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聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


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第15話:元の世界へ帰還

黒い霧が夜の闇を裂いた。

大気が悲鳴を上げるかのように歪み、空間の裂け目がぽっかりと口を開く。


その中から現れたのは、漆黒の鎧に身を包んだ男――カイン。

その左眼には眼帯があり、鈍い闇の光を帯びていた。

彼の背後には、長く滑らかな黒髪を風に泳がせる、美しくも冷たい女――アリアの姿。


「……戻ってきたか、元の世界に」


カインは地を踏みしめ、かつて王に裏切られ、処刑されかけた“この国”の空気を肺に満たす。だがもう、彼は“あの日の騎士”ではなかった。


「変わったな、空気も……人の気配も薄い」


アリアは周囲を見回す。ここはかつて繁栄した街の遺跡。

今では国の手が及ばぬ“廃都”として、地図からすら消されている。


「この地を“始まり”とするのね?」


「ここなら都合がいい。追手の目も届かない。

 まずは――拠点を築く。戦力を集める。

 奴らを叩き潰すには、力が足りん」


カインは静かに剣の柄に手をかけた。

もう、正義の剣ではない。

それは“復讐の刃”としてのみ、抜かれる。


「私が呼び寄せるわ。この世界に居場所を失った者たち、傷を負い、闇に堕ちた魂たちを……」


アリアの言葉に、カインは無言で頷いた。


「闇は孤独じゃない。

 ここを世界が捨てた者たちが集まる場所となる」


風が吹き抜け、廃墟の旗がわずかに揺れた。

その音がまるで“反逆の狼煙”のように響く。


崩れかけた遺跡の中央広場に、アリアは静かに立っていた。

その足元に描かれたのは、黒い環状の魔法陣。


「人々が目を背けた者たち……

 理不尽に、運命に、王に、神に見放された者たち……ここに集いなさい」


アリアの声はささやきのように小さいが、深淵を響かせるように空間全体へと広がっていく。


「ここに、お前たちの再び立ち上がる場所がある。私たちと共に」


彼女が手を広げた瞬間、魔法陣から黒い霧が立ち昇る。

それは現世に散らばる者たちの元へと届く


“復讐”や“絶望”に染まった者たちの魂へと共鳴する。



王国の端にある、流刑地の獄中。

 不正を暴こうとして冤罪にかけられた元司祭・《レクス》。

 暗がりの中、突然頭上に黒い羽が落ち、彼はそれに手を伸ばす。


「……呼んでいる。私の神が」


王国の地下深くにある牢獄

 優秀すぎるが故に妬まれ投獄された研究員リアナ

 絶望した眼に光が灯る。


「……私を必要としてる人がいる」


北方の山岳に隠れ住んでいた

 呪われた血筋を持つ少女・《アリス》。

 両親を“神罰”と称して殺され、言葉を失った彼女の前に、黒い花が一輪咲く。


「……闇は、私を拒まない」


荒野に隠れ住んでいる元騎士・《クロウ》。

 命じられるまま無実の村人を虐殺し、口封じのため殺されかけた男。

 夢の中で聞こえたのは、「再び剣を取れ」と囁く女の声。


「……俺に復讐の機会を与えてくれるのか?」


次々と現れる者たち。

彼らは皆、“心に深い傷”を持ち、“戻る場所”を失った者ばかり。


だが、カインの姿を見た瞬間、彼らの目に微かな光が宿った。

それは“絶望の主”への服従ではない。

“この世界を壊せるかもしれない者”への共鳴だった。


その中に、獣のような耳と黒い角を持つ者もいた。

――魔族。


本来ならば、人間の敵。

かつてカインが剣を振るい、討ち滅ぼしてきた存在。


集まった者たちは、一様にその姿に緊張を走らせる。


「……何故、魔族がここにいる」

ローブの男が吐き捨てるように言った。


魔族の青年は無言だった。

だが、その紅い瞳には怯えも憎しみもなかった。


ただ――同じように、世界から捨てられた者の眼をしていた。

そのとき、カインが一歩、前に出た。


「俺たちは、“復讐”のためにここにいる」

「敵も味方も関係ない。“戻る場所を失った者”であれば、共に戦う資格がある」


静まり返る空気。

誰も口を開かない。


魔族の青年は、わずかに目を伏せた。


「……我ら魔族は、人と戦った過去を否定しない。

 だが、俺は戦争に飽きた。……生きたくて、ここへ来た」


カインは頷いた。


「よく来たな。……ここからが始まりだ」


カインはそう告げ。魔族の青年を握手する。

その背にはアリアが静かに立ち、微笑んでいた。


その姿を見て、やがて、一人、また一人と手を差し出す。

“元敵”を、今は“同志”として受け入れる――それが、闇の軍の形だった。


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