ヒーロー研修前のオリエンテーション
「誰もいない……ちょっと早く来すぎたか?」
俺はこの日、ヒーロー試験を受けた時と同じ会場に来ていた。
今日はヒーロー研修についてのオリエンテーションだ。
研修は半年後から始まり、約1年間受けることになる。
「ソイ、まだ来ないかな?」
ソイとは試験の後、連絡先を交換してよく一緒に遊ぶ仲になった。
ソイはあの日、モンキーガイと戦った時点で合計得点が80点を超え、無事合格した。
ソイとモンキーガイが戦っているところを見たが、ソイは異能が優れているだけでなくコントロール能力も高かった。
特に火の異能は殺傷能力が高いから、大怪我を負わせたり会場が燃えたりする可能性があるのに、ボヤを出すことなく使いこなしていたのには感心した。
…まぁ、モーメン・トイ戦は時間停止のせいで惨敗していたが。
アレは仕方がない。
モーメン・トイがズルすぎる。
「ゼン、もう来ていたの?」
「あっ、ソイ!」
ソイは俺が座っている席の、隣に座る。
「あと半年もしないうちに、ヒーロー研修が始まるのかぁ。楽しみだね」
「あぁ。ここで結果が良いと、事務所に入りやすいらしいぜ。お互い、頑張ろうな!」
「うん!」
席についてしばらく経つと、他の合格者達も徐々に会場内に入ってきた。
こっそりみんなの異能をチェックしてみる。
流石に合格するだけのことはあって、全員が全員、戦闘に使えそうな異能を持っていた。
やがてオリエンテーションが始まる時間になり、スーツ姿の男性が壇上に立って説明を始めた。
「初めまして、皆さん。まずはヒーロー試験、合格おめでとうございます。今からヒーロー研修の説明を始めます。研修担当のジェームズ・ムーアです。よろしくお願いします」
ジェームズさんがリモコンを操作すると、背後にあったスクリーンに映像が投影された。
スクリーンには『60%』という文字がデカデカと映し出されていた。
「説明を始める前にお聞きします。皆さん、この数字が何の数字かご存知ですか? 分かる方は挙手をお願いします」
さっぱり分からない。
だが、ソイを含めて何人かの合格者は手を挙げていた。
ヒーロー界隈ではそこそこ知られた数字ってことか?
「手を下ろしてください。この数字が意味するのは『活動期間が3年未満のヒーローの殉職率』です」
6割も死ぬのか?!
将来有望なヒーロー達が数多く亡くなる現実に、俺はやるせない気持ちになった。
……って、俺も人のことは言えないのか。
毎日数えきれないくらい死に戻りしているわけだし。
きっと俺が今まで死んだ回数もカウントしたら殉職率は99%以上になるだろう。
というより、その場合はどう計算するのが正しいんだ?
まぁ、そんなこと、今はどうでもいいか。
「そこで、皆さんにヒーローの絶対条件をお教えします。
それは『死なないこと』です」
俺、全否定じゃん。
「これは『ヒーローは死なない』という意味ではありません。『死んでしまう人はそもそもヒーローではない』という意味です。誰もヒーローの命を犠牲にしてまで助けを求めていません。死んで家族や仲間を悲しませるような人はヒーロー失格です。自分の命を犠牲にして助ける行為は、ただの独りよがりで身勝手な正義です。真のヒーローは、誰も死なせない・失わせない人のことを言います。その『誰も』の中には当然、ヒーロー自身も含まれるのです」
や、やめてくれ。
ジェームズさんの言葉の刃がズバズバと俺の心に刺さってくる。
ヒーロー失格でスミマセン。
独りよがりで身勝手な正義でスミマセン。
でも、やめる気も一切ありません。
ジェームズさんの話を聞いていると、初めて死に戻った時の記憶を思い出した。
死に戻ったことを両親に伝えたら、こっ酷く怒られたな。
「以上を踏まえて、皆さんには『真のヒーロー』を目指してもらいます。ですが先程話しました通り、若手ヒーローの殉職率は非常に高いです。そこで、研修中の死亡率を下げるために、研修では2つの取り組みを行っています。
まず一つめは、犯罪件数の低い3つの州をヒーロー研修の拠点にします。どの州で活動することになるかは、後日各々に連絡致します。皆さんには研修期間中、活動拠点にある寮で暮らしていただきますので、引っ越しの準備を今のうちに始めてください。
二つめは、研修中の皆さんには現役ヒーローとバディを組んでいただきます。バディになるヒーローは、皆さんの実技試験の結果に基づいて選ばれます。どのプロヒーローがバディになるかも後日連絡します」
なるほど。
ということは、今住んでいるデストロイドから離れないといけないのか。
せっかくデストロイドに引っ越してきたばかりなのに、残念だ。
「それから、研修期間中は皆さんの活躍に応じて『ヒーローポイント』が加点されます。ヒーローポイントは、街で人々を助けた時に加点されます。このポイントを1年間で稼いだ合計点数が、皆さんのスコアとしてヒーロー名簿の最初の経歴に記載されます」
研修期間中もキャリアとしてカウントされるのか。
