10 襲撃
「さて、ここで一旦地上に戻るか、二十層をクリアして潜るかだが、どうする?」
「時間的には未だ早い。俺はキリ良く二十層を終えてから戻るべきだと思う」
「そうだね。わたしもイェランに同意かな。
また明日、潜って最初に疲れるボスを残すより、ここで済ませちゃって、後は宿でゆっくり休んだ方が良いかな」
「ふむ。イルナとイェランは、二十層をクリアしてから出る、と。我もそう思うが、アルマンはどうかな」
「オレは、二十層では付いていくだけだからな。特に意見は無い」
「そうか。では、疲れる事は先に済ませてから戻るか。出たらみんなに一杯奢ろう」
「いや、ライザは飲むなよ」
「なっ! アルマンは酷いな」
「先日の醜態を、もう忘れたのか?」
「うっ・・・」
まあ、それだけ気を許してくれているのだろうと、良い方に捕らえようとしたアルマンを、誰も責める事は出来ないであろう。
旋風の翼の二人も苦笑い気味である。
「ま、まあ、その話しは後でするとして、そろそろ先に進むとするか」
自分で振っておきながら、話を打ち切り、小休止の後片付けを始めるライザ。
短い日数とは言え、四六時中一緒に居たからか、アルマンというメンバー外が居るというのに、どうも地が透け始めていた。
もっとも、それ以前に酔って地をさらけ出している事も、意識が緩む原因であった可能性は高いのだが。
「陰十四・・・人間だな」
二十層のエリアボスは通常体だった事もあり、特に危ない場面もなくすんなりと終わった。
広いボス部屋の、入って来たのとは反対側にある、転移門へと続く扉を抜けた時、アルマンが声を発して足を止める。
陰、つまり隠れている状態。それが十四。
つまりは隠れている人間が十四人居るという事になる。
もっとも、この層にはボス以外の魔物は出ない為、言うまでも無く人間となるのだが。
「こんなところで待ち伏せ? ボスからの落ち物狙いの盗賊か「きゃあっ!」っなっ」
アルマンの指摘を受け、前方に意識を向けた途端、後ろから悲鳴が上がる。目の端には崩れるイルナの姿が映った。
何が起きたのかと後ろを振り向こうとした時には、イルナのすぐ傍にイェランが迫っていた。
「っつっ!」
反射的に剣を構えるも、ライザが扱うのは刺突剣だ。パラシュという、突きだけでなく切る事も考えた長剣ではあるが、それでも刃は細い。
ギャリッと大きな音がして、咄嗟に構えたパラシュの刃が折れ飛ぶ。腰に装備していたもう一本の、シャブラという、突きと斬り用のサーベルに手を動かすが、届く前に体の自由が効かなくなり、その場に崩れ落ちた。
それでも冷静に回る頭で状況を急ぎ判断。この症状はおそらく、麻痺系の状態異常であろうと分かる。視線の届く範囲に立っていたイェランの手には、左手に何時も持っている盾を振り下ろし、右手には小さなナイフが突き出されていた。
「おっと、アルマンは動くなよ? この女二人は、買い手が居るんでね。傷つける事は避けているが、お前さんは違うんだからな」
「ぐっ・・・イェ、ランっ。
どうい、う、事、だ」
「お、流石銀Ⅲってところか。麻痺食らっても何とかしゃべれるんだな」
「き・・・きさ、ま」
「ま、あんたは後だ。
さてアルマン。お前さんが持ってる無間袋を、中身毎貰えるかな。
力尽くで奪っても良いんだけど、万一破損でもしたら勿体無いからな」
そう言って笑顔、それも口の端を引き攣る様に上げた、相手に冷笑を浴びせる様な表情を向けてイェランは要求する。
が、イェランが顔を向けた時には、アルマンは懐から煙草を出し、一本口にくわえたところだった。
「なんだ、おい。随分余裕じゃねえか。
分かってるのか? お前さんが探知した様に、ここには十四人が潜んでるんだぞ。オレを入れて十五人だ。
それともあれか、状況判断が出来ずに、思わず一服って動いちまっただけか」
そう問いかけるも、アルマンは返事をせずに、くわえた煙草に火を付け、深く吸うと、紫煙を吐き出した。
「おい! 何とか言え「ウルズ」ぐうぁっ」
アルマンが一言、短い言葉を唱えると、目に見えない衝撃が周囲に走り、イェランだけでなく、潜んでいた十四人も吹き飛ばされ、迷宮の壁に叩き付けられた。
その際に、かけていた魔法の効果も切れた様で、ローブを被った十四人の者達の姿も露わになる。
「ラド」
もう一言唱えると、叩き付けられたものの比較的ダメージが少なかった者達が、アルマンに対して動こうとしていた、その動きが止まる。
「な、何だこれ。体が動かねえぞ。
おい、何をした!」
「アンスール」
「あ、がが、ぐ・・・此処に有る、魔晶、を埋め込む、と、変質・・・ぐぅっ」
「お、おい、何喋ってるんだよっ! 何が起きてるんだ!」
三言目で、ローブを被った者の中の一人が言葉を発した。その発声から、半ば無理矢理話しをさせられている様にも聞こえる。
「さて、とりあえず、二人を助けるかね。
五月蠅いし・・・ウルズ。さてと、ちょっと失礼」
イェランの質問を完全に無視し、倒れているライザとイルナの所へと、アルマンは移動した。膝立ちになり、先ずはライザの様子を伺う。
この時点で、いや、四言目に唱えた言葉によって、イェランは口も動かせなくなった為に、言葉を発する事も出来なくなっている。
「んー、軽く刺された感じか。
先ずは解毒。次いで治癒」
軽く掌を、ライザが刺された傷のところに当てて唱えると、ライザの体が動く様になると共に、刺された時の傷も消えた。
「え? 動ける。って、治癒魔法?」
「さて、こっちも。解毒。で、治癒」
同じ様に、イルナも自由を取り戻し、起き上がることが出来る様になった。
「どこか不調はある? 無いね。
それじゃ悪いけど、オレはこいつら見張ってるから、戻ってギルド長に伝言頼む。
状況終了、って言えば分かるから」
「え? いや、一体何が」
「その辺りは、後でギルド長から説明有るだろうから。とりあえず今は、こいつらの対応が先だな」
「あ、ああ、そうだな」
倒れたまま、動きを止めているイェランを睨み付け、しかし首を横に振ると、イルナに向かってライザは言う。
「イルナ、悪いけどギルド長に連絡を頼む。 我は、此処でアルマンと共に見張る事にする」
「あ、うん。了解」




