↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/62

第63話:白銀の軍勢

黒の軍団の怒号が夜を裂いた。


「突撃ーーっ!!」


二千の兵が一斉に王都の門へと殺到する。

先頭を走るクロウは、かつて騎士として守った門を、今は敵として破ろうとしていた。


「門を破れ!!」


魔法使いたちが呪文を唱え、炎と雷が門に叩きつけられる。

重装兵たちが破城槌を振り上げ、何度も何度も門を打ち据えた。


ドン、ドン、ドン──


轟音が響くたび、門が軋む。


「衛兵だ! 衛兵が来るぞ!!」


城壁の上から矢が降り注ぐが、黒の軍団は怯まなかった。

盾を掲げ、魔法で防ぎ、倒れた仲間を踏み越えて前進する。


「止まるな! 進め!!」


クロウが叫ぶ。

そしてついに門が破られた。


「やったぞ!!」

「王都に突入だ!!」


歓声が上がる。

黒の軍団が憎悪に駆られて門をくぐり抜けようとした、その瞬間。

静寂が訪れた。いや、静寂ではない。

空気が、変わったのだ。

重く、冷たく、圧倒的な威圧感が、門の向こうから溢れ出してくる。


「……なんだ、これは……」


クロウが立ち止まる。

そして光が門の内側から溢れ出した。

白銀の、神々しい光。

それは温かくも、優しくもなく。

ただ冷酷に、全てを照らし出す裁きの光だった。


「何だ……!? 何が起きている!?」


黒の軍団が動揺する。

光の中から、影が現れた。

いや、影ではない。整然と並ぶ軍勢だった。

純白の鎧を纏い、白銀の剣を掲げる兵士たち。

その数、千を超える。


そして、その中央に──

一人の騎士が立っていた。

髪を風になびかせ、白金の鎧に身を包み神々しい聖剣を手にした女騎士。

その瞳は虚ろで、感情の色を失っていた。


「ミリアム……!?」


クロウが息を呑んだ。

彼女の事は知っていた。正義を貫き、民を守り、誰よりも優しい騎士。

だが、今その瞳には何もなかった。


「神の軍……出撃」


ミリアムの声が、機械的に響いた。

感情のない、命令を実行するだけの声。


「侵入者を排除せよ」


その言葉と共に、千の神兵が一斉に動いた。まるで一つの生命体のように、完璧に統率された動き。足音すら揃っている。


「うわあああああっ!!」


最前列にいた兵士が剣を振るった。だが神兵の一人が動きがすべて見えていたかのように剣を弾き、次の瞬間、その兵士の胸を一突きで貫いた。


「ぐあっ……!?」


血を吐いて倒れる。


「なんだ、あいつらは!?」

「化け物か!?」


恐怖が広がる中、神兵たちは無言のまま次々と黒の軍団に襲いかかった。

だが、クロウは叫んだ。


「怯むな 相手も人間だ!!」

「俺たちは、ここまで来たんだ!!」

「引くな!! 戦え!!」


クロウの言葉に、黒の軍団が奮い立つ。


「そうだ!」

「俺たちには、失うものなどない!!」

「進めーーっ!!」


両軍が激突した。

剣と剣が交わり、魔法が乱れ飛ぶ。

怒号と悲鳴が、夜空に響き渡った。


だが──

圧倒的だった。

神兵たちは、痛みを感じないかのように戦った。

傷を負っても、怯まない。

疲れを知らない。


そして何より──


「くそっ! 強すぎる!!」


黒の軍団の兵士たちが、次々と倒されていく。

神兵たちの剣技は、まさに神業だった。

一振りで二人を薙ぎ払い、一突きで三人を貫く。


「畜生!! こんなのに勝てるわけが──」


その兵士の言葉が途切れる。

神兵の剣が、彼の胸を貫いていた。


「ぐあっ……!」


倒れる仲間。

広がる血だまり。


「退け! 一旦退くんだ!!」


クロウが叫ぶが、もう遅かった。

黒の軍団は、神の軍に蹂躙されていた。


そして──


ミリアムが、ゆっくりとクロウの前に立った。


「……ミリアム」


クロウは剣を構える。


「あんたは……正義の騎士だったはずだ」

「民を守る、誇り高い騎士だったはずだ!なぜ、こんな……!!」


だが、ミリアムの瞳は何も映さなかった。


「排除対象、確認」


機械的な声。


「神の名において──裁く」


聖剣が反射して煌めいた。

クロウは歯を食いしばり、剣を握りしめる。


「……くそっ!!」


次の瞬間、ミリアムが疾走した。

クロウが剣を振るうが──


ガキィンッ!!


聖剣に弾かれる。

そして、ミリアムの剣がクロウの肩を切り裂いた。


「ぐあっ!!」


クロウが膝をつく。

血が溢れ、痛みが走る。


「終わりだ」


ミリアムが、無感情に剣を振り上げた。

クロウは、死を覚悟した。

だが。その剣が振り下ろされることはなかった。


「……っ」


ミリアムの動きが、一瞬だけ止まった。

虚ろな瞳の奥で、何かが揺らいだ。

わずかに、ほんのわずかに──


「ミリアム……?」


クロウが呼びかける。

だが、次の瞬間。

ミリアムの瞳が、再び虚無に染まった。


「神の命令──遂行」


剣が振り下ろされる。


「クロウ!!」


仲間の叫びが響いた。

剣が、クロウの体を貫いた。

痛みより先に、衝撃が来た。

膝が折れる。地面が近づいてくる。手をついても、もう支えられなかった。


(……やられた)


倒れながら、それだけを思った。

だが、次の瞬間。


「——っ、あ……あ……」


ミリアムの声が聞こえた。

違う声だった。命令を告げる、あの無機質な声じゃない。苦しむ、人間の声だった。

クロウは顔を上げた。

ミリアムが頭を両手で抱えていた。剣を取り落とし、膝をつき、何かに抗うように身をよじっている。その表情が歪んでいた。あるいは何か別のものと、戦っているように。


(……そういうことか)


クロウは理解した。

操られている。あいつは、自分の意志でここにいるんじゃない。


「クロウさん!」

駆け寄ってきた兵士の顔をクロウは見上げた。


「……落ち着いて聞け」

「しかし傷が——」

「落ち着いて、聞け。俺はもう駄目だ」


事実だった。自分の体のことは、自分が一番よくわかる。


「お前は逃げろ。何としても生きて逃げきれ。そして——」


一瞬、ミリアムを見た。

まだ苦しんでいる。頭を抱えたまま、震えている。


「この軍のことを、カインに伝えるんだ。王国には人を操る力がある。ミリアムだけでなく、おそらくこの軍勢も同じはずだ。必ず……必ず、伝えろ」


「あなたを置いては——」

「俺に構うな」


クロウは短く、はっきりと言った。

「お前が死んだら、何も伝わらない。俺が死んだことも、無駄になる」


兵士が、唇を強く噛んだ。


「……必ず、伝えます」

「ああ」


走り去る足音を聞きながら、クロウはゆっくりと地面に体を預けた。


「……後は頼む。カイン」


そして静かに、意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。