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『祝30000PV突破』WORLD OVER 〜最果ての到達者〜  作者: 紡星


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世界最強のデコピン

 古代遺跡の調査を終え、ロゼ達は再びサルランタの都へと戻って来ていた。既に日は沈みかかっており黄昏の光が街全体を照らしている中、普段なら人の流れが出来る筈のギルドの前には何故か数多くの人集りが出来ていた。


「これが例の奴かい?」


「デケェな〜!! 一体何メートルあるんだ?」


「よくこんなの倒せたもんだよな……」


 群衆が見詰める先には地面に横たわる大いなる捕食者(ギガント・プレデター)の残骸があった。あの戦いの後、ベースキャンプにて待機していた調査隊によってここまで運ばれ、現在はギルド専属のモンスター生態調査員達によって細部まで調べられている最中であった。


「素晴らしい! ここまで状態の良い大いなる捕食者(ギガント・プレデター)を見たのは初めてですぞッ!」


 調査員である一人の老人が鼻息を荒くしながら興奮混じりにそう叫ぶ。実際のところゴーレム系統のモンスターは戦闘時において大部分が破損してしまう為、完璧な形を保ったまま回収するという事例は殆ど無いのだ。


 ましてや大いなる捕食者(ギガント・プレデター)というゴーレム系統としては最大級のモンスターを多少の欠損があるとはいえ、ここまで原型を留められているのは調査員からすれば奇跡に近いであろう。


 見物人達が大いなる捕食者(ギガント・プレデター)を眺めている一方で『ジーニアス・ワイルド』の面々やエアリスとブレイドはギルドに帰って来るや否や、大いなる捕食者(ギガント・プレデター)の残骸を見て興奮した他のハンターや冒険者達から質問攻めにあっていた。


 そんな中、通りに面する誰も視線を向けてない路地裏が一瞬パッと光ると、その奥から落胆した様子のロゼが出て来た。


 その姿を見たエアリスは「ちょっとすいません」と話し掛けてきていた者達に踵を返すとロゼの元へ歩み寄る。


「ロゼさん、どうでした?」


「今回もハズレだ……唯の宝石だってよ」


 残念がっているのか何時もより声色を落としてそう答えるロゼは懐の中から先程手に入れた宝石を取り出すと溜息を吐く。


 ギルドに戻って来たロゼは誰にも気付かれず一人だけコッソリと裏路地に入り、フィルスの元へ宝石が本物かどうか確認しに行っていたのだが、宝石を見せるや否や「全然違う」と即答されたのだった。


 因みに此方の世界へ戻って来る際にロゼは眩い光を放つ(ゲート)から出て来たのだが、これは毎回空の上から落ちる様にして此方の世界に戻るロゼが流石に不憫であると感じたフィルスが新たな戻り方を用意してくれたのであった。


「はいは〜い! みんな此処で群がってたら通行人の邪魔になっちゃうでしょ〜ッ!! 関係者以外は一旦解散して頂戴〜!」


 するとギルドの扉の向こうからアニーが現れ、パチパチと手を鳴らしながら群衆に声を掛ける。それを聞いた冒険者やハンター達は素直にそれを聞き入れると、続々とギルドの中へ戻って行った。


「みんなお帰りなさ〜い♪ 古代遺跡の調査はどうだったかしら?」


「よぉマスター・アニー、今回の依頼は結構楽しめたぜ。なんせあんなに手強い奴が居たんだからな」


 両手を広げて笑顔で尋ねてくるアニーに対してレオナは大いなる捕食者(ギガント・プレデター)を指差しながらそう答えた。


「今回の古代遺跡は内部構造自体、かなりシンプルなもので難なく進めました。大いなる捕食者(ギガント・プレデター)が居るとは想定外でしたが、レオナと冒険者チーム『ブレイブ』の協力があり問題なく討伐する事が出来ました」


