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26 付与品

「そういえばアル、防具を手入れに出さないといけないよね」


 決闘で、ライザの振るう剣により、深いものこそ無いが、多数の傷が刻み込まれた。

 傷があればその分、防御力は落ちるのだから、職人に手入れをして貰うか、最悪買い換えを考えなければならない。


「あれ、ちょっと疑問。

 わたし達の装備はアルさんに貰ったのに、何でアルさん自身はあんな普通の防具を使ってるの?」

「そう言えば・・・って、ああ。

 あまり目立った装備だと、アルマンとして動くには目立ち過ぎるという事なんじゃないかな」

「うん、ライザが正解。

 ただし、ありふれた物だけに、実験するのに困らなかったから、かなりの付与を施してあるんだ。

 だから、二人にあげた稀少素材や上位素材を使った物よりは性能は落ちるけれど、それでも、下手な金属鎧以上の防御力はあるぞ」


 実際にアルが施していた付与は物理耐性強化、魔法耐性強化、衝撃吸収、現状維持の四つであり、ライザとイルナに与えられた防具等の、稀少素材製の物への付与は、こうした通常品での実験が行われた上で施されているのだ。

 ただし、現在アルが通常使用している防具に関しては、その表面素材に物理耐性強化はかけられていないし、現状維持も常時発動にはなっていないという違いはあるが。


「何故表面素材には、物理耐性を行っていないの?」

「そりゃ、例えば剣で斬り付けられて、物理耐性の所為で傷が付かなかったりしたらマズいだろ」

「ああ、成る程。だから手応えがおかしかったんですね。体移動とかで表面を流されたのかと思ってました」

「そりゃ、そういう風に勘違いしてくれる様に誤魔化してる訳だしね。

 てか、ライザはたまに敬語っぽくなるけど何で?」

「え、ああ。ええと、地の自分の話し方も、長い間基本的に使わなかったから・・・」


 要は、未だ両親と暮らしていた頃には、地の話し方と、貴族令嬢としての話し方を切り替えて使っていたらしい。

 成人を迎え、基本的に貴族令嬢としての話し方を普段用にして、舞踏会デビューに向けて、外での話し方も学び始めていたところで生活が一変。自分の意識を保つ為に、騎士の話し方--昔屋敷で読んだ本に書かれていた話し方というのはどうなのか--を意識して使う様にしたらしい。

 ライザにとって地の話し方は、小さい頃の話し方であって、その上から幾つもの作り物の話し方が重なったという事だ。

 最後の、騎士風--ライザ談--という作り物の話し方がトドメであった気はするが、つまりはどれもこれもが馴染む前に変わって行き、今現在の、年頃の自分の話し方というのを持っていない事で、ライザ自身にも混乱が生じているという訳だった。


「そうか、無理して言葉使いを変えていたから、そっちに引っ張られるのか。ま、無理しない話し方で良いよ。

 年単位で気を張っていたんだろうし、その内に、今の自分の話し方に安定するだろ」

「あー、アルさんがライザの好感度上げてるし」


 『何が?』あるいは『どこが?』と居る座に返して、『地でやってるのか!』と返されたりと、ワイワイと騒がしくも、どこか暖かい雰囲気が広がる。

 自然と笑みが浮かぶ、そんな新しい生活が始まった事を、三人共が感じたのだった。


「それで、現状維持ってどういう付与効果なんです?」

「丁度良いから、見てもらおう」


 そう言うと、家に帰ってきて外した状態で置いておいた革鎧を手にする。


「こうして魔力を通して、付与を発動」


 すると、表面に付いていた細かな多数の傷が、見る間に消えて行き、まるで整備したか購入したての様に綺麗になる。


「つまり、付与を施した時点の状態を維持する効果、って言えば分かり易いかな。

 だから当然、付着した汚れとかも無かった状態になる訳だ。

 ちなみに、この革鎧はわざと表面には傷が付く様に調整しているから、態々魔力を流す事をスイッチにして発動するけど、二人の装備を含めて、上位素材や稀少素材で作った物は常時付与効果が発動する様になっているから、魔力を通す必要は無いよ」

「ええと、つまりは常時、最適な状態を保つという事?」

「そういう事だね。とは言え流石に、付与を上回るダメージを受ければ、その効果も失われるから意味無いけれど」

「それって、かなり凄い付与じゃないかな」

「さあ? 実際にどういう付与が施された物が出回っているのか知らないしな」

「それもそうだね」


 実際には、簡単な魔法付与品自体は、それなりの数が出回っているが、それらの多くは元々素材が持つ特性効果を増幅強化しているだけの物であり、独自の魔法付与を施した物は、作れる者の少なさもあり、市場に出る事がほぼ無い事に加えて、付与魔法自体が術者個々で個別に行われている為、どの様な魔法付与があるのか自体、その情報は知られていないのだ。


「使えれば良い、って事で」

「まあ、わたしたちにとっては、アルさんから貰えた身だから、何の不満も無いけどね」

「そうだね。私達は恵まれている、って言って良いんでしょうね」


 これは、アルが特殊と言う訳では無く、他の付与を施された武器や防具等も、似た様な経緯で与えられた者が持つ傾向がある。

 結局は、売る為に作るのでは無く、研究の結果出来ただけという経緯が、世にその技術が流出する事を妨げているのであろう。

 もっとも、マイナーな魔術を扱う者が、研究や探求に意識を向け過ぎ、閉鎖的である事が一番の理由である可能性が高い訳だが。


「どっちにしろ、考え無しに外に出せば、金には困らないだろうけど色々混乱と厄介事を産む。とは言え付与した物は実際に此処に有る。

 だったらまあ、身内や信頼出来る知人だけでも使えば良いんじゃないか? というのが付与術師の一般的な考え方だからな。

 それを幸せと思われても、オレとしては何とも言えないぞ」

「そういうものなの?」

「そういうもんだ」


 そもそも、一番流出している付与品は迷宮産である。その入手は当然、運次第という事なのだから、人が作った物も結局は運に依るところが大きいという事になるのだろう。


「まあ、言っておいた様に、装備品や消耗品は好きに使ってくれて構わないけれど、補充が必要な物もあるから、事前でも事後でも良いから一応言って欲しい」

「えっと、さ、実は一つお願いがあるんだけど・・・」


 イルナはそう言って、アルを見つめるのであった。

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