拗らせ男の独白 3
タウンハウスに一時人払いをして、彼女と過ごす。
頭がおかしいと言われたらそれはそうなのだが、もう俺はこのまま死んでもいいと思っていた。
いや、復讐をしてからにはなるが。
彼女を生き返らせる魔法なんてないのだろうか。
そうすれば、俺は今度こそ愛を伝えたい。
叶わない事だが、どうしても願ってしまう。
ふと闇魔法にて禁断の魔法を使ったとされる女の話を思い出す。
本に載っていたと思うのだが……どこにある?
タウンハウスに置いてある本の数はかなりの量だ。
この中から見つけるなど至難の業であろう。
どれだけの時間がかかったのだろうか。
気になる本を1冊ずつ確認していれば、何故か本棚から少しだけ前に出ている本が目に留まる。
その本には数々の罰を受けた者たちの事について書いてあった。
そして魔術の項に俺が1番知りたい事が書かれている。
「死人を生き返らせる……」
俺にはもうこれしか無いとさえ思った。
急いでこの闇魔法を使ったとされる女に会いに行く用意をする。
この女は、王都から少し離れた森の中にある家から出る事を禁止されているようだ。
セリーヌを抱き抱え、森へと出発する。
森へと近づけば、後は監視の目をくぐって家に近づく。
体を鍛えていたことが初めて役に立つとは。
そしてやっとの思いで家の中へとたどり着いた。
「おやおや、お客さんとは珍しい」
そう話すのは、結構な歳を重ねたと思われる婆さんだ。
いかにも悪い魔法を使いそうな風貌である。
「だが、家に入る時はノックをするもんじゃよ」
「あ、あのさ、お願いがあるんだけど」
「ん〜??なんじゃね?」
「こいつを生き返らせて欲しいんだ!!」
「そんな事だろうと思ったよ」
そう言った婆さんはいきなり、肩が痛いのぉと言い出した。
……そういう事かよ。
「肩出しなよ、婆さん」
「おお〜!こりゃ悪いねぇ〜」
そう言って優しく肩を揉んでやる。
そうすると次は、
「う〜ん、腹が減ってきたのぉ〜」
「……何でもいいか?」
適当にサンドイッチでも作ってやる。
挟むだけなら俺でも出来るからな。
「植物に水を忘れてたのぉ〜」
「分かった分かった。俺がやる」
こうしてたくさんの願い事を聞いてやった俺に対して、そういえば生き返りの話なんじゃが……といきなり話し出した。
「実は死者を生き返らせる事などワシには出来んのじゃ」
「はぁ〜!?」
「待て待て。確かに出来ないもんは出来ないんじゃが、違う方法がある」
「違う方法?」
「過去に戻るのじゃ」
タイムリープと言うやつじゃな。とそう言って婆さんはセリーヌの方を向いて悲しそうな目をする。
「あの子に生きていて欲しいんじゃろ?それなら過去に戻って未来を変えるしかないと思うぞ」
「本当に出来るのか?」
「絶対とは言えんし、何かしらの問題が生じるじゃろうな。だが、ワシにはお前さんの意識を過去に飛ばす事しか出来んよ」
「ならそうしてくれ」
「即答じゃな。ワシから言える事は、どこかの過去にお前さんの意識を飛ばす。それが原因でお前さんの体に何が起こるかは知ったこっちゃない。意識を抜いたお前さんのこの体は死ぬ。それだけじゃ。」
「ああ、いいよそれで」
「なら――」
「!待ってくれ」
少し待ったをかけると、セリーヌの手にキスをする。
「……本当に好きなんじゃな。戻ったタイミングが間に合うように祈っとるぞ」
「もう大丈夫だ、頼んだ」
そうして俺の目の前が白く光り輝いて何も見えなくなる。
俺の目も耳も何もかもが全て感じられなくなった。
「行ったか……」
そう1人で呟いた老婆は、目の前に倒れている意識……いや魂が抜けている男を、可愛い女の横に浮遊魔法を使って並べてやる。
