新たな依頼
大いなる捕食者による騒動が収束してから数日後、ギルド内のテーブル席にてロゼとブレイドの二人は朝食を取っていた。
ブレイドは朝から巨大な骨付き肉を頬張っており、ロゼは皿の上に置かれたパンを少しづつ千切って食べていたのだが時折食べるのを止め、腕を組んで「う〜ん……」と考え込む様に唸っていた。
「どうすっかな〜」
「なんだよ? さっきからずっと唸ってばっかで」
「いやさ、前にアニーが言ってたけど死獣のオロチの居場所とアクア・スフィアの手掛かりを調べて貰う条件が第一級の冒険者になる事だったろ? だから此処を拠点にして依頼を受け続けるか色んな場所を巡りながら自分たちで情報も集めつつ第一級を目指すか。どっちにしようか迷ってんだよ」
「なんだそんな事かよ、俺は別にどっちでもいいぜ。どっちにしろまだまだ実力不足だって事をこの前散々分からされたからな……修行代わりに依頼でもなんでもやってやるぜ!」
ブレイドはそう言うと再び肉に齧り付く。先日の大いなる捕食者やアニーとの戦闘で自身の実力がまだまだ乏しいという事を身をもって分からされたブレイドはこれからの修行に燃えていた。
「おはようございます。遅くなってすいません」
その時、支度に時間が掛かって遅れていたエアリスがやって来る。すると何かを決めたのかロゼは「よし!」と突然立ち上がった。
「決めた! 暫くは此処を拠点にして第一級を目指すぞ! この街にはマードックも居るし情報に関してはアイツに任せよう! エアリスもそれでいいよな?」
「はい。私はそれでいいと思いますよ」
「決まりだな。そんじゃ朝飯を食い終わったら早速依頼を受けるとするか!」
今後の方針が決まり、ロゼは再び席に着くと皿の上に残っていたパンを食べ始める。
「ロゼさん達はゆっくり食べてて下さい。私はどんな依頼が出てるか見てきますね」
するとエアリスは依頼書が貼られている掲示板へ向かおうとロゼ達に踵を返した。
「あぁ悪いな。なるべく報酬金が高い依頼があったら、それを受けといてくれ」
「やりごたえのあるやつを頼むぜ〜」
「は〜い」
テーブル席を後にし、掲示板の前までやって来たエアリスはそこに貼られた依頼書を端から目を通し始める。壁一面に埋め尽くされた依頼書の内容は様々なものであった。
各階級のハンターや冒険者に向けたモンスターの討伐依頼や未だに攻略出来ていない遺跡やダンジョンへの調査要請。中には迷子になったペットの捜索依頼などの簡単なものまで数多くの依頼書が貼られていた。
これまで訪れたギルドと比べても類を見ない依頼書の多さにものの数秒でエアリスはどれが良いのか分からなくなり困惑してしまう。
「凄い依頼の数……どれがいいんだろう?」
そう呟くエアリスは暫くの間、掲示板との睨めっこが続く。
「ねぇ貴女……ちょっといい?」
「はい?」
すると隣から誰かに声を掛けられ、横を見るとそこにはギルドの職員であろう黒を基調としたメイド服を身に纏った女性が立っていた。
赤いロングヘアを束ねてツインテールにしており、緑色の瞳の上から眼鏡を掛け、右側の頬には痛々しく残る火傷の跡があり、可愛らしい服装をしていながらも鋭い瞳でかなり凛とした風貌であった。
「貴女、エアリス・ハーメルン? 冒険者チーム『ブレイブ』の」
「そうですけど……何かご用ですか?」
見覚えの無いその女性にエアリスは恐る恐る尋ねる。すると女性は「はいこれ」と手に持っていた紙の束を突き出し、突然の事でエアリスは思わず素直にそれを受け取ってしまう。
「えっと……これは?」
「アニーからコレを預かって来た。貴女達が受けるのに丁度いい依頼書を纏めといたから、その中から選びなってさ」
「わぁ、ありがとうございます! ちょうど今迷ってたところなんですよ! ところでアニーさんは今どちらに?」
「アニーなら今執務室で始末書の山を書かされてヒィヒィ泣いてるよ。この間の大いなる捕食者をぶっ飛ばした一件で生態調査員管理所からクレームを受けたんでね」
先日の大いなる捕食者の一件はアニーのデコピン一発にて無事収束したと思われていたが実はあの後、稀少な調査対象である大いなる捕食者を粉々にしてしまった事でアニーはモンスター生態調査員達からかなりのバッシングを受けてしまっていたのだった。
「そ、それは大変ですね……」
「確かに渡したからね。それじゃ」
「あ、待って下さい! 名前をお聞きしてもいいですか?」
用を済ませた女性は踵を返して立ち去ろうとするが、まだ名前を聞いていなかったエアリスは思わずそう彼女を呼び止める。
「私は……」
立ち止まった女性は振り返ると自身の名を口にしようとするが何故か一瞬口籠もる。まるで自分の名前を出すことを憚るかの様に。
「……私は『リラ』。此処で働いてる……別に覚えなくてもいい」
そう言い残すとリラは足早にその場から立ち去ってしまい、人混みの中へ姿を消してしまった。そんな彼女に対してエアリスは感謝の意を込めて頭を下げた。
「さて、どれにしようかな……報酬金が高くてやりごたえのありそうな依頼は……」
そしてエアリスは早速、渡された依頼書に目を通し始める。ロゼとブレイドに言われた報酬金額が高く、尚且つやりごたえのありそうな依頼を求めて依頼書を捲っていると、ある一枚の依頼書が目に入り手を止めた。
「これなんか良いかもッ……報酬金も他に比べて高いし、やりごたえがあって面白そう。よし! これに決めた!」
そこに書かれている内容は如何やら望んでいた条件に合致する様子であり、エアリスは陽気な足取りで受付カウンターへ向かう。
だがこの時エアリスは知りもしなかった。この依頼を受けた事によってメンバー三人の内の一人が若干地獄を味わう事に……。




