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恐怖の克服

 自身の上に積み重なった本の山を退けて立ち上がったロゼは此処に来るまでの間、スライダーの様な坂道を転がる様に滑り落ちていた為、完全に目を回していた。そしてグルグルと歪む視界の中、周囲を見回す。


 ずっと暗闇続きだった先程の廊下とは違い、明るく照らされた図書館の様な空間の中で目の前には初めて見る少年の姿とその隣には……。


「ーーーあぁッ!? エアリスッ!! こんな所に居たのかぁッ!!」


 エアリスの姿を見つけた瞬間、ロゼは強烈に安堵し、足速に近付いて行くと涙目になりながら彼女に抱き付いた。


「何処に行ってたんだよ〜!! 一人にするなんて酷いじゃねぇか〜!!」


「すいません。こっちも色々とありまして……」


 エアリスは膝立ちで腰元に抱き付くロゼの頭を優しい手付きで撫でてやる。すると思い出したかの様にパッと顔を上げたロゼはある事を尋ねた。


「そういえばブレイドは一緒じゃないのか? それに……この子は?」


「えっと……何から話しましょうか……取り敢えず一から説明しますね」


 そう答えたエアリスは此処に至るまでの経緯をロゼに説明し始める。その他にこの城で怪異を起こしている元凶の存在や目の前にいるヴァンパイア族の少年の事。そして一通り説明し終えるとロゼは少し考え込む素振りを見せ「なるほどな」と呟いた。


「つまり話を纏めると、さっきの甲冑もエアリスとブレイドが突然別の場所に飛ばされたのも全部ヴァンパイア族であるこの子の叔父が原因って事でいいんだな?」


「はい。そういう事です」


「そうかそうか……じゃあ幽霊なんて結局いなかった訳だな……。フ……フフフ……ッ!!」


 ロゼは俯くと不敵な笑みを浮かべ始める。おそらく一連の出来事の犯人が幽霊ではなかったという事実が余程嬉しかったのであろう、次の瞬間にはガッツポーズを取りながら感情を露わにした。


「ーーーっしゃあッ!! これで不確定要素は全て消えたぁッ!! 幽霊じゃなければこっちのもんだぜッ!!」


 そこには先程までの弱々しいロゼの姿は無く、普段通りの堂々たる立ち振る舞いに戻っていた。そんな姿を見ていた少年は呆れた表情で「彼女、随分と感情の起伏が激しいんだね」とエアリスに話し掛け、一方のエアリスは「あはは......」と苦笑いを浮かべるしかなかった。


「それにしてもヴァンパイア族か……まさか生き残りがいるなんて思わなかったよ」


 そう呟くとロゼは興味深そうに少年を見つめる。


「その割にはあまり驚いてないみたいだね」


「驚いたってより嬉しいんだよ。なんせ絶滅した筈の種族と戦えるなんて思ってもみなかったからな」


「……ん?」


 その一言に少年は違和感を覚える。聞き間違いでなければロゼは今「戦える」と言ったのだが、一体何と戦おうとしているのかが一瞬理解しきれずにいた。だが次の会話でその言葉の意味を理解する。


「そう言えばブレイド君が既に戦ってるかもしれないらしいですよ!」


「マジか、なら早く行かないとな。アイツが先に倒しちまったら、いよいよアタシの出番が無くなっちまう」


 二人の会話に少年は驚くと同時に困惑した。


「ーーーえ? えぇ? ちょっと待ってくれ! まさか……叔父上と戦おうとしてるのか!?」


「うん? そうだけど」


「そうだけどって……勝てる訳無いだろッ!? 相手はヴァンパイア族なんだぞ!!」


 あまりにもさらっと流したロゼに対して少年は必死に否定する様に言い返す。しかしそれでもロゼは全く意に介していない様子だった。


「分かってるよ。だけど戦ってみなきゃ勝敗なんて分からないだろ?」


「簡単に言うけどさぁッ……そもそも君はヴァンパイア族の事をどこまで知ってるんだ?」


「あまり詳しくは知らないけど、日の光に弱い事ぐらいかな?」


「……駄目だな。そんな程度の知識じゃ僕らの事をまるで理解していない……」


 少年は少し呆れたかの様にそう呟くと一呼吸おいて語り始めた。


「いいかい。僕らヴァンパイア族は他の種族には無い特別な術を扱う事と本来兼ね備える凶暴性から、かつてこの地上で最強の種族の一つと謳われるほどの存在だった……でも結果としてそれが原因で絶滅の道を辿る事になったんだ……」

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