第5章(最終話)・6年越しの執着愛
ダリアン視点です。(^_-)-☆
全話アルファポリスでも公開中です。
一目惚れだった。
火事に遭った屋敷の前で、一人の少女が立っていた。
すすの付いた顔を腕で拭ってから、真っ黒に焼け焦げ
今にも崩れ落ちそうな屋敷を見据えていた。
細い体ながら、強い向かい風にも揺るがない。
堂々とした立ち姿だった。
少女の側にはまだ幼い男の子と
泣きじゃくる両親らしき男女がいた。
少女は家族を励ましながら、身なりを整えた街の議員と思われる
人物に「なにか仕事はありませんか?」と真っ先に聞いていた。
驚いた。
屋敷の大きさや、集まってきた知り合いらしき人物から推測するとそこそこの
身分を持った貴族である可能性が高い。
貴族の女の子が、家が全焼してすぐに仕事を探している!?
わたしは激しい衝撃を受けた。
まあ、正直な所、あの父親と母親は残念ながら頭の回転が鈍そうだ。
代々の貴族家系でのーんびりと生活してきたのだろう。
人は良さそうだが…とても頼りになるタイプではない。
その代わりに…あの女の子がいち早く現実を受け止めて
家を立て直そうと動き始めていた。
彼女から感じられるのは、何としても家族を守らなければという使命感。
そして、それを実行する行動力。
美しかった。
あの凛とした横顔。静かな決意を湛えた瞳。
この世にある何よりも、彼女を美しいと思った。
知りたい。
彼女の事が知りたい。
腹の底から湧き上がる渇望。
こんな気持ちは生まれて初めてだった。
生まれながらにして、全てを持っているわたしは
自分から何かを欲する事がなかった。
欲を持たない生き方は、とても退屈で、限りなく無に等しい。
わたしはこのまま退屈な毎日を過ごし、いつしかこの国の王となり
つまらない人生を終えるのだろう。
15歳にして、わたしは本気でそう思っていた。
そんな敷かれたレールの上で不貞寝していたわたしを
叩き起こしたのが、ルティだったのだ。
わたしは、すぐにあの少女について調べた。
その後、破格の給料をぶら下げて彼女を王宮へと迎え入れた。
6年かけて、彼女を王太子妃に迎える下準備を進めてきた。
ルティの身分に因縁をつけてくる貴族には大体、娘がいて
その娘をわたしに嫁がせて実権を握ろうとする者ばかりだった。
分かりやすく野心をむき出しにしてくる貴族は…大体、悪い事してるんだよね。
叩いたら出てきた埃をちらつかせて相応の処分を受けてもらった。
役職を解いたり、領地へ戻したり、王都から遠ざけたりしてね。
今では誰もわたしとルティの事に否定的な事を言う貴族はいない。
皆、自分が可愛いからね。
わたしに歯向かった貴族の末路を見ていたら当然の結果だよね。
そして、近いうちにルティの実家を伯爵家に復権させる。
伯爵家に復権すれば、身分を理由に難癖をつける余地もなくなるし。
着々と準備を進めてきたけど…。
どうしても、ルティの気持ちだけが分からなくて。
嫌われてはいないと思っていたけど。
まさか好かれているとは…思っていなかったから。
いまだに信じられなくて…夢じゃないかと怖くなる。
ルティの性格上、プロポーズした翌日はパニックを
起こして脱走するだろうから実家に戻ることは防ぎたくて
あらかじめ、流しの馬車を全て買収しておいて良かった。
馬車の座り心地が良ければぐっすり寝入る事も想定内。
急いで馬車のクッションを上質なものに変えさせた。
後はルティが通る道の補修も必要だったから
業者への指示書を作成したりしてさ。
早急に工事を手配させたけど。
朝から忙しかったなあ。
デコボコした道だと危ないし、ルティが起きると
計画が台無しだからね。
そのかいあって、ルティは全然起きなかった。
馬車からレストランに運んでいる間も、わたしの腕の中で
大きな寝息を立てていたし。
本当に何しても起きないから…。
寝顔だけ見つめてる時間は生き地獄だったよ。
でも…昨日、ルティと両想いになった。
ルティが好きだと言ってくれた。
あのあとすぐに王宮に戻り、ルティとの結婚を父上と母上に報告した。
二人ともわたしのルティへの思いは知っていたし
驚きはしなかった。母上など、「ようやくね」
と呆れたように笑っていたくらいだ。
わたしの隣に立っていたルティは可哀想になるくらい
ガチガチに緊張していたけどね。
ルティと交わした初めてのキスを、わたしは一生忘れない。
体が震えてたこと、気づかれてたら恥ずかしすぎるけど。
泣きださなかっただけ、マシだよね。
ルティの唇は想像していたよりもずっとずっと…柔らかくて。
温かかったなあ…。
うぉー!!
ダメだ。ルティに会いたい!!
