1話-23
それから私の日常は少し変化した。入部してないので朝練もなく、他の三人が朝早いのに対して私は時間をかけながら登校した。
あれからチョコとは距離がグッと近くなった。入部できたらこれから一緒の部活だし、話も合うので自然に仲良くなった。絵茉と三人で昼休みに一緒にお弁当を食べてると、チョコはこの間の記録会で相当良い記録が出たと、人懐っこい笑みでピースをした。
「他の部員はどうしてるの?」唐揚げと玉子焼きどっちから食べようか悩む。向かいのチョコの弁当は、そぼろご飯と竹の子とゼンマイの煮物だ。
「ほぼ幽霊部員ですね。部長は頑張ってますが、周りがそのテンションについていけてない状況です。真央さんが入部してくださると、ホント助かるんですが」
いくら生徒会が環境を定めても、個人のやる気は別にあり、また人気のない部活程顔を出す率が低くなるそうだ。「そういえば真央さんって、種目は何ですか? この間聞き忘れちゃったんで」
「真央はオールラウンダーだよ。中学の頃からとにかく凄いんだ。親父が元々選手でさ。確か世界でも結構有名で」絵茉は惣菜パンと菓子パンにいちごミルクのペットボトルだ。
「ちょっと絵茉、程々にして。お父さんは凄いけど、私は記録も持ってないし、この高校では仕切り直して頑張るつもりなんだから。
それにね、チョコちゃん。これは勝負なんだから、月末まで私の実力は内緒にしておきます。」
「え〜!? どうしてですか? 私は話したじゃないですか」チョコは竹の子を挟んだ箸をこちらに向ける。
「ど・う・し・て・も。少しは有利に戦いたいしね」チョコの実力だと、全力を出しあって、互角だと思う。私は、チョコの竹の子にかぶりついた。
「あ〜!! 私の竹の子返してください!」
そして、とうとう「下克上」当日である。
放課後、私とチョコは会長に呼ばれ、生徒会室に向かった。
「よし。全員揃ったな。出発!」
古都会長を先頭に、生徒会メンバー、大沢先輩、小峰先輩、優穂先輩、松本先輩、チョコと私の順に列をなして歩く。程なくして、目の前に巨大なエレベーターが現れた。
「さぁ、乗るんだ」会長の指示で皆で乗るが、まだまだ余裕がある。普段何に使用しているのだろうか。
私は質問してみた。「会長、こないだ話していた地下って──」「そうだ。試合会場は、この学校の地下に存在する」会長は自信ありげに云う。
なにやら先程から一向にエレベーターが止まっていない気がするが、どこまで行くのだろう。そして、ガス管や水道管は大丈夫なのだろうか? 不安になるが、これも先輩方は慣れっこの様だ。
隣に小峰先輩がいて、彼女は少し疲れた表情をしていた。
「小峰先輩、どうかされたんですか?」
「いやね、今年もコレがやってきたんだなーってね。悠真の奴、去年も毎月勝負を挑んできてね」
「それで結果は?」
「はじめ負けたりしたんだけど、後半は私がずっと勝ちっぱなし。それで悠真はヤケになってるんだろうけど」少しめんどくさそうな目で大沢先輩をチラと見る小峰先輩。大沢先輩はと云うと、松本先輩とゲラゲラ話してた。
「部活だって結構忙しいし、今年は受験があるから特にね。でも、悠真にとっては戦う事が生きがいだから、月イチでイベントがあるから張り切っちゃうんでしょうね」
「ちなみに、今月は私とチョコを含めて三組試合がありますけど、いつもはどの位行われるのですか?」
「勝負を希望するのは悠真位よ。」
「えっ?」
「『下克上』たって、必ずしも開催される訳じゃないわよ。去年は私と悠真が毎月行ってたけど、近年は、四月に様子見でやって、後はやらないなんてザラだってきいたわ。そもそも、十二支の力さえ行使しなくても活動自体はできるしね。十二支はシンボルであって必ずしも部長がなる訳じゃない。なら、それこそその力は世の為人の為に使われるべきだわ」
小峰先輩は十二支の力の使い方を十二分に理解している様だ。そうでないとこのような話をしないし、だから園芸部は十二支の力を最大限に発揮して学校を支えているのだろう。入学式で飾られた花は本当に見事だった。
「まぁ、羽月さんは大変よね。自分の入部がかかってる訳だし。」
「いえ、少し前まではそう思ってましたが、先日考えが変わりまして」
「そうなの? あ、そろそろ着きそうね」
エレベーターはチーンと扉を開いて、目の前には長い道が続いていた。またぞろぞろと歩き出す。
「それで、どう考えが変わったの?」
「好きな人がいるので、この学園生活を楽しんでいる自分を精一杯アピールしようかと」
「ふふふ──好きな人、か。それは良いわね。私はそういうの嫌いじゃないわよ」小峰先輩は今度は優しい眼差しで大沢先輩の方を見た。その視線に母性を感じる。「お互い頑張りましょ。悔いのない結果になるように」
「はい、頑張りましょう」私たちは握手を交わした。
「小峰先輩と大沢先輩の対戦の内容は何ですか」私はふと疑問をもらした。
「花札」
「へっ?」
「もう、ルール覚えるの大変だったわよ。でも、完璧に覚えた。コテンパンにした後の悠真の顔を見るといつも清々しくなるのよね。はぁ、今から楽しみ」そう云って小峰先輩はうっとりとしていた。
「下克上」──、それは神の采配で決まる一世一代の大勝負。私は心の底から思った。「障害物競走」でよかったと。




