空間に綴る
ぼくはあなたにはじめてあったときからぼくはあなたがすきになりましたあなたはきれいでうつくしくぼくはいっしゅんであなたにひとめぼれしたのです
最初、あなたが僕の家に来た時、僕は自分でも信じられないくらいの気持ちを持ちました。それから、あなたに逢いたくて堪らなくなって、この情熱が嬉しくて。
けれどあなたの話を聞いているうちに、寂しさも感じました。そのうちにあなたに頼って貰いたい、あなたと全てを共有し一緒にいたい、そう思うようになりました。
僕には何もありませんし、何も持っていません。アイがいるだけです。けれど、僕もアイも、あなたのことが大好きです。僕と付き合って貰えませんか。
大切にします。
僕があなたの人生に巻き込まれる、そう考えるのではなく、あなたが僕とアイの人生の中に入ってきて欲しい。僕はそう望んでいます。そう考えて前向きに検討しては貰えませんか。
あなたが好きです。あなたを愛しています。
これからもずっとぼくといっしょにいてくださいあなたをあいしています
てがみをかいてくれてありがとうよんでいてなみだがでるくらいうれしかったです
私は病気でいつ死ぬか分かりませんから、結婚して家庭を持つこともないと自分に言いきかせて生きてきました。生きることに何か意味を持ったり見出したりしたら、死を受け容れられなくなる。
あなたとアイちゃんに会うまでは、何にも執着しないように生きてきました。今思うと頑なに、それが正解なんだと、思い込んでいたようにも思います。
このエアリアルルームで積み木を並べ始めた時、実を言うと、これはなかなか大変で地道な作業だと思いました。その作業に意味を持たせてはいけない、最初はそう思っていたので、それこそ何も考えないようにと一心不乱に並べていったのです。
けれどある時、思ったのです。
これこそが、「生きる」ということなのではないか、と。地道にコツコツと積み重ねていくこと。その作業を時には苦痛に思うことがあったとしても、それを続けていくことが、「生きる」ことなのではないかと。
そして、この積み木のように積み重ねていくものが、嬉しいこと、楽しいことであれば、尚のこと良いのですね。
お菓子を作って好きな人に食べて貰ったり、その人が喜びそうなプレゼントを考えて選んだり。結局はアイちゃんへのプレゼントしか買えなかったんですけど。でも、こういうことって、本当に幸せなものなんですね。
そうやって積み重ねていったものに、最後の最後で苦しめられるはずがない、そう思えるようになりました。
あなたのお陰です。全て、あなたのお陰なんです。楽しい人生を私にくださり、ありがとうございます。
私もあなたを愛しています。
どうぞこれからもよろしくおねがいしますあなたとあいちゃんといっしょにいきてゆきたい
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「あなたは相当変わっていますね、と言われたよ」
北川が、握っている手をそのまま一緒に自分のジャケットのポケットに入れる。ひやりとして冷たいが、それは直ぐにも温度を取り戻していく。
「それは?」
「入院してお見舞いに行った日、あるでしょ? その時、矢野さんに初めて会ったんだけど……」
後日談のようにはなるが、夜爪の名前を北川へと変更するのに色々と雑多な手続きを済ませた後、忙しそうにせかせかと書類をまとめる作業をしていた矢野が言っていたことを思い出す。
「夜爪さんの周りにいる男性は、夜爪さんに世話を焼く僕を見ると、お前は夜爪さんの何なんだって、胸ぐらを掴んでくるんですけど、北川さんは何とも思わなかったのか、完全スルーで。お見舞いの日も、花やら菓子やらパジャマやら送りつけてくる輩と違って、慌てた顔で手ぶらでやってくるし。ふふ、驚きましたよ」
「いやあ、手ぶらってのは病室の花を見てから気がついたんですけどね。あれでも恥ずかしくて死にそうでしたよ。でも、マリちゃん寝てたし、その時は心底セーフって思いました」
北川は一緒になって書類を片付けていた手を止めて、顔を上げた。
「それに、矢野さんはほら、電話で。ご自分のこと代理人だって言ってたから。それでまあ、そうなんだな、って思って」
っていうか、言いきかせたっていうか。
そりゃあ嫉妬くらいはするよ、顔に出さなかっただけでさ、そう心の内で独りごちたのを覚えている。
ジャケットのポケットに入れた手の指先の冷たさを意識しながら、北川はそれを握り直した。
「まあ、浮気なんてさせないけどね」
「そんなの、……しませんから。それよりあなたこそ、大谷さんには、気をつけてくださいね。いつも会社の誰それが可愛いとか、要らない情報を与えてくるんですから」
「大谷はいつまで経っても大谷だからなあ」
北川は笑って言った。
「寒い? 大丈夫?」
ポケットにはホッカイロが入っている。繋いだ手もじんわりと、その温度を取り戻していた。
「だいじょうぶです、あったかい」
棒読みのように言うと、それが二人の間ではひらがなに変換される。顔を見合わせて笑うと、二人は雪がちらつく中、足早に家へと向かった。
二つ目のエアリアルルームは今、三人の交換日記として使われている。
時々アイが、「あいすたべたい」などと、書き散らしている。




