転生者とかいぎと
「それはともかくとして、重要なのは、ここ数か月のうちに複数の種類の詐欺が行われていることだ」
ロンが涼しい顔で話を戻したので、私もはっとした。
単純に考えて、一人の人間が偶然新しい詐欺の手口を考えついたのなら、しばらくはその詐欺の被害が続くはずだ。それが、若様が最初にひっかかった投資詐欺に続いて、オレオレ詐欺、そして黒猫屋では代引き詐欺が起きている。
「・・・実はもともと詐欺事件って多かったんですか?」
「いや。単純な贋作売買などは昔からあったが、こういう手の込んだものは記録にない」
ロンは今日一日膝においていた分厚い書類を叩いた。どうやら、それは過去の事件の記録かなにかだったらしい。
「詐欺っていうのが犯罪として法律に定められていなかったから、記録されていないのかもしれませんよ」
「その可能性もある。陳情書の記録も調べるつもりだが、それにしても、これは普通じゃない」
黒猫屋も本気でそう思って言ったわけではなさそうで、ロンの言葉を聞くと簡単に頷いた。
私は、普通じゃない、という言い方にどきっとしていた。確かにその通りだ。短い期間に、急にいろんな手口の詐欺が増えたのは、どう考えても自然なことじゃない。
ロンがいつも以上に厳しい口調で言った。
「ともかく、このことはマーカスから領主様の耳にも入れておいたほうが良さそうだ」
それから詐欺についての知識のすり合わせをしたが、さすがの黒猫屋もこの流れで、否応なしに真剣な顔になった。
「詐欺の定義はもっと広いんじゃないか。騙して勘違いさせることが詐欺で、それによって相手から財産を奪ったり、何か得をすれば罪だってくらいにしておいたほうが、いろいろ付け足しやすい」
「なるほど」
「投資詐欺、オレオレ詐欺、寸借詐欺、結婚詐欺か・・・あとは、さっき言った代引き詐欺に、融資詐欺ってのもあったな」
「保険金詐欺はどうしましょう」
「こっちじゃ保険自体一般的じゃないからな。とりあえず坊ちゃんに渡す資料には載せておけば」
「騙すって考えれば、偽物の販売も詐欺ですよね」
「それは美術品の贋作売買を罰する法律があるが、一応メモしておいてくれ」
「じゃあ、いかさま賭博もそうだな」
私の書いた文書を見て黒猫屋がしゃべり、たまにロンが口を挟む形で、書き込みはどんどん増えていった。
2時間ほどみっちり話し込んで、会話が途切れたところで、誰からともなくため息がもれた。
疲れた。コルセットがなかったらものすごい猫背になっていると思う。
「今日は、これで一旦閉じよう」
ロンの一言で、私はもう一度ほっと息を吐いた。
黒猫屋もうーんと伸びをした。
「俺もただの学生だったし、やっぱり、ざっくりしたことしか思いつかないなあ」
「それでも、法制化が早まるだけでも大きな意味がある。協力、感謝する」
ロンは真摯な態度で口にした。
私相手にはとらない態度なので、私はちょっと冷めた目になってしまう。
次は法案を作る資料のためにできるだけ具体例を挙げることになって、数日後またここに来ることが決まった。
「それでは、今日はこれで失礼する」
「了解です。ちなみにロン様は次回も来るの?」
「ロンでいい。イグナス氏は年上だし、我々はもう協力者という立場だ」
「じゃあ、俺は黒猫屋でいいから。で、次回もデートにはしてもらえない感じ?」
本人を目の前にして淡々とそういう話をするのはやめてもらえないかな。でも、こっちにふられても困るので私は黙るよ。
ロンの目がちらりとこちらを向いた気がしたが、私がつま先とにらめっこしているのを見て諦めたのか、ため息混じりに言った。
「俺の予定は上の命令によるから分からないが、本心から交際を望むのなら、仕事にかこつけずに誘うべきではないか」
「あー、そうくる?でもさぁ、ヘスターちゃんみたいなタイプは、デートって言っても理由がないと会ってくれないし」
「その辺は、本人に話して欲しい」
本人ですが、話して欲しくありません!
一話分が短くなってしまったので、もう一話投稿します。




