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15. ヒロインの反乱


あくる日、リオはセシリーに大聖堂で待っていてほしいと告げられた。


「セシリーちゃんどうしたんだろう?」


講義を終えたリオは、扉を開け中に入る。ギギ、と大きな音を立て閉まった。




目の前の光景に既視感を覚えた。




中心に「剣と魔法と救国の聖女」の<ヒロイン>のセシリー。


彼女の左右に並ぶ、その<攻略対象>の4人のイケメンたち。


王子、騎士団長、セシリー、天才魔術師、大神官。




まるで特別描きおろしポスターではないか。


溢れる感激を必死に抑える。




「あ、あれ、皆さんお揃いで……。えっと?」




セシリーが微笑む。




「ええ。リオ様が最後ですよ」




最後って、このメンバーで一体何をするんだろう。




「セシリーさん、呼び出したのは私だけじゃなかったんですね」




「お伝えしそびれて申し訳ございません」




仰々しくセシリーが一礼する。




「皆さま、大変お待たせしました」




可憐な声が告げる。








「今から全員死んでもらいます」








その目は確かに殺意を秘めていた。




「な――何を言い出すかと思えば、死んでもらうだと?」




真っ先に問いかけたのは、王国騎士団長。




「ごめんなさいね。貴方がたは私の運命の一端を担ってますの。


信じられないと思いますが、ここにいる全員は私と結ばれる可能性がありますから」




「そんなバカな!」




男性陣がこの発言に引いてしまっている。


無理もない。




だが、リオは知っている。




ここにいる全員は攻略対象。


ルートは確かに存在するのだ。




「大体、貴女はシド殿下と婚約中だろう。悪いが、俺たちだってそんな気は全く無いぞ」




「確かに近い将来私はシド様と結婚するのでしょう。


ですが、可能性として貴方がたと結ばれる運命もあると私にはわかっている。




現に今まで仲良くしてきたでしょう? 皆様?」




尋常ではない様子のセシリーから皆距離をとる。




「愚かな女の妄言だとお思いでしょうね。


無理もありません。


ですがご安心を。


貴方がたとの恋愛など一切望んでおりませんから」




ゴミを見るような目で彼らに言い放つ。




「幼いころから運命の選択肢が見えていた。


正解は一つだけ、だが難易度は恐ろしく易しいので、トントン拍子にここまでこれた。




それは、貴方がたに対しても同じ。




令嬢といっても、身分が釣り合わない女を王太子が婚約者にするなんてあり得ないでしょう。


私はそれをシド様で実現しました。




ええ、簡単でしたよ。シド様がどういえば喜ぶのかなんて」




にっこりとシド様に笑いかけるセシリー。


青ざめるシド様。




「王子と結婚。まあ、それも悪くはないでしょう。


むしろこの身分では十分過ぎる程の幸せなのでしょうね。


私は受け入れるつもりでした。






リオ様。貴女が現れるまでは」






セシリーは嬉しそうに私を見つめる。




「貴女が現れた日。シド様が婚約破棄を突き付けたあの夜、未来が変わりました。




王位を継ぐはずだったシド様は、それを剥奪される。


戦争が起こるはずだったが、未然に防がれた。




これは驚くべきことでしたよ。リオ様」




手を胸に添え、満面の笑みで一歩近づくセシリー。場違いなその表情が恐ろしく感じた。




「未来は変えられるのだと知って嬉しかったです。


私は生まれて初めて希望を持ちました。




これまでの人生は何の意思もなく、見えた未来というシナリオを演じるだけの道化でした。




ですが、私の心に生まれたはじめての希望。






『運命を覆す』






この先私は、


貴方がたのいずれかと結ばれる。




それが決められた運命というのなら、全力で抗ってみせる。






ならば全員殺してしまえばいい。


すると私は大逆罪を犯すことになる。


国ごと潰せば死人に口なし、誰も私を裁けない。




この結論へと至ったのです」






セシリーの表情が邪悪に歪んだ。




「さあ、殲滅してあげましょう」




恋愛シミュレーションゲームの主人公がを恋愛を全力で拒否してきた。


こんなことってあり得るの?


