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 食事を終えると水飲み場で喉を潤し、満たされた気持ちになると、決まって大きなあくびをして眠りにつく。ただし、眠りと言っても人間でいう所の眠りとは質が違う。いつ何時、敵に襲われるかもしれないという本能がワタシの眠りを妨げるのだ。


 記憶を辿ればワタシたちの種にとって、眠りこそ最大の弱点。だからちょっとした物音で眠りから目覚めることもある。眠気やストレスが溜まれば、格子に添えつけられたかじり木に噛り付いたり、牧草を食べたりすることで発散しているのだ。尤も、これもこの生活で得た知恵だ。


 あの「おはよう」の声から数時間後。ワタシが薄暗い部屋の中で一休みしていると、どこからか「キキッ」という聞きなれた音が聞えてくる。その音の正体は分からない。でも、その音がすると決まってあの人がやって来るのだ。


「おっす! キャロ」


 ワタシの予想は毎度ながら的中する。薄暗かった部屋が明るくなると、『おっすの人』がやって来た。この部屋にやって来る時、決まって『おっす』と言うので、ワタシは何時しかその人に対してそう命名したのだった。


 ワタシがこの部屋にやって来てからどれくらい経った頃だろうか。いつしか頻繁に訪れるようになったこの人。『おはようの人』とは明らかに違うことが、動物的本能からワタシにも理解できた。それは『おっすの人』が、ワタシや『おはようの人』と違う性別であるということ。つまり人間でいう男というものなのだ。


 何より『おはようの人』と決定的に違うのは、手のひらの温もりが弱いこと。おまけに少々ゴツゴツした感触が、ワタシの中で許せなかった。そのせいかワタシはこの『おっすの人』に撫でられてもあまり嬉しくない。もちろん、そんな気持ちも露知らず、この人は毎回のように撫でてくれる。ありがた迷惑な話だ。


 だが、そんな『おっすの人』でも悪い事ばかりではない。「おっす」の合図は食事と共に、嬉しい時間の始まりでもあった。それは探検の時間だ。何故ならこの人は、『おはようの人』が与えてくれる自由な時間よりも、より永く遊ばせてくれるからなのだ。ワタシはこの時間を有効に利用して、格子の外の世界を入念に探検する事ができるのだ。


 ワタシが「早く出して」と、いつものように格子に噛り付き、激しく扉を揺さぶった。すると、『おっすの人』は扉を開いてくれる。「ピョン」と格子の箱から飛び出したワタシ。いよいよ探検の始まりだ。


「さぁて、今日はどこを探検しようかな」


 ワタシは『おっすの人』には目もくれず、小躍りしながらまだまだ謎の多きこの部屋の中を駆けていく。もちろん、駆けていくとは言うものの、しばらく進めば冷たい大きな壁にぶつかってしまうので、先へ進むにも限界がある。檻の外にまだ檻があるようだ。


 おまけにこの部屋はピョンピョン跳ねても平気な地面もあれば、少し間違うとツルツル滑ってしまう所もあって、探検するのにも一苦労だ。


 そういえば以前ワタシが駆け回った時に、誤って滑ってしまいドタバタしたら、『おっすの人』に大笑いされたこともあった。その時は少し、いやかなりムカついたものだ。だが、まぁその後ちゃんと食事を与えてくれたので許す事にした。それに探検はそんなに楽なものではない。これも生きてゆく為に必要な情報収集の一つと思えば辛くは無い。


「確かこっちは調べたんだったっけ。あっちはどうかな」


 ワタシの探検が始まった。


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