転生者とプレゼント
前回更新から予告無しに間が開きまして、申し訳ありませんでした。
やや短いですが、番外編ではなく本編です。
この月の最後の金曜日を、私はひそかに楽しみにしていた。年の暮れのその日は、ロンの誕生日だった。
私は成人のお祝いをしてもらったときに若様とロンの誕生日を聞いていたので、ちゃんとプレゼントの用意をしていた。
結構自信があった。
ロンは呑兵衛だから、黒猫屋に遠方から芋の酒を取り寄せてもらったんだ。ワインよりもポン酒が好きなようだったし、きっと焼酎系統も面白がって飲んでくれるだろうと思って。
黒猫屋は、ロンに渡すのだと私が説明すると、大笑いして協力してくれた。
仕事終わり、きれいにラッピングした瓶を渡すと、ロンは驚いたように目を見開いた。
彼にしては珍しい顔だ。
「お誕生日おめでとうございます」
反応がないので、もう一度そう言った。
すると、ようやく動きを取り戻した彼は、ああ、と少しかすれた声で呟いた。
「ヘスターっ!!」
後ろから飛びつくような勢いで肩を掴まれて、私はびっくりした。
「ロンに酒を贈ったのか!?」
「え?はい、だって他に好きなものが思いつかなかったから…」
若様が、すごい形相だ。指が食い込んで肩が痛い。
「お前は!なんてことをっ…」
はあ、とため息をついたロンが、私の額を指弾して言った。
「これだけ、ありがたくいただいておく。…マーカス、引きこもりの世間知らずのやることだ、本気にするな」
これ、だけ?
おかしな言い方に私は引っかかった。
他には何も渡す予定じゃないんだけど。
「ヘスター!分かっているのか?成人女性が成人男性にアルコールを贈るのは、『この酒で自分を楽しんで下さい』という意味になるんだぞ!」
「ええ!?」
なんだその慣習!
それじゃあ、黒猫屋はそれが分かっていて大笑いしていたのか。それでもって、ロンが固まったのは、私がそういうお誘いをかけたことになっていたからなのか。
「これは!この、その、違って!」
私は盛大に慌てた。
それをロンは冷たい目で見て、もう一度ため息をついた。
「お前、危ないからさっさと嫁に行ってしまえ」
「ほんとに!ごめ、他意は全く!」
「分かっている。もういい」
いっそ冷たいくらいの声で遮られて、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
すでにロンの目はこっちから逸らされて、机上の書類に向かっている。その傍らに立ちつくしている私に、若様がびしっと指を突きつけてくる。
「ヘスター、いいか、今後男にプレゼントを贈るときには、必ず私に相談しろ」
「ええ?」
「いや違うな、男には何も贈らなくていい。分かったな」
「はあ」
「ヘスター!お前は分かっていないっ」
若様がうるさいけど、私はショックでそれどころじゃなかったから上の空だった。
だって、喜ばせたかっただけなのに、怒らせてしまったから。私は、成人のお祝いを若様とロンがしてくれたことが本当に嬉しかったんだ。だから、2人にも誕生日にはきちんと感謝の気持ちを返そうと思っていたのに。
だから、もうロンにもプレゼントをするなという若様にだんだんいらいらしてきた。
「分かりました!もう金輪際、男性にプレゼントなんてしませんからっ。若様のお誕生日にも絶対渡しません!」
そう叫んで部屋を飛び出してしまった私には、若様やロンがどんな顔をしていたかなんて、分からなかった。私の頭の中は、生まれて初めての家族以外へのプレゼントが不発に終わったショックで埋め尽くされていた。
翌週、少し気まずい気持ちを抱えて出勤した私は、すぐにそれどころでなくなった。
若様が、久々におかしな品を持っていたんだ。
土日の間に物売りに引っかかったのか。
挨拶した瞬間も大事に握りしめていたし、その後拝むように両手で掲げて見つめていたのですぐに分かった。手のひらに収まるくらいの、小さな布製の何かだ。
職務上、若様が詐欺被害に遭ったのであれば見過ごすわけにはいかない。
「…今度は何を買わされたのですか」
ところが、そう声をかけた私に若様は堂々とこう言った。
「買った?失礼な、何も買わされてなどいない。これはもらったんだ」
それは珍しい。でも、初回は無料プレゼントにしておいてそこから始まる詐欺もあるから、一応追及しておく。
「どなたからですか?」
「治安ナイトのファンからだ」
…私は、絶句した。
治安ナイト様は、とうとうファンからの貢ぎ物が届くほどになってしまったのか。詐欺ではないだろう、詐欺ではないだろうけど、でもこれはこれで、領主様の若様を戦隊ヒーローに仕立てた張本人としては、衝撃の事実だった。
いいのか。このまま彼を戦隊ヒーローのレッドにしたままで…そのうち赤い全身タイツとか、治安ナイトサイン会とか、そんな展開になったりして。まさか、いやでも。
私の驚愕と動揺をよそに、若様はピンクの小さな巾着をそっと指先で撫でた。
「恋と美のお守りなんだそうだ」
ああ、と私は嘆息した。
美しい治安ナイト様の変わらぬ美と、ささやかな自分との恋の成就を夢見て贈ったわけだ。可愛らしい巾着は、庶民に手に入る精一杯上等な布に見える。一生懸命材料を選んで、人は理非と張り丁寧に作った品なんだろう。
それにしても。
贈った娘さんの気持ちはよく分かるけど、そのお守りを後生大事に抱えている若様が分からない。恋と美…前に当分女性関係からは距離を置くと聞いた気がするし、そうなると残るのは、美。美なのか。
「…案外、ナルシストなのですね」
違うっと若様が叫んだけど、私は取り合わなかった。
はっきり言って、どっちでも良かったからだ。何を大事にするかはその人の自由だし、怪しいものではなさそうだと判断した。
なんであれ、ここへ来るまでに感じていた気まずさを追い払ってくれたんだからと、私は見知らぬ娘さん作の謎のお守りにとっても感謝していた。




