1話-24
出場選手は控え室にてそれぞれ着替え、名前が呼ばれるまで待機だ。控え室にはモニターがあり、他の十二支の対戦はそちらで観ることができる。
対戦は順位の低い十二支から始まる。つまり、最初に呼ばれるのは私とチョコだ。
「チョコちゃん、羽月さん、頑張ってね」
「二人とも頑張ってください」
小峰先輩、優穂先輩からエールをもらうと、チョコはカチーンと立ち上がった。かなり緊張してるのがこちらに伝わる。
「が、が、頑張りますっ!」ガチガチに強張った表情で、呼ばれてもないのに外に出ようとする。
「はーい、落ち着いて。こんな時は深呼吸。自然を感じて」小峰先輩が焚いてくれたアロマで、チョコは少しずつ落ち着いていく。石像みたいに固まっていたのが、ロボット位までには戻った。
「対戦でアピールしたら、スポンサーがつくわ。だから、沢山アピールしてね」
「スポンサーですか?」
「そう。『下克上』の衣装を作ってくれたり、対戦相手の情報をくれたり。『下克上』って、対戦の希望者は少ないけど、サポートは分厚いのよ」そう云われると、先輩方は着物とドレスとそれぞれ違う衣装を着ていた。そうか。スポンサーが着くと衣装がもらえるのか。それは恥ずかしい。
私もチョコも今日はジャージだ。今年の一年生の色は赤。二年生は青で、三年生は緑である。
チョコが錆び錆びのロボットダンスを披露しながら云った。「私たちは今回きりですし、お客さんもいないから、ジャージで充分ですよ」
「それは違います」優穂先輩が訂正する。「『下克上』は学生に大人気で、会場内でもモニター越しでも結構な人数が観覧します。動き易くかつ綺麗な衣装は見栄えしますし、それを意識しながら部活動のアピールをしないと大きな支持を得られませんよ」さすがは大道芸研究会。観られることに慣れた発言だ。
だが、その言葉はチョコに半分も伝わらなかった。彼女は再び石像みたいにカチコチになり、ついに泡を吹いて倒れかけた。
ファンファーレが鳴る。外から歓声が聞こえてくる。マイクで誰かが喋っている声がする。そして、控え室にアナウンスがあり、私とチョコはそれぞれの入場口に行った。
ほぼ暗い通路に立ち、入場口から入る光で目が眩む。一部しか見えないが、こんな規模の施設、何時、どうやって作ったのか理解に悩む。外には巨大なアスレチックがいくつか見え、川も流れていた。
「それでは、出場者登場してくださいっ!! 亥の十二支、春日野ちよ子〜!!!」わぁ〜〜〜、大音量の歓声が沸き立った。出場口横の小さなモニターを見ると、ファンファーレに続いてマーチを演奏するブラスバンド部に合わせてチョコが入場していく。会場は沢山の生徒や教員がいて大盛り上がりだ。
「続いて、皆様お待たせしました。今まで現れた事のなかった、イレギュラー!! 猫の羽月真央〜!!!」
一歩進んで中に入った瞬間、情報がうねりを帯びて私に飛び込んできた。音、音、音。ブラスの音、歓声、水の流れ、木々の揺れる音。辺りは森のようになっており、あちこちに巨大な物体が点在していた。なんだあれ、あの大きさがアスレチックと呼べるのか? 一番手前のものでも、数倍ある大きさで、挑戦しがいがある。
ブラスバンド部を視界のはじに見つけて、修弥を探してみた。修弥はフルートではなく、スネアを叩いている。私と目が合うとアレンジを加えてきた。大和はいつものチューバでなく、スーザフォンを吹いている。白く輝く楽器が、低く深い音色を奏でている。時々しかお目にかからないこの楽器が私は結構気に入っている。
巨大なモニターに科学部の本澤先輩が表示された。「今回の対戦会場も、全て科学部の技術とアイデアの結晶がふんだんに使われている。ここのテーマは『障害物競走』。平和の森フィールドアスレチックをベースに、それぞれの遊具は大きさを数倍にしており、競技場は木を植え、本格的な川を流し、雰囲気を出している。ジャージを汚して、思いっきり戦って欲しい」
成る程、毎回無理やり納得するのだが、この施設は歴代の科学部の面々(主に十二支が)作り上げた科学の楽園なのだろう。規模もさることながら再現率も高い。私もチョコも驚きながら、改めて感じる十二支の力に感心してしまった。
「それでは始めよう。両選手、変身して、神に己の姿を曝け出すのだ」古都会長がそういうと、私たちは顔を見合わせ、力を解き放った。
私の場合は、少し感情の方向を合わせる様に意識すると上手く変身出来る。目を閉じて、眉間に意識を集中。すると、身体が白く輝いて、耳が横から上に移動するなんとも云えない感覚がする。髭は出さないように制御することができたので、出さない。
少し髪の量が増えた位で、私の見た目はさほど変わらない。猫耳がピクピク動くので、私は周りに手を振りながらアピールした。
そういえば、修弥以外の変身を見たことがないなぁと思い、チョコの方を見た。「──真央さんはそれが変身なんですね。羨ましいです」チョコはそういうと、両腕を絡ませながら上へ上げ、足を肩幅に広げた。「はぁぁぁぁぁ」と声を出し、やがて身体全体が光っていく。
彼女の変身の変わり様は凄かった。後ろの髪の毛が一房毎に金と茶の交互の色になり、もみあげも横に伸びて金、茶、金の三本になった。頭の上に猪の耳が生えて、可愛らしい顔の真ん中に豚の様な鼻が生えた。
変身とはかくあるべき。私の変身とは一体なんだったのか。ただ猫耳コスプレをしている私と違って、チョコは見事に変身した。
チョコはもじもじしながら云った。「真央さん、あんまり見ないで下さい。鼻がどうしてもこうなってしまって、恥ずかしいんです」鼻だけ猪になってしまうことが、彼女にはコンプレックスな様だった。身体が恥ずかしさで真っ赤である。
「全然。むしろ私よりしっかり変身してて、感心したくらいだよ」
「本当ですか?」
「ホントホント」心からそう思うよ。
「さて、対戦はこのアスレチックコースを先に一周した方が勝利となる。勝った方は、勝利と感謝の舞を神に奉納する事。時間は十秒程度で構わない」
勝利と感謝の舞とは、無事に対戦が終わった事への感謝と、期待に沿って勝利した事への感謝を踊りでもって示し、今後の十二支の功績により益々の発展を願うというものである。昔は村人全員で捧げていた舞を現代風に解釈した結果、約十秒踊ることになったらしい。
「そして、対戦者同士は、対戦後しっかりとお互いを褒め称えること。互いの力量をしってこそ、共に力を伸ばす事へ繋がるのだから。それでは、位置について、よーい、始め!!!」
私とチョコは、一斉にスタートした。




