↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/57

第43話:冷静なる行動

峡谷を抜けた高地の、暁の光に染まる一角。

臨時の野営地に、冷たい風が吹き抜ける。


その中、アリアは焚き火の前に立ち、鋭い眼差しでカインを見つめていた。


「カイン。本当にこのまま引くの?」


その問いに、カインは静かに答えた。


「ああ。今、我々がセレファリア王国へ攻め込めば……

背後を、別の刃に突かれる可能性がある」


アリアの眉がわずかに寄る。


「ミレイダ聖王国と……サルディナ自治国か」


「どちらも表向きは中立だが、王国の権威が崩れれば、動かぬ保証はない。

とくにサルディナは利権で動く連中だ。混乱に乗じて、どちらにつくか分からん」


「俺たちは一度、拠点に戻る」


「拠点に?」


「今後に備え、兵の再編と連絡網の構築が必要だ。」


「でも……ミリアムという女性が連れ去られたのでしょ。放っておくの?」


「わかっている」


カインの声がかすかに低くなる。

だが、その奥には焦りではなく、燃えるような静かな怒りがあった。


「わかっているが、迂闊には動けない。

ここで無策に突撃しては多くを失うことになる。悪いが彼女一人のために軍全体を危険にさらすわけにはいかない」


カインは立ち上がり、背を向けるようにして歩き出す。

アリアは続ける。


「……でも、敵の手際っていうか、動き、全部がいやに計算されてるっていうか。騎士団の件もそう。全部仕組んでから仕掛けてきてる。」


しばらくの沈黙の後、カインが静かに頷いた。


「ああ。エルヴァンは、ただの外道じゃない」


「性根はゲスだ。自己顕示欲の塊で、支配欲に飢えたどうしようもない男だが

同時に異常なほど頭が切れる。何手も先を読み、逆算して手を打ってくる」


「……あいつは、誇りを持って人を支配してる」


アリアが顔をしかめた。


「誇り? あんな歪んだ誇り、冗談でしょ」


カインは小さく首を横に振る。


「いや、奴なりに理想はあるんだ。

問題は、それが人間を踏みにじることでしか成り立たないということだ」


「神の力を手に入れ、選ばれた血だけで世界を築く。

自分だけが神の代行者にふさわしいと思い込んでいる……だからこそ危険なんだ。」


アリアが小さく息を呑む。


「あの狂気が、ただの衝動じゃなくて信念だっていうなら、確かに……」


「うかつに怒りで突っ込めば、返り討ちに遭う」


「でも、放っておけば……どこまでも人を壊していく」


カインの目に、強い光が宿る。


「だから叩く。確実に、計画的に。そして、何より王の自信を砕く手でな」


「あなたって怖いくらい冷静よね。怒りに任せて突っ込むのかと思ってた」


カインもまた、焚き火の奥を見つめたまま答えた。


「……昔みたいに、ただ守りたいだけじゃ、もう届かない場所に来てるんだ。

だからこそ、負けられない」


夜風が少し強くなり、火の粉がふわりと舞う。

アリアはカインの横顔を見つめながら、小さく呟いた。


「……なら、最後まで付き合うわよ。狡猾な王を、徹底的に壊すまで」


カインは微かに笑みを浮かべた。


「頼りにしてる、アリア」


そしてふたりは、再び黙って見つめ合った。

その想いはまだ、かすかな光をたたえている。

だが、やがてそれは確かな力となり、王国の偽りを覆す日がきっと来る。

アリアは顔を上げる。


「……もうひとつ、気になってることがあるの」


カインは振り返る。

アリアは腕を組んだまま、少し視線を逸らすようにして言った。


「……聖女の力と、私……あんまり相性よくないのよ」


その言葉に、カインは目を細めた。


「どういう意味だ?」


アリアは少し沈黙し、火の前にしゃがみ込む。


「前に、セリスが結界を張ったとき……私だけ、あの中で頭痛がして動けなかった。祈りの旋律が耳に響いて、魔力の流れが狂ったの」


「最初は偶然かと思ったけど、何度か繰り返した。

どうやら私と聖女の神性は、根本的に相容れないみたい」


カインは黙って聞いていた。

アリアは言葉を続ける。


「私の力は、魔に近いところにある。清めるとか癒すとか……そういう氣とは、相反する性質なのかもね」


その声音には、どこか自己嫌悪のような影が混ざっていた。


「だから……もしまた、セリスと正面からぶつかることになったら……

私、足手まといになるかもしれない」


しんとした空気の中で、カインは歩み寄り、静かに言った。


「――それでも、俺はお前が必要だ」


アリアが顔を上げる。


「相性が悪かろうが、力が噛み合わなかろうが関係ない。

お前はこれまで、何度も仲間を守ってきた。

神の祝福がなくても、お前の刃は信じるもののために振るわれてきた」


「その強さを、俺は誰よりも知ってる」


アリアはしばらく何も言わず、焚き火を見つめていた。

やがて、ふっと息をついて、肩の力を抜いた。


「……なんでそんなにまっすぐ信じるのよ、バカ」


「バカはお前だ。そんなこと、今さら言うな」


カインの言葉に、アリアは思わず吹き出した。

その笑みに、少しだけ不安の翳りが晴れていた。


「ありがと。じゃあ私ももう少し、足掻いてみるわ。

この相性の悪さが、あの聖女の虚像を暴く切っ掛けになるかもしれないしね」


「頼りにしてる」


カインはそう返し、ふたりは再び並んで腰を下ろした。

冷たい夜気の中、静けさだけが、ゆっくりと時間を満たしていく。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。