14)クロトは欲しかったアレを買う
「まずは、礼を言う」
これ以上ないほど複雑な表情で、王がクロトに謝辞を述べる。
おっ、王様、ちょっと痩せた? 色々あったもんね。
見れば王の横には青い鎧を着たバーン、赤い鎧のシーラの他に、金色の鎧と緑の鎧と茶色の鎧の兵士が並んでいる。その後に黒い鎧の兵士。
…金色って主張強すぎじゃない?
先日謁見の間にいた、銀色鎧の兵士はいなかった。昨日シーラに聞いたのだが、色付きの鎧騎士は有事には将軍として指揮をとるトップクラス。
黒鎧は部隊長クラスになるエリートとのこと。何かあった時、遠くからでも色ですぐに分かるようにしているらしい。意外にちゃんとした理由だった。
つまりバーンと黒い鎧の騎士が本来の親衛隊だったのね。
思考誘導が効かなかった黒い騎士は左遷され、代わりに銀鎧が補充されていたと。
ちなみに思考誘導を食らった兵士たちは軒並み降格処分。親衛隊も半分ほどが入れ替えとなるとのこと。
大臣にも入れ替えがあるようだから、しばらく城内は混乱するかもしれないな。
などとキョロキョロしていると
「おい、聞いておるのか?」
王に突っ込まれてしまった。ごめんごめん、なんだっけ。なんて言うか、王様の威厳が、ねぇ。
「はぁ、まあ良い。ワシにお主は御せぬわ。本来であれば救国の英雄として、民に広く喧伝した上で、大々的にパレードなど催すところであるが、王城内に魔物が入り込んでいたという事実、また我が妃がその魔物に食われたなど、とてもではないが民に明かす訳にはいかん内容じゃ。謝礼はクロト、、殿の願いをなるだけ叶えるようにする。すまぬがこの件、内々で処理をさせてもらいたい」
「かまわない、、、、っと、構いませんよ。あんまり目立つのは慣れてないので。むしろその方が好都合です」
折角敬語に直したのに、今更気持ち悪いから使うなと言われる始末。
「助かる。アメリアから急ぐ旅ではないと聞いておる。貴賓室はいつまで使ってもらっても良い。せめてゆっくりこの国を楽しんでくれ。今回の件でワシも少々疲れた、妃の喪にも服したい。良い機会じゃ、ゲラントを正式に王位継承者と定める。今後は王の役割を徐々に移管する」
「まことですか、父上!」
金色の騎士が一歩前に出る。あの主張の強い鎧の人、第一王子かー。
「今言った通りじゃ、今後は各王国にも告知してゆく。王としての覚悟、しっかり学ぶがよい。ゲラント、最初の仕事はクロト殿の歓待じゃ。アメリアと共に貴賓待遇で、遇せ」
「はっ、承りましてございます!」
こうしてロッセン王国は、新世代統治の第一歩を歩み始めるのだった。
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「それで、アメリアはともかく、なんでゲラント、様もついてくるんですか?」
クロトとアメリアとシーラ、あと、ゲラントは王都のメインストリートを歩いていた。
「国の英雄で、私のホストとしての最初のゲストである貴君が買い物を所望しているのだ、不備なく買い物ができるように気を配るのは当然であろう。あと、私もアメリア同様に呼び捨てで良い。むしろ呼び捨てが良いな!」
「わかりました~、じゃあ俺のこともクロトと呼び捨てで」
いつかやったやりとり。兄妹だな。
しかしこのゲラント、さっき初めて会って少し話をしただけだが、とにかく爽やかアンド爽やか。爽やかイケメン。そして次期王。
なんだこいつムカつくな。やっぱ置いてくれば良かったかな。
「しかし王子がこんな堂々と歩いていていいのか?」
「うむ、問題ないな。王族であると同時に騎士団の一員だからな。私は全騎士団のまとめ役なので、手伝いでちょくちょく市警騎士団とも巡回している。民も慣れたものだ」
シーラ曰く、ゴールド王子として有名らしい。おいそれ、ちょっとバカにされてない?
実際には愛着を持って呼ばれているようなので、本人がよければいいけど。
ちなみにアメリアは今回も深めのフードで変装中。
「もう、お兄様が鎧で出ると、目立ってしまってしょうがありません」
言いながらちょっと嬉しそうだ。
それにしてもさすが王都の大通り。クロトの村では考えられないほど様々な店が軒を連ね、ついつい目移りしてしまう。
この前は道の真ん中の馬車や馬が通る部分を駆け抜けただけだったからなぁ。
俺たちは旅に便利そうな携帯食などを冷やかしたり、出店の串焼きを楽しんだりしながらメインストリートを闊歩する。
「お、見えてきたぞ、クロト。あの店だ」
先んじて小走りに店に向かうゲラント、なにやら店主と話をしている。
すると、こちらに駆け戻ってきて「よし! 店主には言っておいたぞ、あの店のもの、どれでも欲しいものを選ぶが良い!」
と、嬉しそうに言う。ただの爽やかイケメンかと思ったが、でかい犬みたいだな。次期王様だけど。
というわけで店内。ここはいわゆる雑貨屋で、大小様々なものが並んでいる。
おっ、このランプとか野営に良さそうだな。でもかさ張るかな? なにこれ、鍋の中に皿とコップがピッタリ収納されるのすげえ。
これは欲しい。買う候補。ん、これはなんだ。。。。
と、俺がなにに使うかわからないが、妙に伸縮性のある何かを矯めつ眇めつ眺めていると、アメリアが奥から手招きする。
「クロトさんのお目当てのもの、こちらにありますよ!」
そうだった、そうだった。今日はそれを探しに来たんだったと、妙に伸縮性のある何かを元に戻して向かう。でも、あの妙に伸縮性のある何か、なんなんだろ。
奥に進むと、カウンターの背後、壁一面に貼り付けられた布。
「ほんと、地図も無しに旅に出るなんて無茶ですよ、まったく」
そう、そこに並んでいるのは地図であった。王都周辺のものから王国全体のもの、そしてひときわ大きなこの世界を表した地図。
欲しかったのはこの世界地図。
店主に世界地図が欲しい旨伝えると、他にも何種類かあるらしく、奥から持ってきてくれた。
中でも丈夫そうで折りたたみやすい布で作られたものを選ぶ。代金は城から貰うのでいらないと。ゲラントがさっき先に店主と話していたのはこれが理由か。
それなら、ちょっと厚かましいかなとも思ったが、さっきのランプと鍋も貰おう。
妙に伸縮性のある何かは、、、いらないな。うん。いらない。
世界地図を包んでもらう時、ちょろっと値札が見えた。結構なお値段でほんとびっくり。
こっそりアメリアに高いなと伝えると「地図は高いですよ?」と当たり前のように返された。そうなんだ。
やっぱり実際に旅しないと分からないことってあるんだな。
妙に伸縮性のある何か。




