3話-18
「だいぶサマになってきたっスね」
「チョコの技術も高いレベルにありますし、真央のティルールとしての腕前が凄いですね」
「真央さんは考えるのが苦手なので、感覚的な事が得意なんですよ。云ってしまえばティールは相手のブールに当てるだけですからね。本当は相手のブールを弾き飛ばしてビュットの周囲を自分のブールで囲む戦術的な事だったり、上手に当てる為の微調整が中々難しいんですが、それも直感だけでやり抜いていますからね、化け物ですよ」
真央さんのティールの技術には目を見張る物がある。今も、宇佐見先輩が先程見事なポワンテでビュットぎりぎり手前に寄せたブールを、ティール・オ・フェールで狙っている。
真央さんが手首をスナップさせて、強い逆回転をかけながらブールをポワンテする。ブールが高く宙に舞い上がり、強烈な一撃を宇佐見先輩のブールに叩きつけた。
ブールの奥側に当てた事で、宇佐見先輩のブールを手前に弾き飛ばし、対して真央さんのブールは奥に弾かれた。しかし、強烈な逆回転がかかっているので、着地の瞬間ビュットに向かって戻ってくる。やがてビュットにぶつかり、少し離れて止まった。これで双方のブールは尽き、このメーヌが終了する。
宇佐見先輩のブールが弾かれた事で、中心から三個私たちのブールが残っている。これで私たちは三点追加になった。
「「ブラボー!」」
「宇佐見先輩たちにもなんとか勝てる様になってきたね」
「まだ三メーヌに一メーヌだけですけどね。しかも、全体を通してドゥブレットで五勝二十敗、テット・ア・テットに至っては全敗ですよ」
「あはは、まだ始めてひと月のお二人にテット・ア・テットで負けてしまったら、助っ人の名折れっスよ。
それに、ドゥブレットでは既に勝ち始めてるっス。私はそっちでも負けるつもりはなかったっスよ」
「すみません。私の実力不足で」
「絵茉は悪くないっすよ。よく練習をしてくれてますし。
ただ、この二人が対戦の為に真剣に取り組んでるからこそ、その結果が出始めているだけっス」
私たちは以前いったファストフード店で反省会をしていた。
本日のペタンクの練習を終えて、片付けをしていたら、雨が降ってきた。梅雨に入ったのか湿気が酷く、ここの所雨が続いている。
五月後半は、ペタンクの練習を体育館で行うことも多くなってきていた。本日は練習中に降らずに済んで助かった。
「それでも、ワンゲルもなかなかやりまスし、当日はいい勝負になると思うスよ」
「やっぱり西園寺先輩強いんですね」
最後に一緒に練習したのが一週間前。その時も西園寺先輩はその腕前を見せつけた。残る二週間は対戦を盛り上げる為にも、練習は別々に行っている。
「西園寺先輩の実力は大したものじゃないです。現時点で真央の方が実力は上っスね。
問題はしのぶの方です」
「世良先輩ですか?」真央先輩が訝しる様に宇佐見先輩を見る。
「そうっす。こちらのスコアを見てほしいっス」
宇佐見先輩が自前のスコアノートを見せてくれる。私たちにルール説明を行いながら、こんなに細かくスコアを記録していたのか。図と所感も加えて、その時の状況がはっきり分かるスコアになっている。
「かなり良いスコアですね。でも世良先輩ってそこまでポワンテが上手かった記憶がないんですが……」
確かに、世良先輩はミスが多く、……ってあれ? ミスがあった割にメーヌを取られた事が結構あった気が。
「そう。私もしのぶは上手じゃないと思うっス。けれど、お二人と練習をしていた時から、天性の才能を発揮していったっス。
彼女は、腕はからっきしですが、彼女の意思とは違う軌道を描いたポワンテが、度々ビュット近くの相手のブールをティールするっスよ。自分が見事にポワンテしたブールが、次の彼女の意図せずにポワンテしたブールに襲われてテラン外まで弾き飛ばされる恐怖は中々ないっスよ。はぁ」
宇佐見先輩でも予測がつかないのか。それは対策の仕様がないな。
「とにかく、お二人は真央さんのティールで相手を崩す戦法が良さそうですね」
「はい。私も真央さんもそれで行こうと思います」
「真央のティールはえげつないもんな。まるで中学の頃の修弥みたいだ」
「しゅうちゃんはえげつなくないよ! ブラボーだよ!」
「真央さん、ペタンク用語が染み付いてきましたね」
私たちなりの戦い方も見えてきたので、後はそれをブラッシュアップし続けるだけだ。残り一週間頑張ろう。
宇佐見先輩はスコアノートを閉じて、持ち上げる。
「このスコアは西園寺先輩たちにも勿論見せるし、私の見解もお話しするっス。そこはお二人も了承していただきたいっス」
「勿論です。当日がとても楽しみだとお伝え下さい」