2話-2
(あれれ?)目の前に箱があり、私は立ち尽くした。
困りました。話が読めません。
もしかしてうっかり忘れてしまった? 昨日の夕方、三華と多華士の事でバタバタしてたからなぁ。
陽翔くんのお陰で兄弟仲直りできて、家の問題が解決したと思ったら今度は学校で問題が起きるなんて。
だが、背に腹は変えられない。空腹は最高のスパイスではなく、戦争の火種なのだ!よしっ!
「舞咲さん? 何やってるんですか?」生徒会の北野川さんが話しかけてきた。
「対戦なんか忘れてしまう、みんなを幸せにする料理を作ろうとイメージしているんです。こう、チャカチャカと」必死に現実逃避をしてみる。妹たちの事を考えて、空想の鍋を振る。
ぼそぼそと話し声がする。
「さっきからエアチャーハン作ってるよ」
「私と一緒で彼女も現実から逃げたいんですよ」
陸上部の羽月真央さんと、春日野ちよ子さんだ。
羽月さんは十二支以外で初めて選ばれた猫の能力の持ち主だ。とある手違いで陸上部に入れなかったところ、「下克上」で見事勝利し、無事入部を果たした。陸上部は部室も大きくなり、少人数ながら、きちんとしたプログラムを取り入れて、全国を目指す為に他の部活に負けぬ勢いで練習しているらしい。
隣にいるのは春日野さん。先に陸上部で活動していた、十二支の亥の能力を持っている人。私が戌だから、少し親近感があった。同じ一年生だし、十二支なりの悩みを相談したりできるかなと考えていたんだけど。
「舞咲さん。早く箱からカードを引いていただけますか?」
「なっ、何を云っているの? 昔からうちはキャッシュ一筋です。いつもニコニコ現金払いって、うちの事を云うんですよ」慌ててとんちんかんな返答をしてしまう。
「大分お疲れの様ですね。ですが、次の方が待っておりますので」北野川さんの目つきが、段々と憐みを帯びてきた。
「……そのとおりだよ。悪いけど少し貸して」そう云って私の後ろから小峰先輩がやってきて、箱に手を入れてカードを一枚抜いた。「舞咲さんごめんね。後はゆっくりしてね」小峰先輩は大沢先輩の所に行き、二人でおおーっと歓声をあげている。
先輩を待たせてしまった事に罪悪感があるけど、実はもう何回も手を伸ばそうとしたが、その度に引っ込んでしまった。どうせなら、私の意思と無関係に事をすすめてもらいたい。こんなはずではなかったのだ。
思い切って私は、黙って両手を出して、手のひらにカードが乗るのを待った。
「舞咲さん、落ち着いて!? そんな事してもカードは降ってこないよ?」春日野さんが心配そうに声をかける。
「もう希望なんて何処かに捨ててきました。今はただこの絶望という時間が通り過ぎるのを待つばかりです」さぁ、早く! 昨日のお金の様に舞い降りてきて!
「ご愁傷様です……」春日野さんは、どうやら私に同情しているらしい。そっと箱からカードを抜いて、私の手のひらに置いてくれた。
前髪の隙間から、カードが顔を覗かせた。全く有り難くない気持ちで私はカードを裏返した。カードにはこう書かれていた。
「雪溶かし競争」
私のピンチは、なんら解決される事なく一日を終えてしまった。




