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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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1話-8

「おいおい……まじかよ」大和の呟きが聞こえる。

 流石にここでは生徒の流れが滞っている。潮流のようにぐるぐると、ある者は美術館で絵やオブジェを鑑賞するときのように左から順番に、ある者は待ちきれずにあいた隙間から覗くように、自分の名前を探している。少し生徒が離れては、その分また生徒が入っていき、私と絵茉はなかなか近づけない。

 背の高い二人は見つけ易く(大和の方がやや高い)、やっと辿り着いた頃には既にクラスを調べてくれていた。

「ほら見ろ」大和がB組と書かれた掲示を示す。続いてすぅ〜っと左に腕をスライドさせる。「俺たち三人がB組で、修がA組だ」

(なるほどぉ〜。俺たち三人がB組で、しゅうちゃんがA組。えっ!? しゅうちゃんA組!!?)

「えっ? 修弥Aなの?」(えっ? えっ? そうなの?)

「……みたいだな」(えっ? えっ?)

 さっきから事態についていけない私はわたわたする。「落ち着いて」絵茉が袖に引くが、私は腹の底から沸々と湧いてくるこの感情を抑えられなくて、身体が変に軽くなって、やがて熱を帯びてきた。「しゅうちゃん、しゅうちゃん!」

「落ち着け、真央」あちゃ〜という顔をしてる修弥に手を引かれて、私たちは校舎の壁まで移動する。修弥は少し屈んで、私と目線を合わせる。表情を少し和らげて、私が落ち着いて目と目が合うのを待ってくれてから話し始めた。

「真央、いいか。中学の時俺たちがずっと同じクラスでいれたのはたまたまだ。人によっては、小学校、中学校、高校生と、ずっと別々のクラスの奴もいる。反対に、今年は別のクラスだが、来年は同じかも知れない。

 俺は勿論この四人でいる時が一番楽だが、部活の時はお互いばらばらだし、試験の時は皆一人だろう? 帰る時はそれぞれの家があるのだから、そしたら次の日の朝までは別行動だ。違うか?」

「でも、私はしゅうちゃんと一緒に暮らしたいよ。おばさんもいつでもおいでって言ってくれてるし」

「……、それは嬉しいが今は一般的な話をしている。皆自分の生活があって、自分の環境がある。同じクラスってことはそいつとそいつの環境が重なったって事だ。その位の意味しかない。そんなに寂しいなら昼休みは一緒にいればいいし、放課後に会えばいいさ」

「しゅうちゃんだって、放課後は部活でしょ。休日だって部活かも知れないし、会えるのが朝と昼と夜しかなくなっちゃうよ!」そういって私はしゅうちゃんの手をとる。やばい、高校生になって泣くとか恥ずかしすぎるが、何より、「それに、しゅうちゃんが、しゅうちゃんだけが別のクラスでしょっ! しゅうちゃんだって寂しいじゃん!!」私の発言に三人はハッとする。そうなのだ、一番寂しいのは修弥のはずなのだ。

 私は半泣きで、涙腺が今にでも崩壊しそうだ。頑張れ、私の涙袋!

 修弥は私の肩をポンと左手で軽く叩き、右手の小指を立てながら、いつものニヤニヤ笑いでこう云った。

「なら、いつものおまじないをしよう。ほら、お前らもだ」絵茉と大和も輪になって、皆で指切りげんまんをする。

「ゆ〜びき〜りげ〜んま〜ん、で、何約束するの?」これは絵茉。

「まず、別のクラスでも俺たちの心はいつも一緒だって事だ」これは大和。

「それと、時間が取れたら会う、と」修弥。

「それだけじゃ足りないよ!」私。

「なら、修弥が来年真央と同じクラスになるってのはどう?」絵茉。

「おっ、いいなそれ。どうだ、修。腹黒っぷりで何とかならないか?」大和。

「ならそれにしよう。やり方は検討ついてるし。ただし、俺が今年どんな行動をとっても、お前ら怒るなよ」修弥。

「しゅうちゃん、それホント? 信じていいの?」「ああ、必ず。指切ったっ!」それで、私の感情は治まってきた。

絵茉がたはは〜と苦笑いしている。「真央のそれは相変わらずだね。指切りですぐ泣きやむのは」

「泣いてないもん! ……それに、子供の頃からのおまじないだから、効き目はバッチリなんだ。昔は泣き虫だったから」何かにつけて泣いていた私を、家族はよく指切りで元気付けた。それを知ってから修弥もしてくれるようになり、絵茉たちも馬鹿にせずに付き合ってくれる。

「三人とも、ありがとね。それに、しゅうちゃん。わがまま云ってごめんね」

「その我儘がたまらなく可愛いのさ」ニヤニヤではなくニコニコしながら、修弥は私の手をとって歩く。下駄箱に近づいてすぐ手を離されちゃったけど、子供の頃よりも大きくなったその手は、私の心をすっぽりと包み込んだ。

 そして、先程から後ろ二人の目線が凍えるほど冷たい。

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