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_君にまたこいねがう  作者: みなたけ6
転 不思議な少女
22/37

22 闘争

本日は8時、16時、24時に連続投稿の予定です。

「――っ!」


 陸は、不倶戴天の敵である烈をきつく睨んだ。 

 身体は瞋恚に熱くなっていたが、努めて陸は静かに呼吸を練る。

 相手は人外の妖怪。自分を失って勝てるような甘い相手ではないのだ。

 へその下のあたりが熱く、普段以上の力があふれてくる。


 大地が揺らぎ、豪風が荒れ、雷鳴が轟くような爆音が聞こえる。  

 鑑が隣で、二体の巨兵を相手に壮絶な闘いを繰り拡げている。

 紫織が後ろで、弟の勝利を信じて見守ってくれている。

 下唇を噛み、拳を震わせ、泣きそうな顔で静かに堪えている。


(――おかげでオレは、目の前のクソ猫野郎だけに集中できる)


「はっ、なんだよ、おまえさん。まさか人間が、妖魔の俺に勝つ気なのかい?」


 烈は人を小馬鹿にするような薄笑いを浮かべる。

 キスされたとき。虎鉄丸を強化したとき。烈だけは攻める機がいくらでもあったのに、なにも仕掛けてこなかったことが、その笑みをさらに不気味なものにしている。


「……っ!」


 知ったことか。陸は木刀――虎鉄丸の切っ先を、烈の喉元に突きつけることで応じる。

 まだそれしか使うことを許されていない正眼の構え。 

 ただそれだけをひたすら練習してきた正眼の構え。 

 虎鉄丸の柄が、陸の憤怒で握りしぼられる。

 

 自分のことはまだいい。

 だが、命を取りなした紫織への裏切り。

 命を見逃した鑑への裏切り。 

 二度の大きな裏切りをしておいて笑っていられる烈の言葉など、陸は耳を傾けるだけでも不愉快極まりなかった。  


「阿呆だねぇ。いくらアレから力を借りたからって……」

「はあぁっ!」


 問答無用。

 踏みこみ、陸は虎鉄丸を一閃させた。

 その力強い太刀筋は、未完成ながらも才覚を感じさせる。一日と欠かさず素振りを繰り返してきた愚直な修練の成果は、烈の体に渾身の一撃を落とす。 

 しかし――


「――せっかちだな。親御さんから話はちゃんと最後まで聞きましょうって教わらなかったのかい? ……ああでも、そんな棒きれでも強化呪符が施されればそこそこ堅いな」 

「なっ」 


 鉄塊でも打ち据えたような手の痺れ。陸の斬撃は、烈のクロスされた両腕に阻まれていた。

 本気で――それこそ骨の一、二本は叩き折ってやるつもりで、陸は虎鉄丸を打ちこんだつもりだった。これは軽い竹刀ではなく紫黒檀の木刀。元々水に沈むほど重く、鉄木とも呼ばれる堅い木材なのだ。その上、鑑の魔法で強化されたはずの一振りなのだ。

 ――徐々に押し返してくる腕の下から、烈の欄とした朱い眼が光る。


「なに驚いているんだい? それで、さっき教えてやろうとしたのはなぁ。アレから力を借りたからって――人間の畏怖から生まれた妖魔おれたちのことを、人間の癖に甘く見んなよってことだ」 


 烈は陸の耳許で嘲るように囁いた。ゆっくりと身体を犯す毒のように。  


「うるせえ。クソ猫妖怪が!」 


 陸は開き足で一度後退し、再度踏みこんだ。狙いは両腕をあげてガラ空きの胴へ。

 だが、烈の妖気に当てられた陸の身体はこわばり、打ちこみが甘くなる。


「はっ。なんだい、そのへっぴり腰は」


 拳に力負けする。陸の手首が軋み、虎鉄丸が飛ばされる。

 烈の身体がさらに前へ動く。影が流れるような動きだった。いや、陸が捉えてられたのは残像に過ぎないものか。


「あぐっ?!」 


 陸が膝を折る。少なくとも見守る紫織には、なにが起きたかまったくわからなかった。

 烈の拳が、陸の脾腹に炸裂していた。

 鉄球のような重い拳に、陸は息をうまく吸えずにいる。


「陸くん――!」 

 

 視界が回る。だが紫織の悲鳴はしっかり届いた。それに陸は息を吹き返す。

 自分が倒れれば紫織が危ない、という鑑の言葉を頭の中で繰り返す。


「ふむ? 体の方はもっと頑丈になっているのか……。殴った俺まで痛いや。ほらよ、第二ラウンドといこうや」  

 

