研修の結果
「さぁ、クライムファミリーの諸君! コケにされて悔しければ、拙者達を倒しにくるでござるよ!」
カルフォルニア州の、とあるオーディション会場。
そこではアメリカズ・ゴット・ヒーローの生放送が行われていた。
ヒーロー衣装を着た俺とソイは、ステージの上で、デストロイト最大のマフィア・クライムファミリーを煽りに煽っていた。
「貴殿達が来られないのであれば、それでも構いませぬ。ここまでコケにされても現れない小悪党は、拙者達が成敗するまでもなく滅びる定めで候」
俺達の命運は、クライムファミリーが会場に来るかどうかにかかっている。そのため強めに煽っていた。
会場内の観客席から緊張が伝わってくる。観客も、スタッフも、審査員も、誰もが顔を強張らせて成り行きを見守っていた。
なぜ俺たちがそんなことをしているのか?
その理由は、1ヶ月前に遡る──。
◆◆◆
ヒーロー研修終了から3ヶ月が経った、ある日のこと。
俺はその日、ソイと一緒に、デストロイトのカフェでシンガールが来るのを待っていた。
シンガールは俺達に大事な話があるらしい。
「そう言えばソイ、この前の面接ってどうだった?」
「いいや、全然。駄目だったよ」
また不採用か。
俺とソイはその結果に、項垂れてため息をついた。
不採用の原因は分かっている。
俺達のヒーローポイントが、低すぎるからだ。
ヒーロー研修終了後に行われたドラフト会議。
そこで今年の新人ヒーロー全員の、ヒーローポイントランキングが発表された。
ボートランドでトップの成績だし、俺達は上位組だろうと信じて疑わなかった。
だが結果は………下位の方だった。
もちろん、ボートランドで研修していた他のヒーローも同じだ。下位のヒーローは全て、ボートランドのヒーローしかいなかった。
逆に成績トップは、デストロイトで研修していたアイスペインター。彼女はなんと5万ポイントも稼いでいた。俺とソイのポイントは合わせても500ポイントに満たないことから、彼女がいかに優秀なヒーローであるかは、それだけで伝わってきた。
だけどデストロイトの新人ヒーローは、デストロイトの急激な治安悪化の影響で、アイスペインター以外は全員亡くなったらしい。俺がいたら救えたかもしれないと思うと、心が痛くなった。
ドラフト会議の結果は言うまでもない。
最後の最後まで指名されることを祈っていたが、俺達を選ぶ事務所はとうとう現れなかった。
そのため俺達はアメリカ中のヒーロー事務所に応募しているが、雇ってくれる事務所は未だ見つからない。
ドラフト会議で選ばれなかったヒーローでも、ヒーローポイントが高ければ就活で成功する可能性があるらしい。
ネットでは、その最低基準は1000ポイントであると書かれていた。……控えめに言って、絶望的だ。
「せめてヒーローポイントがもっと高かったらなぁ。俺達の活躍って、そんなに大した事がなかったのか?」
「そんなことはないよ! むしろ大した事ありすぎたというか…」
「だよな? 少なくともボートランドじゃトップだったワケだし。なんで俺ら、こんなにポイントが少なかったんだろうな?」
「えっ…?」
俺は同意を求めるように愚痴を言ったつもりだったが、ソイはなぜか目を点にして、呆れた様子で俺に質問した。
「ゼン、それ本気で言ってるの?」
「本気でって、なにが?」
「そっか…無自覚だったんだ……」
俺が無自覚? 何か気づいていないことでもあったのか?
