3話-24
「すげぇな……」
試合風景は巨大なモニターに分割に表示されているが、中でも巨大ロボットから繰り出される投球は迫力があった。目の前のモニターでブールの着地が映される。少しブレるカメラ。
すかさず着地点から伝わる衝撃、そして身体全体に響く低音が伝わってくる。
「あの大きさの金属球なら、これ位の衝撃はくるさ。戦車でぶっ放している様なもんだからな」
隣で修がぶつくさ云ってる。こいつ、これだけ迫力あるのに全然動じないな。
「なぁ修。流石に今回は真央も勝てないんじゃないのか!? みんなロボットにばかり目が行ってるけど、あの先輩の動き、人並外れていて目で追えないぞ。気づいたら投げ終えてる」
モニターに映る西園寺先輩の動きは視認できなかった。スロー再生でなんとか確認出来る程度である。
「それはお前が一般人だからだよ。ちょっとこい」
修が俺の肩に手を置いて、耳元でささやく。
「そんな……まさか」
「どうするんだ、やるのか、やらないのか」
俺は少し考えるが、だてにこいつと腐れ縁でない。「いいよ。その話乗った」修を全面的に信頼しよう。
「よし、なら見てみろ」
修のアドバイスでもう一度先輩の投球を観察する。すると、先程迄は分からなかった翼の動きが手にとる様に分かった。そうか、それであの動きか。
「まぁ、もう少しコツが掴めたら、今よりもっと見えるようになる」
「成る程な」
見える様になった事で尚更先輩が異次元の強さを誇る事が分かった。真央やチョコがそう簡単に太刀打ちできるわけじゃないと思う。
「どしたの〜? なんの話?」
同じブラスバンド部一年の伊達遠湖だ。猫の様な目をしていて、長いツインテールが左右で揺れている。
「伊達か。うまい話があるんだが、どうだ?」
「へへっ。倉多が云うんなら間違いないっしょ。なになに?」
こいつは何にでも首を突っ込みたがり、面白い事の気配を感じると必ずやってくる。修とも相性が良いらしく、入部発表の朝も進んで協力してたなぁ。
なんだなんだと他の部員も集まり、修のうまい話とやらに真剣に耳を傾けている。先輩も後輩も関係なく話術で引きつけるのは修ならではだが……この人たちは俺と違って、まだ修の本性をあまり知らないからなぁ。
ペタンクは紳士的なスポーツで、試合は静かに行われるのが基本らしい。司会の熱量も観客席からの歓声もヒートアップしているが、とりあえず、ブラスバンドの応援は今回は必要ないそうだ。
俺たちは次の「下克上」の為にある程度の余力を残して、各自自由行動とした。観戦するもよし、お喋りしたり、席を外すもよし。まだ試合も時間がかかりそうだから、俺や修みたいな真央の知り合いを除いて、スポーツ観戦に興味ある奴以外は暇を持て余していた。
伊達も先程までキョロキョロしていたが、今では修の隣に座って話しかけながら観戦をしている。時折真央がこちらを睨んでいるのは、邪推しているに違いない。
「大和、真央は勝つよ」
随分と時間が経過してから、修は云った。視線は真央をまっすぐ見据え、声は落ち着いていた。
今真央たちは苦戦を強いられている。スコアは8-9。初戦を勝利で飾ったものの、相手が少しずつ追い上げてきて、先程のメーヌで逆転された。それも、相手チームのもう一人の先輩が、イレギュラーな球を投げ続けたからだ。
「真央と西園寺先輩のティール合戦は確かに互角だが、チョコに比べて劣っていると見えた世良先輩が、後半予想以上に伸びてきたからな。勢いの乗った先輩方を止めるには、無理やりにでも流れを切らないとな」
「それに、どんなに良い位置にポワンテしても、あの鳥先輩の横からさらうティールで一撃じゃあね」
「確かに二人の云うとおりだ。世良先輩も調子を上げてきてるし、鳥、横からのティールって万能すぎるもんな。
だがな、能力があるのは先輩だけじゃないんだぜ?」
突然、周りから歓声が上がった。
驚いた俺と伊達は、慌ててモニターを確認する。修も落ち着いてそれに倣った。
「へっ?」
先程の映像のスロー再生が始まる。そこには、西園寺先輩と同じ軌道でブールを投げる真央の姿があった。