しかも、タイトルまで全否定。


「剣と魔法の救国の聖女」。


救国どころか滅ぼそうとするなんて。




こんなのめちゃくちゃだ。




その時、騎士団長がセシリーに立ち向かった。




「ならば、まずは俺から相手になろう」




そう言って、鞘から剣を抜き構える。


僅かに魔力を帯びているのか、聖なる光を発している。




「これはこれは。王国最強と呼ばれる男と剣を交えることができるとは。光栄ですわ」




クスクスと笑うセシリー。




どこからその余裕が生まれるのか。


丸腰で華奢なセシリーと大柄で屈強な戦士の騎士団長。


勝敗など見えている。




誰もがそう思った。




その時、セシリーは手のひらを上にし、そこからまばゆい光を放つ剣を出現させた。




「それは……魔法剣だと!?」




騎士団長は驚愕した。




「ええ。驚くのはまだ早いですよ。私、魔法だけでなく剣の腕にも自信がありますの」




セシリーは喋りながら、相手の距離を詰めていく。




騎士団長は意を決して大きく振りかぶる。


一撃。恐ろしい速さで切り込んだ。




だが、セシリーは涼しい顔をして受け止めていた。


力負けしそうな騎士団長の剣がガチガチと小刻みに震えている。


次の瞬間、大きな金属音と共に騎士団長は吹っ飛ばされた。




「がっ……!」




隙を与えまいと彼が起き上ろうとしたとき――


目にも止まらぬ速さでセシリーの剣が右太ももを貫いた。




「ぐわぁー!」




「期待外れ。王国最強ってこの程度なの」




セシリーは右手を掲げ、痛み苦しむの騎士団長に魔道砲を放った。


直撃した騎士団長は倒れた。




「セシリー、やめてくれ」




苦悶と涙を浮かべるシド様。




それを無視し、セシリーはシド様に右手をかざし、魔道砲を放った。


だが、魔術師がシールドを張り、寸でのところで彼を守った。




「貴方は学園一の魔術師様ですね」




中性的な美しい顔が憎々しげにセシリーを睨む。




「殿下に手を出すな」




「では貴方が代わりに戦ってみせてはどうですか」




「言われるまでも、無い!」




杖を振りかざすと、青白い稲妻が走った。


電撃砲がセシリーを襲う。




だが、それを受けて平然と立っている。






「ではこちらからも」




右手を横に切った。


瞬間、まばゆい光線が魔術師を貫いた。




そのまま後ろに倒れ、動かなくなった。




「あっけないものね。もっと楽しませてくれるかと思ったのに」




その場から逃げようと駆け出した大神官も、セシリーの光線にあっけなく倒れた。




「剣も魔法も、最強なのはこの私。




これなら、エメリオン王国を滅ぼすのも容易いですね」




あれ、こんなにセシリーって強かったっけ?


そうだ。不可能ではない。


ルートによっては、敵国兵士を一網打尽にしたり、剣戦士になったり、魔法使いの才能を開花できたのだ。


これはもう多彩な能力を秘めた超人である。


育成パートで全パラメーターをカンストほど上げたなら、人類最強と言っていいだろう。


プレイ中誰もが思ったのではないだろうか。ヒロインが最強じゃないかと。






残ったのは、シド様と私だけになった。




「リオ様は関係ないだろう」




シド様が私を庇う。


なんてお優しいんだろう。


自らの体を張って乙女を守る、理想の王子様だ。


やはりシド様は最推しである。




「彼女は未来をだいぶ変えてはくれましたが、もう用済みです」




「では、私を倒してから――」




そう言って立ちはだかるシド様の胸を躊躇なく魔法剣で貫いた。




「さようならシド様」




彼はがくりと倒れ動かなくなった。


セシリーは何の感情もなく剣についた血を振り払う。




「なんてことを……シド様を愛してないの」




嘲笑するセシリー。




「彼を愛していたのは<運命>よ。


私というフィルターを通して<運命>が彼を愛してたの」




瞬き一つせず近づく。




「安心しなさい。貴女もすぐ男共の後を追わせてあげる」




絶体絶命だ。




私このまま死ぬのかな。


現代から一人ぼっちで飛ばされた、この乙女ゲームの世界で。


異世界転移なんてレアな体験できたし、プレイヤー冥利に尽きるのかな。




あまりにもシナリオを変えすぎたのがいけなかった?


でも私は見てみたかった。




悪役令嬢と呼ばれた彼女が、どう世界を切り開いていくのかを。




バイオレットちゃん。


最後は貴女と一緒にいたかった。




あれ、この女がエメリオン王国を滅ぼしたら、バイオレットちゃんの未来やばくない?


じゃあここで私死ねないじゃん。




諦めるな。




立ち上がれ私。



「ったく、シド様は女の見る目がなかったね。とんだ悪女だったじゃん」



唇の片方だけ吊り上げ笑うセシリー。




「悪女、いいですわね。とても良い響き。貴女を殺し、私は亡国の悪女となるのですね」


ゲームタイトル「剣と魔法と救国の聖女」。から一転、<亡国の悪女>になってるじゃないか……。

とんでもない展開にルートは進んでいるようだ。




セシリーは私の喉を掴み、持ち上げる。


おそろしく怪力だ。



意識を無くしそうだけど声を絞り出す。


「っ……絶対に……させない……」


苦しい。視界がぼやける。


その時、大聖堂の扉が勢いよく開いたのが視界の端に見えた。

涙が一筋頬を伝った。ああ、彼女はやっぱり最高の女性だ……。



「待ちなさい、セシリー! 貴女なんかに親友まで奪わせないから!」


目にもとまらぬ速さでバイオレットから氷魔術が放たれた。

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