「せめてフィオナを救った時のポイントが、もっと加算されてたらなぁ。彼女があのままだったらボートランドは滅亡したワケだし。それを考えたら、1000ポイントくらい稼げてもいいと思うんだけどな」
「…え? ボートランドが滅亡? それ、何の話?」
しまった、うっかり滅亡した時の話をしてしまった。案の定ソイの顔から血の気が引き、小さく口を開けて固まった。
「もしかして、フィオナさんが何かしたの? あの日の出来事って『行方不明だった彼女をゼンが見つけた』ってだけの話じゃなかったの?!」
「彼女を見つける事ができたのは、ただの成り行きだな。地震を止めようとしたら、偶然彼女の存在を知ったというか」
「地震? ボートランドにいた時は一度も地震なんて無かったじゃないか。どういうこと? 一から説明してよ」
「それは……あぁっ!? そういうことか!」
俺達のヒーローポイントが低い理由が、分かってしまった。
一番の原因は、俺自身だ。
俺が犯罪を未然に防いでいたから、犯罪は犯罪として認知されなかったんだ。
フィオナの件もそうだ。
今の世界じゃ、彼女を大量殺人犯だと言う奴はいない。なぜなら、その歴史は俺が消したからだ。それは人生をやり直し始めた彼女にとって良いことだ。
だけどそれと同時に、ボートランドで起きた悲劇を覚えている奴もいなくなった。あの事件を未だに覚えているのは俺とシンガールくらいだ。
だから災害が起こらなくても安堵する奴は誰もいない。そもそも、災害が起こらないのが当たり前だと思っているからだ。
つまり災害をなくしたことで、俺はヒーローポイントを稼ぐ機会をも消してしまったのだ。
今思えばフィオナの件でシンガールばかりが賞賛されたのも、フィオナを直接救い出したのは彼女だからか。フィオナの件は客観的に考えると、俺は『フィオナがソイに寄生している事実を知っていただけの人物』でしかなかったんだな。
俺達のヒーローポイントが少なかったのも、俺がボートランドの犯罪を消していたから、だったんだ!
「ソイ、ごめん! 俺のせいだ!」
俺は机に頭を当てて深々と謝罪した。
「ヒーローポイントが全然稼げなかったのは、俺のせいだ! 俺が、犯罪を未然に防いでしまったせいで、ソイまでこんなことに…!」
俺は自分のヒーロー生命だけでなく、ソイのヒーロー生命まで絶ってしまった。
ソイは優秀なヒーローだから、俺と一緒じゃなければ今頃は普通に事務所に所属していたはずだ。
「顔を上げてよゼン。ゼンが謝る必要はないよ。だって、何も悪いことをしていないじゃないか」
「でも…」
「もし悪いとすれば、それはゼンの活動を一切評価しない社会の方であって、君じゃない」
俺の目を真っ直ぐ見つめて、力強く断言するソイ。
そんな彼の言葉からはお世辞や後悔の念は一切感じず、心からそう思ってくれているのが伝わってきた。
「君とこの一年、ヒーロー活動をして思ったよ。ヴィランをやっつけるだけがヒーローじゃないって。ヴィランを救うのもヒーローなんだって。
フィオナのことだって、家族と幸せに暮らしている彼女を見ていると、ゼンのやったことは正しかったって心の底から思える。11年も家族と会えずに一人で生きてきた彼女が、これ以上辛い目にあう世界なんて、考えたくもないよ。
酷い目に遭って欲しくないのは、フィオナだけじゃない。僕達が救った人達全員だ。彼らが被害者になったり、ヴィランになる世界なんか、ない方がいいに決まっている!」
「ソイ……」
彼の熱弁に、俺は感激して嬉し涙が出そうになった。
「だからゼンは、その活動をやめる必要はない。むしろその活動をやった上で、アメリカの人達に認めてもらおうよ! 僕はヴィランすら救おうとする君を、心から尊敬している。どこまでも君についていくよ!」
「ありがとうな! ソイ、お前という最高の相棒と出会えて、本当に良かった!」
ソイの励ましによって、さっきまでの暗い気持ちが嘘のようになくなっていき、頑張ろうという気持ちが込み上げてきた。
ソイと互いに讃え合っていると、シンガールがようやくやってきて、ソイの隣に座った。
「お待たせ! 思ったよりも遅くなっちゃった」
フィオナの件で一躍人気者となった彼女は、今日もテレビ番組の仕事があったようだ。ここ最近は色んなメディアに引っ張りだこだ。今日はそんな時間の合間を縫って、俺達に会いに来てくれた。
ついこの前まで一緒にヒーロー活動をしていたのに、今の俺達とは大違いだ。
「二人とも、何の話をしていたの?」
「ゼンは最高のヒーローだって話をしていたんだ」
「ソイが世界で一番、頼りになる最高の相棒だって話をしてた」
「ウフフッ。二人とも相変わらず仲が良いわね」
「ところでシンガール。今日は何の用だ? 大事な話って?」
「そのことなんだけど、実は二人にとっても素敵な話があって呼んだの」
するとシンガールはカバンから一枚のチラシを出して、机の真ん中に置いた。
俺とソイは、思わずチラシに書かれた見出しを口を揃えて言った。
「「アメリカズ・ゴット・ヒーロー?」」