政務を終えたわたしは急いでルティの部屋へと向かった。
ルティの部屋をわたしの私室に作っておいて良かったなあ。
三年前、ルティをわたし専属のメイドにすると同時に
私室を改装して、ルティの部屋を作らせた。
少しずつルティの存在が有力者たちに知られ始めて、ルティに危害を加える
者が現れてもおかしくない時期だったからね。
ルティがわたしの目の届く場所で眠り、すぐに助けに行ける距離じゃないと
わたしの精神が安定せず、政務に支障をきたす恐れがあると
大真面目に、父上と母上、執事とメイド長まで巻き込んで説得した。
最初は「私室にメイドを住まわせるなど、前代未聞ですよ!」と
反対されたけど、わたしの熱意ある説得に負けて
最後には皆、しぶしぶ了承してくれた。
母上だけは…三日寝込んだけど。
でも、あのとき無理をしてでも、わたしの部屋に
ルティの部屋を作って良かった。
こうして会いたいときに会えるのって本当に便利。
浮かれながら意気揚々とルティの部屋を開けようとする。
が。
開かない!!な、なんてことだ!!部屋に鍵がかかってる!!
「ルティ!!ルティ!!わたしだよ。
すごく近い未来、きみの夫になるダリアン!
ここ、開けてくれない??ルティ??」
だが、わたしの絶叫ごときで起きるルティではなかった。
耳を澄ますと豪快で可愛いルティのいびきが聞こえるだけ。
わたしは頭を抱えた。
どうしてこうなった!?
まあ、思い当たる節はある。
昨日、ルティとの結婚を父上と母上に報告した時、
母上がやたらと、わたしとルティの部屋が
同じことを気にしていたからなあ。
「今まではルティがあくまでもメイドという立場だったから
どうにか我慢していたのだろうけど、ルティの婚約者という立場を
手に入れたあなたが暴走しないか心配よ…」
母上はそう言って、頭を抱えていた。
このままだとルティと離されてしまう!と危機を感じたわたしは
慌てて否定して結婚式までは節度を守ると約束した。
まあ、ルティを前にしてしまうと、そんな約束は
すぐに吹き飛んでしまうのだが。
きっと母上の差し金で鍵を付けられたんだろうな。
困った。
ドアって…こんなに分厚かったか?
すぐ側にルティがいるのに。
「わたしの声、聞こえてる?」
こんなにも遠いよ、ルティ……。
「ぐおおおおおお~」
あ。良かった。聞こえてるみたいだ。
いびきで返事するルティ。
はあ~。
可愛すぎる。
仕方ない。
もう、今日はこのままここで寝てしまおう。
わたしはルティの部屋のドアの前で
倒れこむようにして眠った。
「げ。ダリアン様、何してるんですか!?
こんな所で寝てたら風邪ひきますよ!」
朝になって、ルティの声で飛び起きた。
「昨夜、ルティの部屋に行こうとしたら鍵がかかってて…」
「え?ダリアン様、あれだけ、結婚式をあげるまではわたしの部屋に
行ったらダメって王妃様に言われてたじゃないですか!
王妃様の言う通り、やっぱり鍵をかけといて良かったです」
さらっと、ルティに言われてしまった。
事も無げに言われてしまうと、さすがに少しは傷つくぞ。
「ルティは、わたしに会いたくなかった?」
「うっ。そっ、それは…」
わたしから視線をそらして…顔がどんどん赤くなるルティ。
「会いたい気持ちは常にありますけど…」
常に!?常にあるの!?
予想を上回る色よい返事にわたしの理性が吹き飛んだ。
「ルティ!!わたしもだよ!!愛してる!!」
勢いよく抱き付こうとしたわたしをサッとかわしてルティが言い放つ。
「でも、肉体的な接触は結婚式を挙げるまで全て禁止って王妃様
から言われちゃったんです。王妃様との約束を破る勇気、わたしには
ありませんよ。嫁姑問題は出だしが肝心ですからね。そんなわけなので
すみませんが、ダリアン様がわたしに触れる事はできません」
くッ!!
恨みます!!母上!!
この世の不幸を全て背負い込んだ顔をして
膝から崩れ落ちそうになるわたしの耳元で
小さくルティが囁いた。
「でも、結婚式のあとは…ダリアン様の
好きにしていいんですよ。ふふっ。楽しみですね」
顔を真っ赤にして、部屋を出ていったルティ。
ぐわああああっ!!
か、可愛すぎるぞ!わたしの嫁!(仮)
絶対に、絶対に、2週間…いや、1週間で結婚してやる!!
わたしは固い決意を抱いて、ルティの後を追いかけた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ダリアンとルティの物語、楽しんでいただけたでしょうか?
少しでも笑っていただけたり、幸せな気持ちになっていただけたら、とても嬉しいです。
もし面白かったと思っていただけましたら、評価やいいねで応援していただけると、今後の創作の大きな励みになります!
また二人の物語をお届けできたらと思っています。
本当にありがとうございました!




