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聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


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第44話:敵の本拠地が判明(エルヴァンside)

ヴェル=グレイア──

険しい山々と濃い霧に包まれたその地は、かつて忘れられた砦。

いまや、黒の軍勢の拠点として整備され、数百の兵と物資が集う隠れ里のような要塞となっていた。


カイン率いる本隊が帰還したのは、冷たい霧雨の降る夕暮れだった。


「全員、速やかに配置につけ。装備の点検を最優先だ」


ザイの指示が響き、疲労を滲ませた兵たちが整然と動き出す。


だがその中に、ひとつだけ──明らかに異質な目が紛れていた。

男は表情を崩さず、ただ荷を運びながら、密かに砦の内情を見渡していた。


(……ほう。予想以上の規模と結界網だ)


男──ゼクス直属の密偵は、視線の端で兵の動線と結界の刻印を記憶に刻む。


「このタイミングで結界の再調整……。つまり、ここが本拠地と見て間違いない」


彼は荷を置き、静かに姿を消す。

まるで最初からそこにいなかったかのように。



──数日後。セレファリア王国

王城の地下作戦室。


「座標の確認、完了しました。ヴェル=グレイア。黒の軍勢の拠点に間違いありません」


ゼクスは王の前に跪き、薄く笑った。


「予定通り、奴らの根を掴みました。王よ。次の手を」


王エルヴァンはゆるりと立ち上がり、口元に愉悦の笑みを浮かべた。


「では、刈り取りの準備を始めようか」


重厚な地図と立体魔導模型が浮かび上がる。

王エルヴァンはその中央に立ち、静かに模型の一点。

《ヴェル=グレイア》に指を置いた。


「敵の本拠地の特定は完了している。あとは仕留めるだけだ」


ゼクスが膝をつき、口元に冷たい笑みを浮かべる。


「すでにサルディナ自治国とは交渉済み。陽動と補給の見返りとして、我らの進軍に合わせて挟撃を行う意向です」


「ほう……あの守銭奴どもも、ようやく役に立つ気になったか」


エルヴァンは嘲るように言い、さらに続ける。


「ドラゴン……黒の軍勢が誇る切り札も、この本拠地ではまともに動けまい」


ゼクスが頷く。


「はい。竜の力は確かに強大ですが、あの狭い砦で解き放てば、自滅を招くだけです」


エルヴァンは指先を滑らせ、《ヴェル=グレイア》の南と北に、それぞれ二本の赤い線を引いた。


「サルディナの傭兵隊を北から、我が王国正規軍を南から。この喉元を両側から締め上げる。逃げ道はない」


「砦が焦土と化すその瞬間……民も兵も、希望ごと焼き尽くせ。

カインには、自分が作った理想の崩壊を、眼の前で見せてやろう」


その声には、支配者としての冷酷と悦楽が入り混じっていた。

ゼクスは一礼し、静かに言葉を継ぐ。


ゼクスは一歩前に出て、慎重な口調で言葉を紡いだ。


「……ただし、油断は禁物です。黒の軍勢は精鋭ぞろい。正面からぶつかれば、相応の損害は免れません」


エルヴァンがわずかに目を細める。


「こちらの情報を把握される前に、迅速かつ確実に叩く必要があります。

奴らの竜を封じたとしても、陸戦と接近戦においては、想定以上の手練が揃っています」


エルヴァンは視線を上げ、静かに別の策を口にした。


「ならば、一つ確実な手がある」


「なんでしょうか?」


「ヴェル=グレイアは深い峡谷に守られた天然の要塞。その堅牢さゆえ、地上戦では犠牲が増える。だが、上空からの魔導攻撃ならば話は別。彼らの結界は接触型に近く、一定距離を超えた砲撃や転移術式には対応できない」


ゼクスが目を細める。


「……つまり、遠距離から一方的に撃ち込むと?」


「そうだ。開発中の長距離魔導砲。本来は対城壁用の兵装だが、あの狭い砦に向けて照準すれば、範囲外から殲滅可能だ」


「……流石はエルヴァン様です」


エルヴァンの口角がゆるりと吊り上がる。


「ただし、魔導砲の射線には……サルディナの進軍ルートが一部かかります」


「構わん」


王の返答は即答だった。まるで、兵の命など最初から計算に入っていないかのように。


「傭兵共など、損耗して当然。使い捨てにしてやればよい」


「……かしこまりました」


ゼクスはわずかに一礼し、なおも冷静に続ける。


「すでに砲台を国境沿いに数機展開しています。

地脈の干渉は残りますが、砦を半壊させるだけの威力は十分です。

タイミングを誤らなければ、敵の動線と士気を一気に削げましょう」


エルヴァンは王座から立ち上がり、玉座の背に手をかける。


「では命じる。魔導砲の準備に入れ。黒の軍勢など、地の底に埋めてやれ。サルディナがどうなろうと、我が目的が果たせればいい」


ゼクスはその命を胸に刻み、静かに退室する。

その背後で、王の声が冷たく響いた。


「神の選びし王が裁く。人も竜も、抗う愚者すら──すべて、焼き払ってくれる」


こうして、戦場の空に、まだ誰も見ぬ裁きの光が、静かに装填され始めていた。

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