「過去を覗いたがあんなに一途な男は初めて見たよ。後は素直になれたらいいのだろうけどねぇ。……せっかくならこの子にも同じ魔法掛けといて見るかね。まあ無理は元々、奇跡が起きるかもしれん」
そう言って同じ魔法をかけてやるが、何の反応もない。
「やはり駄目じゃな。死人には無理か。メモメモっと」
――そして今に至るわけだが。
あのまま家に帰ると、記憶を整理してこの状況を改めて考える。
まず、俺は過去に戻っている。それは間違いない。
あの婆さんの魔法のおかげだ。
だが、その過去は俺の知っている過去ではない。
何故かセリーヌとすでに仲が良いのだ。
理由はこの黒髪である。
俺の髪は何故か黒髪になっていた。
しかもそれがセリーヌに助けられた次の日に変わったというのなら、それはもう闇魔法の影響なんだろう。
だがそのおかげで、セリーヌの方から話しかけてもらえた。
しかもその流れで礼を言えて、話も弾むとは。
現在の俺を褒めてやりたい。
だが今、1番の問題が差し迫っている。
3ヶ月後の殿下の誕生祭。
このままいけば、彼女は殿下の婚約者へと決まってしまう。
一体どう阻止すればいい。どうすれば……。
そう答えは簡単なのだ。
だが、俺と一緒になり幸せに出来るかは分からない。
それに婚約とは家同士の利害関係などが絡む為、俺が良くても侯爵家はいい顔をしないかもしれない。
それでも俺は!!
「父上、母上……。話がある」
そして俺の望みを言うと、父上は苦い顔をする。
この誕生祭での王家の考えを察しているのか。
だが、俺は譲らない。譲るわけがない。
そんな俺に母上は、やっと言ってくれたのねと。
俺の気持ちはお見通しだとでも言うように、完全に味方をしていた。
「とりあえず、侯爵家へ手紙出してみたらいいんじゃない?ルート、駄目ならそれで諦めなさい」
その母上の言葉通り、父上は侯爵家へ縁談の手紙を出した。
母上は何か父上に言っていたようだが、そこまでは俺は知らない。
「ルートは変わったわよね〜」
「どこが?」
「口調も態度も全部よ〜。結構悪い子になっちゃったけど、セリーヌちゃんへの愛は本物ですものねぇ〜」
「うん!おにいさまはセリーヌ様のことが大好きなんだよ!昨日もね、アクセサリーの本を読んでて」
「う、うるさいな!少し黙っててもらえるかい?」
「あらあら、もっと素直にならないと駄目よ〜?」
「おにいさまのお耳がりんごみたい!!」
返信はまだ来ていないが、母上と弟にいじられる日々。
だが、こんな風に接して貰えたほうが正直楽ではある。
父上のように、どうせ駄目だと暗い瞳を向けられ続けるのはきつい。
そして数日後に返信が届く。
父上と母上、俺の3人が執務室に集められた。
「開けるぞ……」
皆が静まったこの空間に、父上の声が響く。
そして父上が目を通した瞬間、ガタッと椅子から立ち上がった。
「ああ……」
「どうしたのです?結果は?」
「ああ……やったぞ!!」
「!!」
「あら、おめでとう〜」
俺がセリーヌと婚約?そんな夢のような事があっていいのか?
呆然と立ちすくむ俺と騒いでいる両親。
父上としては、隣の領地の侯爵とは仲良くしていたいだろうし、母上はセリーヌの事を娘のように可愛がっている。
きっとこの中の誰にも嬉しい結果であろう。
絶対に幸せにしなければならない。
もうお前に悲しい思いなど、させやしない。
そう決意を新たにして、次にくる顔合わせの挨拶への用意を始める。
だが、俺は忘れていた。
過去の俺がセリーヌと話すのは、ほぼ初めてなことに。
――素直になれない俺が顔を出すまで、すぐである。