 落とした虎鉄丸を陸に投げる余裕を見せ、烈は両腕をだらりと前に突き出した。尻尾と耳が好戦的に細かく動いている。


◆◇◆


「くそっ。ざけんなよ」 


 憤怒が、全身を駆け巡る。

 鉄の味の混ざるツバを吐き捨て、陸は虎鉄丸を八双に引きつける。 

 痺れた手首に力を集めて、呼吸を平静に整える。 

 骨は折れていない。身体もまだ十全に動く。

 八双の構えを上段に移し、ゆるりと虎鉄丸をさげて正眼に構えた。

 陸の背中に、冷たい汗が流れてくる。烈が放つ気炎のような闘気は、肌をひりつかせる。それでも屈伏を訴えるほど絶望的なものではない。


 陸は腹に力をためた。格上の相手との仕合のようなものだ。気後れを見せれば、威圧されて呑まれる。自分が勝つためには、敵を上回る気迫を見せればいい。

 力で大きく劣る分、心だけは負けてはならない。

 剣道の大会のときのように、否、そのとき以上に陸の精神は研ぎ澄まされていく。


「こないの―い? 今なら―――」 


 烈の口が滑らかに動いている。だが、元より相容れない不快な相手だ。 

 烈の挑発は、陸にとってなんの意味もなさない雑音にすぎなかった。 

 ただ、紫織が見守っているのを感じる。

 鑑が奮闘しているのを感じる。

 それなのに、こんなところで自分だけが――


「――負けられるかよっ!!!」 


 陸は、それしか知らないように烈へ一直線に疾駆した。 

 彼は考えもなく猪突猛進したわけではない。

 格下の相手が待つのはジリ貧になるだけだと、陸も剣道の試合でイヤというほど見てきたからだ。

 防御は考えない。できるのは攻めて、攻めて、攻めまくることだけだ。


「――てやあっ!!」 


 斜に切り結ぶように小手の一撃。

 縦に叩き割るように面の一撃。

 横に薙ぎ払うように胴の一撃。

 さらに中学では使用を禁じられている突きの一撃。 

 攻撃は最大の防御。陸が知っている数少ない格言で一番好きな言葉だった。

 それを実現するような怒濤の連撃が加えられる。  


「ぬおぉぉおおおお!!」 


 馳せ違い、軋みをあげる木刀。 

 次々と有効打が決まるが、烈は嗜虐的な笑みを浮かべたままだ。


 全身から吹き荒れる汗。

 五十合打ってからは、その無意味さに数えるのをやめた。 


 獣のように荒く乱れる呼吸。 

 腕の感覚もなくなり、徐々にただの棒のようになくなっていく。 


 勝手に瓦解しそうになる身体。

 食いしばった口はすり切れ、鉄の味に溺れそうになる。


 限界を超えて繰り出される陸の攻撃は、さしもの妖魔の烈にも鈍痛を蓄積させていく。 

 しかし、ついぞその膝をつかせることは叶わなかった。

 疲れが目立ってきた陸の連撃の間隙を、烈は咎める。


「はっ。剣道(スポーツ)なんてチャンバラごっこが、殺し合いに通じるわけないだろっ!」 


 烈の身体がすっと沈み、前へ跳躍した。

 陸の斬撃を鼻先でかわし、木刀の間合いの内へ躍りこんでくる。

 爪牙が砕け散った拳。何度も虎鉄丸を受けて腫れている。それが有り余る速度に火の玉のようにうなりをあげる。


「あがっ?!」 


 峻烈な打撃がまた腹に決まり、陸はたまらずうずくまった。

 ……間違いだったのは、これが試合ではなく死合だったということだ。

 例えどれだけ面を決めようと、鮮やかに胴を薙ごうと闘争はおわらない。 

 それこそ、どちらかの命が尽きるまで。 

 そして陸が打破しなければならない烈の体力は、人外そのものだった。




戦闘 陸VS烈

地形効果 黄泉路・岩場 陸・微強 烈・有利

勝敗 陸敗勢 


○久遠院陸

職業 中学生 レベル12

クラス 無神論者(エイティスト)・人

種族 人間(モータル)・初級 

属性 土

性格 純真(体力++、武力++、知力-) 


ステータス 鑑の加護下

体力 25(+11)武力24(+3)

速力 26(-1) 技量25

知力 47    魅力76(+1)

胆力 73(+5) 呪力??(+?)


装備

武具・虎鉄丸改 武力+3 胆力+5

防具・学生服♂ 体力+1 魅力+2 速力-1

装飾・冥銭 体力+10 呪力+?


使用特殊技能

剣術(低) 不撓不屈(上~) 鑑の加護・仮(低)


○烈

職業 地獄の見習い同心(ソウルキャリー) レベル12

クラス 闇の眷属(エレボス) ・妖、魔

種族 火車猫・下級

属性 火

性格 高慢(速力++、知力+)  


○ステータス ※負傷・召喚中

体力 46(+2) 武力 35(-5)

速力 42    技量 10

知力 33    魅力 63

胆力 40    呪力 38


装備

武具 牙爪・火(壊) 武力-5

防具 藍の着物  体力+2


使用特殊技能

魔性(下) 慢心(中) 死の門番(下) 妖眼(低)


魔法技能 魔導型変現法(低) 鬼道系練度初 神道系練度× 陰陽道系練度-


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