3話-7
「おはようございます」
「おはよ」
眠い目を擦り、チョコと挨拶する。
改札で待ち合わせをしたのだが、待っている間も改札からバス停に向かってそれらしき人が何人も通り過ぎて行った。チョコと共にバス停へ向かう。
「「おはようございます」」
「はい、おはよう。羽月さんと春日野さんは陸上部枠だったね。本日はよろしく」
ワンゲルの顧問を務める先生と挨拶を交わす。授業を受ける時はそれぞれスーツと制服なので、互いに登山服を着てる事が、ちょっぴり可笑しい。先生も同じ事を思ったのか、
「いつもと印象が違うね。うん、春日野さんはしっかり用意してきたね。羽月さんは……」
チョコの方へ笑顔を向け、次に私に視線を向けるが、少し困った様な笑みを浮かべる。「随分ラフだね。多分、今日は出るから、もし長袖があったら着替えて」
「出るって、何が出るんですか?」
「ヒルだよ。この時期大量に発生するからね。肌を露出してると、あっという間に吸われるよ」
さぁ〜と血の気が引く思いがして、慌ててリュックから長袖を探す。ないっ!?
「ないですっ! 長袖がないですっ!!」
「じゃあしょうがないな。これを渡すから自衛の為に持っといてよ」先生がライターを貸してくれる。
「先生、長袖を貸していただけませんか!?」
「それを云っちゃうと忘れた全員分ないから、気をつけるしかないな、ハハハ」
取りつく島もない。しおりをちゃんと読んでおけばよかった。
「西園寺! 世良!」
呼ばれた西園寺先輩と世良先輩がやってくる。
「西園寺と世良はA班だな。羽月と春日野をよろしく頼む」
「はい」
「怪我には気を付けろよ。大事なお客さんなんだろ?」
ワンゲルは私たちが大怪我をしてしまうと、最悪活動停止になる。反対に私たちも迷惑をかけない為に怪我をしないよう努めなくてはならない。
私の服装に気づいた世良先輩が声をかけた。
「羽月さん、長袖は持ってないんですか?」
「すみません、しおりをちゃんと読んでいなくて、半袖半ズボンで来てしまいました」
「ならアドバイスをしましょう」
「ヒルに襲われない為のアドバイスですか?」
「いいえ、ヒルは長袖でも吸われます。確率の問題です。
私がアドバイスするのは、ヒルを相手に絶対してはいけない事です。
いいですか、ヒルに吸われたら、決して引き剥がそうとしてはいけません」
確かに、父さんと山道を走っている時、父さんがヒルに吸われてライターで燃やしてたっけ。でも、なんで引き剥がそうとしてはいけないんだろう。教わらなかったな。
「どうしてですか」
「ヒルは円形状の口にびっしり歯が生えています。しっかり噛みつき血を吸うヒルを無理に剥がすと……」
「剥がすと……?」
「皮膚が円形状に剥がれます」
ギャーーーーっ!! 聞かなきゃよかったよ! 全身に鳥肌が立ち、膝に力が入らなくなってきた。
「チョコ〜っ!! お願い、服貸してぇ!?」
「離してくださいよっ! 真央さんは一回ヒルに血を吸われて落ち着いた方がいいですって!」
しがみつくも、振り解こうとするチョコに突き飛ばされて、尻餅をつく。慌てて先程先生から借りたライターを探して、火がちゃんとつくか何度も確認する。
「……そんなに火をつけてると、本番でつかなくなりますよ。はぁ」




