戦力が集まるまで、砦内で時間は稼げませんか?」
副官の中でも若い騎士が質問を投げる。
「他国ではあるが、かつてのアーミーアントの襲撃で、アーミーアントは砦の壁を齧り取って崩して進んだという記録がある。良策とは言えんな。籠城は最後の手段じゃ」
他に質問がないことを見回すと、ガーヴォは声を張る「此度の件ではわしも前衛で戦う。その上で状況を見て指示を飛ばす。後方での状況判断はライズ将軍に任せる! 良いな!」
指名されたライズ将軍が一瞬何か言いかけるが、今は議論している場合ではないと思い直し「はっ!」とだけ返事をした。
クロト、アメリア、シーラは急ぎ部屋に戻り、戦闘準備をして配属先へ急ぐ。その道中で、「アメリア、アーミーアントの特徴と弱点、教えてくれ」とクロトが問う。
「アーミーアントのこと知らずに、あんないい返事したんですか?」と若干呆れながら、クロトらしいと説明を始める。
「アーミーアントは何十年に一度、こうして群れで現れて大移動を行います。群れの数は5万とも10万とも言われます。前方に障害物があろうと、ほぼ真っ直ぐに進む習性があり、邪魔なものは自分たちの仲間の犠牲も顧みず噛み砕き、食べられるものは穀物も、生物も全て食べ尽くして進みます。故にこの国のみならず、各国で「天災」とされる魔物です」
走りながら続ける。
「一体一体の大きさは、子供と同じくらい。外殻は割と固く、接合部分が脆いのでそこを狙うことが多いです。ただ、クロトさんほどの実力者なら外殻を直接叩いても駆除できると思います。毒などは確認されていませんが、とにかく顎が強いので、挟まれるとひとたまりもありません。なるべく横から攻撃してください」
「わかった。ありがとう」
「クロトさんなら心配いらないと思いますが、、、とにかく、気をつけて」
アメリアが走りながら近づいてきて、クロトの服をぎゅっと掴む。
「大丈夫だ。任せておけ」
と、アメリアの頭を軽く撫でて、シーラとともに城門を駆け抜けるのだった。