やりがいがあるな。
「ここまでの説明で、質問のある方はいらっしゃいますか?」
俺がまっすぐ挙手をするとジェームズさんは俺を当てた。
「ヒーローポイントについて質問です。例えば、犯罪しようとしている人を改心させたり、犯罪者にならないようにサポートした場合は、ヒーローポイントに加点されますか?」
すると、しばらく場に沈黙が流れた後に、クスクスと失笑するかのような笑い声が聞こえてきた。
ジェームズさんは目を丸くしながらも、俺の質問に真摯に答えてくれた。
「面白い質問ですね。結論から言えば、それはヒーロー活動には含まれません。犯罪者を生み出さないような社会を作るのはヒーローだけの役目ではありません。社会に生きる一人一人がする役目です。
そもそも、仮に犯罪者にならないように説得できたとしても、その実績を証明する方法があると思いますか? 貴方が『犯罪者になりそう』と思い改心させた相手が、実際に犯罪をする人物であったかどうかは何を基準に判断できるのでしょうか?」
「確かに、言われてみればそうですね」
俺が死に戻りして見た情報を誰かに教えることはできる。
だけど、それを客観的事実として第三者に証明する方法は、どう考えても思いつかない。
「他に質問のある方はいますか?」
その後、何人かが手を挙げて質問し、質問が出尽くすと再びジェームズさんの説明に戻った。
「最後に、皆さんが一番、楽しみにしていそうな事について説明します。今からお配りするプリントに、皆さんの希望するヒーロー名と衣装デザインを記入して、再来週までに提出してください。
チームで活躍する場合はチーム名とメンバーを記載した上で、チーム名とは別の、貴方自身のヒーロー名も記載してください。
ただし、研修期間中は研修メンバー同士でチームを組むこと。研修メンバー以外のヒーローと組みたい場合は、研修が終わってから改めてこのプリントを提出して下さい。その際は、メンバー全員分のプリントを用意して、アメリカヒーロー協会の本部へ提出願います。
衣装デザインに関しては、デザイナーに伝わるよう、具体的に要望を書くことをオススメします。絵の描ける人は、希望する衣装を絵で描いてもらっても構いません。あまりアバウトな要望ですと、希望通りの衣装にならない可能性があるので注意しましょう」
ヒーロー名と衣装か。
これは一番肝心なポイントだな。
日本で人気が出なかったのは、ここを蔑ろにしたせいだ。
メディア受けを意識せず、安直に衣装のデザインやヒーロー名を決めたのがいけなかった。
愛されるヒーローになるためにも、次は大衆に好まれる衣装と名前を考えよう。
ジェームズさんの説明が終わった後、俺はソイと一緒に会場を出た。
「ヒーロー名かぁ。ねぇ、ゼン。君はもう、どんなヒーローになるか決まっているの?」
「いいや、全然。何にも思いつかない。ソイは何か思いついているのか?」
「僕もまだだよ。だけど、さっきの説明を聞いて、一つやってみたいことができたんだ」
「やってみたいこと?」
「キミとチームを組むことさ。ゼン、もし良かったら僕と一緒にチームを組もうよ」
良いな、それ!
と一瞬思ったが、あることを思い出して躊躇ってしまった。
「……どうしたの? やっぱり、チームは嫌?」
ゼンはしょんぼりとした顔で俺を見る。
「いや、凄く嬉しい。だけど、それだとソイに迷惑がかかりそうだなって思ってさ」
「迷惑? 実技試験でヒーロー3人に圧勝した君が、迷惑をかけることってあり得るの?」
「実はさ、さっき俺『犯罪をしそうな人を改心させて未然に防ぐのはヒーローポイントに反映されるのか?』って質問しただろ?」
「うん」
「ジェームズさんは『ヒーロー活動には入らない』って言ってたけど、それでも俺は犯罪を未然に防ぎたいんだ。そしたら、被害者は被害に遭わなくて済むし、ヴィランも人の道を外さなくて済む。みんなが幸せになれる。だから、ポイントにならなかったとしても、みんなを助けたいんだ」
「素敵な考えだと思うよ。良いんじゃないかな? ヒーローの本分は人助けなんだし、それで救われる人がいるなら、やった方がいいよ」
ソイはいい奴だな。
会場中の合格者に失笑された俺の意見を、馬鹿にすることなく受け止めてくれるなんて。
「ありがとな、ソイ。ただ、そうなると俺とチームになったら、俺はポイントにならない活動ばかりやってソイの足を引っ張ると思うんだ」
「だったら僕も手伝うよ。ポイントも大事だけど、みんなを救う方がもっと大事だ」
「えっ?! いいのか?」
それは願ったり叶ったりだ。
ソイの協力があれば、今以上に多くの人が救える。
「もちろんさ。僕、試験での君の活躍を見て確信したんだ。君とだったら、きっと世界中の人が憧れるようなトップヒーローになれるって」
「へへ、よせやい。照れるじゃないか」
ソイの大袈裟な褒め言葉に、俺は思わず顔がニヤけた。
「だから君のやること、僕にも手伝わせてよ!」
「あぁ! 頼むぜ、相棒!」
こうして俺たちは、チームを組む事にした。




