表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/32

【日本崩壊編】守護神の喪失

東京・長多町。

総理官邸の一室にて。


「はぁ。どうしたものか」


ここ半年の急激な治安悪化のせいで、国民(バカ)のヘイトが一気に総理(わたし)に集まっている。


原因不明の治安悪化の影響で、留置所や刑務所に犯罪者を収容しきれなくなり、全国各地で軽犯罪者が野放しになる事態が起こった。

ヴィランによる被害はそれだけに留まらず、ヴィランの被害に遭った建物の修繕業者や医療機関も全国的に不足する事態となっている。


非常事態宣言を出すべきか?

いや、原因もわからないのにそんな大袈裟なことをしたら、国内外から非難殺到だ。


この原因不明の治安悪化による経済的損失は、推定100兆円にもなるらしい。


今のところ国外には日本の惨状は広まっていないが、劇的な治安悪化は日経平均株価にも影響を与えている。

為替に至っては1ドル200円にまで円安が急速に進んだ。


「なぜ日本はこうなってしまったんだ」


思わず大きなため息が出る。

すると秘書が、恐る恐る私に意見した。


「もしかして、イレイサーマンを追放したからではないでしょうか?」

「イレイサーマン?」


とは、何だ?


…あぁ!

思い出した。

日本創生学会さんに頼まれて消した、三流ヒーローのことか。

全く。馬鹿なヒーローもいたものだ。

日本創生学会さんを敵に回すとは。

マスコミをけしかけただけで簡単に追放できたのだから、大したヒーローではなかったのだろう。


「そのイレイサーマンが、治安悪化とどう関係があるというのだ?」


「実は私の父が、大御所ヒーロー達と交流がありまして、そこで噂になっているのです。『イレイサーマンが消えたから日本は終わる』と」


「馬鹿な。三流ヒーローが消えた程度で日本が終わるはずないだろう。大袈裟すぎる」


「ですが大御所ヒーロー達の話によると、今までの治安の良さはイレイサーマンの異能によって成り立っていたそうです。ですのでヒーロー達の間では『日本の守護神』と言われていたそうで、事実、彼が消えてから日本は劇的に治安が悪化しています」


「そんな大それた異能、あるはずがない。イレイサーマンを消したのと治安悪化は関係ない。偶然の一致。考えすぎだ」


「しかし、大御所ヒーロー達が口を揃えて、そんな勘違いを言うでしょうか? それに今まで治安の良かった時期と、イレイサーマンがヒーローとして活躍していた時期が、ものの見事に一致するのも偶然とは思えません」


「ヒーローなんて所詮タレントもどきだ。本職の警視総監がそう言うならまだしも、ヒーローの言うことなんか信用ならん」


「その警視総監も、同じことを話していました」


「何っ?! 聞いていないぞ!」


「はい。私も父から聞いた話なので、今まで知りませんでした。内々の話ですので、この事を知っている人間は限られているそうです。ですが、実際には気づいている人も多いのではないでしょうか? 私の知人の投資家達も何人かは『イレイサーマンが消えたら日本円は紙屑になる』と話していましたし、実際にそうなりつつあります」


「……」


にわかには信じがたい。

否、信じるものか!


「ですので、今、劇的に治安が悪化しているのは、イレイサーマンを我々が消してしまったからなのではないのでしょうか?」


「三流ヒーローの大袈裟な嘘に惑わされるな! そんな都合のいい異能はこの世にない! それより今は治安回復のための財源をどうするかだ」


これ以上三流ヒーローの話をしてもつまらない。

私は強引に話を変えた。


「関係省庁が試算した結果ですと、治安を元の状態にまで回復させるには数十兆円の予算が必要だそうです」

「そんな金、今の日本には無い!」


だからこそ、ここ数ヶ月、頭を抱えているのだ。


「どこから財源を捻出すべきか。生活保護をなくすか? それとも年金をなくすか?」


「生活保護を無くしたら、()()()()と化した貧困層が犯罪に走って更に治安が悪化してしまいます。それに年金を無くしたら、現役世代が親世代の生活費を工面しなければならなくなります。そうなると、現役世代は子どもを持つ余裕がなくなり、少子化が更に加速するのではないのでしょうか?」


「えぇい! 口うるさいヤツめ。だったら他に、どうしろと言うのだ!」


「異能省を解体すれば、それなりの財源を確保できるのではないのでしょうか? 国民の異能を管理すると言いながら、一切管理できていませんし」


「阿呆! そんなことをすれば天下り先がなくなるではないか!」


それに異能省創設を提案したのは日本創生学会さんだ。

異能省を消せば、私も消される。


「……そうだ! 財源が無いのであれば、つくればいいのだよ。消費税を20%に引き上げれば、財源が一気に増える」


「治安悪化で不景気が加速する今、そんなことをすれば国民は生活できなくなります!」


「文句の多いヤツめ。そもそも貧乏人(こくみん)が生活できなくなっても金持ち(わたし)には関係ない!」


「そんな……! で、ですが総理。そんなことをしては次の衆院選で大幅に議席を減らしてしまうのではないのでしょうか? 最悪の場合、政権交代の可能性もあり得ます」


「その辺は大丈夫だろう。日本創生学会さんのお力があれば、この前の選挙のように、風当たりが強くてもごり押しで議席を獲得できる」


媚びるべきは国民(バカ)より日本創生学会さんだ。


なんだ。

こんな簡単なことで数ヶ月も悩んでいたのか。

最初から消費税を上げれば良かったのだ。


そうと決まれば、閣議決定に向けて与党内で協議するぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