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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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2話-23

 コンコンとドアを叩く音で目が覚めた。時計を確認すると、時刻は六時。眠たいのをこらえて、目を擦りながら窓の外を見る。

「舞咲、寝てる所悪いが外を見てくれ」

ドアの外から伊吹先輩が声をかけてくれ、同時に事態を把握した。雪が降り始めている。既に勝負は始まっているのだ。

「おはようございます……」

「俺は外へ出て確認してくる。朝ご飯はできてるから、起きたら食べてくれ」

 そう云うと、ドアから先輩の気配が離れて、やがて階段を降りる音がした。

 私は慌てて起きると、急いで着替え始めた。


⭐︎


「ふぁ」

 なんだか肌寒い。目を開けて、左右を見渡す。ソファーの上で眠っていたみたいだ。パジャマ一枚で心許ないので、修弥の上着を見つけたので少しの間借りる。

 暖房をつけ、スマホの時刻を確認する。五時半。いつもならそろそろ起き出して、早朝ランニングをする時間だ。だけど何故だか胃が荒れていて、身体もだるい。

 私は猫耳をはやし、身体能力を上げた。テーブルの上の片付けをさっと済ませ、顔を洗いにいった。歯磨きをしながら、そっと足音を立てずに見回りをする。

 一階の寝室では、チョコがパジャマ姿で眠っていた。皆の前では着替えなかったお子様柄のパジャマだ。妙にしっくりくる。布団がはだけていたので、そっと直してやった。昨日は遅かったし、もう少し、いい夢みろよ。

 二階に上がると、寝室が二つと、屋根に続くベランダがある部屋が一つある。残りの三人の姿が見えないので、多分ここだろうとベランダがある部屋へ行った。

 意外にも修弥の姿はなく、窓の外を見れば大量に雪が降り続けていた。まだ積り始めているところを見て、五時くらいから降り始めたのかと見当をつける。

 残る部屋は二つ。とりあえず私の部屋は最後だ。反対側の部屋をそっと確認する。

 ベッドの上に黒い影が二つ。遮光カーテンのせいでよくわからないので、近づく。

「真央、おはよ。まだ起きる時間じゃないでしょ。寝かしてよ」

 絵茉が布団から顔の半分を出していた。なら、もう一人は大和だ。あんたら、勝負の場でよくもイチャコラしてくれるな。

「……不純異性交遊ですよ」

「親公認ですのでご心配なく。あんたが生徒会に黙ってれば大丈夫」

 くぅぅ、羨ましい。じゃなくて腹立たしい。「貸しだかんね」私はそっとドアを閉め、閉まるまでの一瞬、布団から手を振るのが見えた。


 残る部屋は一つ。私の寝室。

 といっても、まだ荷物を置いているだけで、別段胸を張って「私の部屋!」とは云えないけれども、この二日間で私が使用すると決めた部屋だ。チョコが一階の寝室を先に押さえた為、二階は全て私の部屋の様な感覚でいたのだが、一応、陽当たりがよいここにした。陽当たりは大事。

 そっとドアを開ける。

 絵茉の時より暗い。雨戸を閉めているのだろう。そっと窓際まで行くと、ベッドの上で修弥がすやすや眠っていた。廊下から差し込む光が彼の姿を映し出す。ネズミの姿になっており、白く細い毛並みが波立って、銀色に輝いている。霊妙な美しさがそこにあり、普段は意識しないが、まつ毛の長い目が閉じられ、鼻筋にかかる前髪が、とてもセクシーだった。

 静かに溜息を吐く。十二支から滲み出る生命力は、この土地の生命力だ。自分が変化した事で、その大地に根差す力強さが感じられる。目の前でただ呼吸を続けている修弥の姿に、私は目が奪われてしまった。

「しゅうちゃん……」

時間にして一、二分だろう。十二支間で起こる何かを感じとって、修弥の両眼がゆっくり開いた。

「真央、おはよう。……ごめん、俺ベッドじゃないと眠れなくて」

「ううん……いいよ。私、先に準備してるから、ゆっくり寝てて」

「ありがとう」

 修弥は私の手に触れて、少し笑って……再び瞳を閉じた。すぅすぅと寝息が聞こえてきて、私は回れ右して慌てて部屋の外へ出た。

 扉を後ろ手で閉めて、そのまま寄り掛かった。

 心臓が早鐘を打つ様に、とてもうるさく鳴り続けた。外は雪が降っていて全ての音を吸い取るはずなのに、私の中では、長い長い間、その音が消える事はなかった。

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