17)クロトの返事と意外な餞別
色々あったというか、なかった2020年が終わる。
クロトの旅に同行を願い出たアメリアを、クロトがぽかんと見つめている。
「というわけで、私は世界を巡り、見聞を広げたいのです。同行させていただけませんか?」
深々と頭を下げるアメリア。シーラも「私からも頼む」と頭を下げる。
「あ、そうですよね、私が一緒に行くメリットを先にお話しいたしますね。直接おっしゃっていただかなくとも、戦闘時の戦力にならないことはわかっています。ですが、防御法術でしたら、それなりに張れます。アラクネほどのクラスは難しいですが、必ず邪魔にならないようにしますので!」
や、えーとそうじゃなくてね。
「あ、もちろん、通行証の役割はきちんと果たします! 王国連合内は私の王族の証を見せればよほどの場所でなければ通れます。王族との謁見も問題ありません。獣人連合も首長との会談は難しいかもしれませんが、入国に支障はありません。魔族領は王族であることでかえって軋轢を生んでしまうかもしれませんので、その手は使えませんが、きっちり対策を立ててきてますので!」
や、じゃなくて、、、
「さらに、私には長年培ってきた交渉能力があります。旅先では力で解決できないことも多々あるはずです。そんな時はお任せください!」
おお。グイグイくるなぁ、、、、、
「もしかして荷物の心配ですか? 曲がりなりにも王女である私が、多数の荷物を持って物見遊山気分では? と。そちらもご安心ください! と言うか、クロト様の荷物も減らし、旅の快適性を上げてみせます! この皮袋をご覧ください」
言うと、リュックのように背負った皮袋を前に押し出す。入れ口が大きく、小柄な人間くらいならすっぽり入れそうだ。
だが、入れ口の割に肝心の収納力があるようには見えない。
「不思議でしょう? ちょっとこの中に顔を入れてみてください。大丈夫です。危険はありませんから」
興味を惹かれ、言われたまま顔を入れたクロトはその先にある空間の広さに驚いた。
と言うか、人が抱えるような類の広さではない。ちょっとかがめばクロトでも入れそうな正方形の空間が広がっていた。
中には旅支度であろう様々な物が整然と並んでいる。見ると、先日地図を買った店で、アメリアが買い物をしていた時の紙袋も置いてあった。
袋から顔を出すとアメリアが自慢げに胸を張った。え、これどうなってるの?
「いわゆる失われた法術の一つです。この皮袋の入り口は別の場所にある空間につながっているようなのです。空間の壁などの作りからして、おそらく城の中のどこかに隠し部屋があり、そこに繋がっているのではと識者の方は言っていましたが、移転先の空間はいまだに見つかっていません」
すごいな。法術ってこんなこともできるの?
「先ほども申し上げた通り、古代に失われた法術とされています。現在の技術では今の所再現は不可能ですね。なので、これは王都の秘宝のひとつです。多分、同じような効果のあるものは世界を見渡しても5つとないのでは」
それはもったいないね。たくさんあったら便利なのに。
「多分、便利すぎたから、、、なのかもしれません。悪意ある方が使えば、例えば王の御前まで武器を隠し持ったり、逆に人攫いなどにも使えてしまいます。そう考えると、この法術を編み出した方が意図的に失わせたということなのかもしれません」
あ、もちろんちゃんと許可を取って持ち出してますよ。と続ける。
「えーと、その皮袋はすごいんだが、そうじゃなくてな、、、、」
「他にも何かご希望ですか!? 可能な限り用意しますので!」
なんだか泣きそうな顔になってきたアメリア。必死さが伝わってくる。
「いや、要望とかじゃないんだ。絶対王様反対してるんじゃないなかなと思って」
「大丈夫です! きちんと話し合ってきました。許可をいただいてます!」
アメリアは、ああ、そんなことですか。と言うようにあっさりと返す。
「それならいいぞ」
「え? 今なんて?」
「いいぞ。一緒に行こう。シーラも一緒なら安心だしな。特に目的のない旅だが、賑やかな方がいいだろう。王の許可もらってるなら別にいい」
「本当にそれだけで良いのですか!?」
いや、王様の許可、大事だろう? 一応君のお父さんだぞ?
「ははは、幾多の交渉ごとをこなしてきたアメリアもクロト殿の前では形無しだな」
言いながら近寄ってきたのは次期王にしてアメリアの兄、ゲラント。その背後にはバーンや騎士団の面々も見える。
「お兄様、どうしてここに?」
「いや、うまく行くにしろ行かないにしろ、そろそろ決着が着く頃かと思ってな。まぁ多分、うまく行くだろうと思っていたから、3人を見送りに来た」
「お兄様。。。」
ポロポロと涙をこぼすアメリア。
「おいおい、泣くな。今生の別れでもあるまいし」
「すみません、ここのところの緊張がとけて、つい。。。断られたらどうしようって、、、ずっと心配だったので、、、、」
「なんだ、この兄との別れを悲しんでではないのか」と、ゲラントが茶化す。
アメリアの頭を軽く撫でてから、真面目な顔でこちらへ向き直るゲラント。
「妹が迷惑をかけるかもしれないが、どうか、よろしく頼むよ」と、次期王が頭を下げる。
俺は「分かった」とだけ言った。
「そうだ、王からクロトに預かったものがあるんだ」と、気軽に投げてよこしたのは、随分と細かい細工が施された首飾りだった。
「それは王の証と書いて、「王証」と言う。非常に貴重なものだ、絶対なくすなよ」
その名を聞いた瞬間、アメリアとシーラが言葉を吞む。
「どういうものか、詳しくは道中でアメリアたちに聞くといい。くれぐれも悪用するんじゃないぞ。それと王から伝言だ。「必ずアメリアとともに王証を持ち帰り返還すること。道中の無事を祈る」とさ。本当は自分で見送りたかったみたいだが、流石に王が出てくれば、事が大きくなるからな」
「なんだかわからんが、便利なものならありがたく借りておこう。王にもよろしく」
そうして俺たちはシーラが連れてきた三頭の馬に、それぞれ乗り込む。
「勇者に! 敬礼!!」
城門に揃い敬礼の姿勢で見送るゲラントたち。
「お兄様! みんな! 行ってきます!」
手を振り続けるアメリア。
騎士たちの敬礼は、アメリアの視界から正門が消えるまで解かれることはなかった。
序章、王都バルデ編終了です
次話から西の砦編突入します