「協力つっても最後にトドメ刺したのは私だけどな!」


 リテオが落ち着いた口調で調査結果を報告するが最終的に討伐したのは自分であるとレオナが横から強調する様に口を挟む。


「それは何よりだわ〜♪ ところでロゼちゃん達はどうだった? 探してた物は見つかったかしら?」


「見つけたけど、結局私達が探してたやつじゃなかったんだ。これといって別に必要な物じゃないし、ギルドに預けとくよ」


 そう言うとロゼは手に持っていた宝石をアニーに手渡す。するとアニーは「あらそうだったの、残念だったわね……」と答えながらその宝石を受け取った。


「でも気を落としちゃダメよロゼちゃん。人生は寄り道の連続……。時として寄り道した先に目的のモノを見つけたり、思いもよらない素晴らしい出会いがあったりするものよ」


「フッ……分かってるよ。ありがとうアニー」


 ロゼを励まそうと肩に手を掛け、そう優しく言葉を投げかけるアニー。それに対してロゼはアニーに優しさに感謝しながら笑顔でそう答える。


 そんなやり取りをしている一方で大いなる捕食者(ギガント・プレデター)の前で全体像をスケッチしていた調査員の一人がある異変に気付き、別の調査員に声を掛ける。


「あれ……? なぁちょっと!」


「なんだ、どうかしたか?」


「さっきより手の向きが少しズレてるんだけど、お前触ったか?」


 調査員は自身がスケッチした絵と実物を見比べながらそう尋ねる。見ると写像された物の手の向きや形に確かに若干のズレが生じていた。


「いや……動かした覚えは無いんだけど、もしかしたら機材が当たっちまったのかもな。すまん、次から気を付けるわ」


「あぁ、頼むぜ」


 そう答えると再び調査員はスケッチを再開する。だが描き始めたのも束の間、一瞬目を離した瞬間にまたしても手の位置がズレており、これに腹を立てた調査員は再び呼び止める。


「ーーーっておいッ! 言ってるそばからまた動かしただろッ!?」


「えぇ? いやいや動かしてねぇよ。機材も別に当たってもいないし……」


「でも見ろよ明らかに手の形が変わってるんだよ。ほら」


「本当だ……でも何でだ? 絶対に触ってないのに……」


 そう言うと調査員はスケッチを見せ付け、大いなる捕食者(ギガント・プレデター)に背を向けてそれを覗き込んだ別の調査員もその変化を見て不思議そうな表情を浮かべる。


 すると背後から何かを引き摺る様な物音が聞こえ、気になった調査員がふと背後を振り返る。その瞬間、調査員の顔色が真っ青に染まってゆき、震える手でもう一人の調査員の肩を叩いた。


「お……おいッ……背後……ッ!!」


「どうでした? 背後がなんだ……よ……」


 調査員は振り返ると言葉が途中で途切れてしまうと同時に顔から血の気が引いた。何故ならそこにはつい先程まで地面に横たわっていた筈の大いなる捕食者(ギガント・プレデター)が上体を起こし、既に立ちあがろうとしていたのだ。


「う……う……ッ! 動いたぁぁぁぁぁッ!?」


「コイツまだ生きてるぅぅぅッ!?」


 調査員の二人は叫びながらその場から一目散に逃げ出した。そして他の調査員や周りの見物人達も大いなる捕食者(ギガント・プレデター)が立ち上がった瞬間、悲鳴や絶叫を上げながら一斉にその場から離れると街中を逃げ惑う。


「ーーー何ッ!?」


「あの野郎……ッ! まだ動けたのか!?」


 すぐ近くに居たロゼ達もその騒ぎを聞きつけ、視線を其方へと向ける。すると大いなる捕食者(ギガント・プレデター)は既にロゼ達の姿を目視で確認しており、さっきのお返しと言わんばかりに拳を振り翳しながらこちらへ一直線に向かって来る。


 慌てて武器を構えるロゼ達であったが、大いなる捕食者(ギガント・プレデター)は一番手前の方に居たエアリスとコラルの二人に狙いを定めており、振り翳した拳を二人に向かって振り下ろした。


「エアリスッ!!」


「コラルッ!! 危ねぇッ!!」


 二人が狙われている事にいち早く気付いたロゼとレオナは大いなる捕食者(ギガント・プレデター)の前に立つとロゼはエアリスを守る為に刀を防御の姿勢で構え、レオナはコラルを抱き寄せると庇う様に大いなる捕食者(ギガント・プレデター)に背を向けた。


