3話-8
「では、これよりバスで大倉に向かう。全員は乗れないので、最初のバスに詰めれるだけ詰めて、残りは次のバスで向かうぞ。A班から前に進んでくれ」
先生の指示で順番にバスに乗り込む。大人数の為、私たちは先に出発して、現地で待つ事となった。
バスはすし詰め状態で、他にも登山客が多く乗っていた。
「真央さん、お願いですからもう少し押さないでいただけると」
「チョコこそ、お手柔らかにしてくれると嬉しいんだけどな」
作用・反作用の法則で、周囲からの圧力を互いに押し合っているだけなのだが、それでも相手の方が楽をする為に強く押しているように思えてくる。いてて。
そのままバスは長い時間をかけて「大倉」まで走った。
「着いたー!」
大きく伸びをし、深呼吸をする。山の麓は空気が美味しい。先程までバスの中心で苦しみを吐露する猫だった私には余計にそう感じられた。
「その言葉は頂上まで取っておきましょうよ」
チョコが水を差すが放っておく。この先ヒルとの熾烈な争いが待ち構えているのだ。今の内に自然を満喫しておく。
バス停にいつまでも居ると他の登山客や乗客に迷惑がかかるので、登山口まで先に歩く。そのままトイレ休憩に入り、やがて残りのメンバーもやってきた。
「これから登るぞー。今回は先生と陸上部の二人を含めて三十三名。事前に伝えた様に二班に分かれて出発する。まずA班が先頭に西園寺、しんがりを世良。B班は先頭を奈村、しんがりを俺が務める」
B班の先頭を任されているのは、奈村上臣先輩。三年生で、世良先輩の彼氏だ。少し長めの癖っ毛で、中性的な顔をしている。身体の線も女性的だが、力持ちで山の知識も凄い。今日は半袖のシャツの下に黒い長袖のシャツを着ていて、頭には麦わら帽子を被っている。下はショートパンツにレギンスと、これまた中性的だ。
「おみ、上それじゃ寒くない?」
「ボク暑がりだから、これくらいで平気。それに、水分補給はしっかりするから。タオルもあるよっ! しのぶから貰ったやつ」
「わわわっ、しまってしまって!」
世良先輩と奈村先輩は自然な感じで話し合っている。A班のしんがりとB班の先頭なので、休憩の度に互いの状況を報告し合うのだろう。そして、その度に……チューするのかな。いいなぁ。
「俺と西園寺はそれぞれトランシーバーを持っているから、何かあったら俺か西園寺にすぐ連絡しろ。怪我や体調不良を甘く見るな。この位の山でも高山病になるから、気分が悪くなったら近くにいる奴に声をかけろ。
では、出発!」