 そんな中、振り下ろされた拳が容赦無くロゼ達に直撃する……かと思われた。


「はいそこまでよ」


 拳が直撃する直前、大いなる捕食者(ギガント・プレデター)の目の前に立ち塞がったアニーが迫り来る巨大な拳をいとも簡単に片手で受け止めたのだ……しかも指一本で。


「か弱い子達から狙おうとするなんて悪い子ね」


 そう呟きながらアニーは大いなる捕食者(ギガント・プレデター)の拳を徐々に押し返す。その姿をロゼ達はあり得ないものを見るかの様な驚いた表情で見詰めていた。


「そんな子にはお仕置きよ……ッ!」


 アニーは指に一瞬だけ力を込めると拳を完全に弾き返し、相手の体勢を崩す。バランスを崩した大いなる捕食者(ギガント・プレデター)は蹌踉めきながらもアニーへ視線を向けると、いつの間にか自身の懐へと入り込んでデコピンの形に指を構えているアニーと目が合った。


 大いなる捕食者(ギガント・プレデター)には思考する知能はあっても恐怖を感じる心は無い。それは他のゴーレム型のモンスター達も同様であった。何も感じず唯その土地や財宝を守る為だけに戦う存在に感情など不要であり、造られた時からそうプログラムされているのだ。


 だがアニーと目が合った瞬間、大いなる捕食者(ギガント・プレデター)は確かに感じた。自身より圧倒的に力を持った強者と出逢った絶望感と……死への恐怖を。


 次の瞬間、サルランタの都中に轟音が響き渡る。それと同時に大いなる捕食者(ギガント・プレデター)が……否、大いなる捕食者(ギガント・プレデター)だった筈の物が空中に飛び散るとそのまま地面に散乱する。


 一瞬何が起こったか分からなかったロゼ達は目が点になり呆然としながらも地面に転がるバラバラになった大いなる捕食者(ギガント・プレデター)の破片を見詰め、次第に理解し始める。アニーの放ったデコピン一発であの巨体は粉々になったのだと。


「よしッ! みんな怪我は無い?」


 清々しい笑顔でアニーは背後を振り向く。本人としては感謝の意と尊敬の眼差しを向けられていると思い込んでいたがロゼ達の表情は依然として唖然としており、寧ろ若干引き気味であった。


「い……一撃……しかもデコピンかよ……」と口をあんぐりと開けながらロゼはそう呟き、それに続いて「三人がかりでも歯が立たなかったのに……」とブレイドが目を見開きながらそう言い放つと同時にアニーが自身と戦った際に本来の実力を全くと言っていいほど出していなかったのだとひどく痛感する。


 そしてエアリスは「す、凄いですねー……アニーさんって……」と微笑みを浮かべながらも地面に転がる大いなる捕食者(ギガント・プレデター)の破片を見て何処か遠い目をしていた。


 その一方でリテオは「流石はギルドマスターと云うべきか」と驚いた表情を浮かべながらも冷静にアニーの実力を評価しており、隣に居たバエルディは「せやけど……デコピン一発はちょっと引くわぁ……」と苦笑いをする。


 そしてコラルはまるで怪物を目の前にした様に怯えはじめ、「お姉ちゃん……僕怖いよ……」と震えながらレオナに寄り添うと「大丈夫だ弟よ……私も怖い」とレオナは優しくコラル抱き絞めた。ある意味この二人の反応がアニーにとって一番可哀想である。


「ちょっとちょっとッ!! 怖がらないでちょうだいよ!? これでも本来の実力の1%以下まで抑えた方なんだからねッ!」


「そっちの方がもっと怖いわッ!!」


 怖がらせない為にそう補足するアニーだったが全くの逆効果であり、ロゼはアニーが本気で殴った際の威力を想像してゾッとしながらそうツッコむ。もしアニーが全力で拳を振るうとこの街が消し飛ぶと冗談を言ったとしても今の状況では冗談に聞こえなかっただろう、それ程の衝撃であったのだ。


 こうして大いなる捕食者(ギガント・プレデター)によって巻き起こされた騒動はアニーの一撃によって呆気なく幕を下ろしたのであった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!? なんじゃこりゃぁ!? 大いなる捕食者(ギガント・プレデター)がバラバラになってるぅッ!?」


 因みに避難していた調査員達が戻って来ると地面に転がるバラバラになった調査対象である大いなる捕食者(ギガント・プレデター)を見て皆一様に顔に絶望の色を浮かべ、悲鳴にも似た絶叫が街中に響き渡ったという。

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