04話 開き直りました
「そういえば、ウィリアムは今幾つなの?」
用意していた質問を投げかけたのは、兄と別れてすぐ、廊下を歩いていたときのことだった。
この生活も(私が一方的に慣れて)落ち着いてきたし、ウィリアムに関してはここらで好感度上げを図るべきかなとも思っていたのだ。小さい頃から護衛対象が求婚していたとなれば(冗談と捉えられていたとしても)無下にはできまい。
ここらでアピールしておけば、私の立場も相まっておおっぴらに恋人ができることはないと踏んだ。君には申し訳ないが1人たりとて逃すわけにはいかないんだ…私の命のためにな!!
ところで今更なぜこの疑問かというと「こわきみ」の主要攻略キャラは年齢が明かされていないからだ。だから、ゲームにのめり込んでいたときも当然彼の攻略当時の年齢は分からなかった。
今の彼は推定20前後といったところか。肌はツヤツヤ、髪の毛もサラサラ、顔面輝いてるし。けれど、なにぶんこの世界の顔面言動は大人びているため正確な年齢がわからない。
それでも、現時点6歳の私にその若さで護衛として隣に居られるということは既に何らかの実績を上げているに違いなかった。ということはこう見えて25くらい…?
いや、25だと攻略時に25+12で37…いくら2次元キラキラ補正が入っていても20前半の見た目は…きついよね…?30前後だったらどう好感度をあげようか。
色々と考えを巡らせながら彼を見る。こちらの悶々とした気持ちなど露知らず、当の本人ウィリアムは私の問いに一瞬瞠目した後跪き、キラッキラの笑顔でこう答えた。
「これは大変申し訳ないことを。騎士団があまり個を見ないせいか、殿下の護衛任務としての個を見られる機会にあまり慣れておらず…我が身を話す事象がすっかりと抜け落ちていました、配慮が至らずすみません。
改めまして。ハーゲンナイツ王国、王国騎士団第2近衛騎士部隊副隊長兼第1王女の近衛を務めますウィリアム・シューベルト。歳は19です。この身に誓って、殿下をお守り致すことを改めてここに誓います」
「………少し待ってね、事実を受け止める準備をしていたつもりだったのだけれどそれごと吹き飛ばされてしまったから」
にっこりと笑みを浮かべて後ろを向き…頭を抱えた。
嘘でしょ、彼19なの??19で副隊長やってんの??私の護衛やってんの??20前後、たしかに20前後だわ。まさか前とは思わなかったがな!!え、なんなの?化け物なの??
そもそもこの国の学習期間って何年拘束なの??飛び級があることは知ってるけど戦士は戦士で学園があるの?そこを幾つで卒業してこの職についたの??私あなたと同い年のとき大学でウェーイwwwってしてただけなんだけどどうこの気持ちの落とし前をつけたらいいの?
頭の中で叫んでいる私にもう1人の私がゴングを鳴らした。
とりあえず!!この場は!!抑えるのが定石!!
このまま放置してあらぬ誤解を呼ぶのも避けたいでしょ!!乙女ゲームの主人公みたいに!!!あの子ら凄まじい鈍感加減で誤解を息をするように植えるから!!
そう、そうだ。誤解だけは避けたい。
くるりと回って再びウィリアムの顔を見ると、そのキラキラした顔は悲しみに歪んでいた。あっ察したわこれ遅かったパターン
「…殿下の身を守るには…その…少し、若すぎることは自覚しております。国王陛下が直々に指名してくださったとはいえ、経験も足りない。それでも…それでも、殿下の御身体を、御心を、僭越ながらお護りしたいと…!」
「ウィリアム、待って。貴方とんでもない勘違いをしているわ」
は、?と下がった眉に罪悪感を覚えながら彼が膝の上で握りしめていた手を取る。びくりと震えた肩に唇を噛み締めた。美形の不安を煽ってしまった罪悪感半端ない。え?こういうときに相手の欲しい言葉を自分の言葉関係なしに与える罪悪感??ないですそんなもん。
普段から付き従ってくれている彼だからあまり緊張はしないけれど、今後こういうシチュエーションが沢山あると思うと(主に相手の顔が良すぎる意味で)胃が痛くなる。こんな調子で全キャラ攻略なんてできるのか。ただでさえ量が多くなればなるほど1人ずつに対して割ける時間は減ってくるのに、今回のような信用がかかるシチュでのあらぬ誤解から努力がパァ、死ぬなんてことは避けたい。
いややっぱり一瞬でも相手を不安にさせない、完膚なきまでの完璧王女系小悪魔にならなければ死ぬって難易度鬼では。
いいか、私。これは乙女ゲーム。好感度を、あげるんだ。好き放題やらなくてどうする。いける、いける、いける。
そのまま大きな手の甲を唇に寄せて、きゅっと微笑んだ。ぼ、とウィリアムの顔が赤くなる。幼子相手にどうなんだとも思ったが、イシュタルの美形具合のことだし中身のせいで言動大人だし、反応としてはあり得るものなのかな。
「私が年齢で貴方を見ると思って?副隊長だなんてかっこいいのね!!19歳!思ったよりも若くて大いに!とってもとっても結構よ!…それに…」
「…殿下?」
割り切った私は強いぞ。乙女ゲームの主人公テクを駆使して進めていく。気分は3分クッキングだ。
ーー講座受講の皆様、ごきげんよう。まずは下処理です。あえてここで切ることによって記憶に残りやすく処理します。そうして、思う存分キーフレーズをぶつけるのです。
「私が18になったときに31歳なら十分結婚できる歳じゃない!35を超えていたら少し考える必要もあったのだけれど…杞憂だったわね」
「けっこ、!?」
この際とびっきりの笑顔を見せること。また、相手が今の状況のように跪いているなら、そのまま抱きつくことも効果的。これは普段あなたがしっかりしていればしているほど抜群に相手に突き刺さるでしょう。こんな風にね!
「わ、え、っ、ぅ」
トドメは相手の誤解をフルで解くこと!そういえばあのとき誤魔化されたような…となんらかの障害が入る前に、根本から根を断ち切りましょう。
「最初、時間をもらったのは思ったよりも貴方が若くて“私が”嬉しかったからよ。決して不安になったとかではないの。寧ろ…貴方の気持ちに気がつかなくてごめんなさい。でもどうか覚えていて、私は貴方の肩書きだったり立場だったりを見て側に置いているわけじゃない。貴方自身を信頼しているから、隣にいて欲しいの。それだけはわかってね」
最後に額にキスをすれば、もう殿方は貴方にメロメロ。スリーステップで簡単、従者を堕とすコツでした!
ーーなお今回ご紹介した方法は、従者がすでに堕ちかけているパターンなのでビジネスライクな従者の場合には別の攻略法をお試しください。それではまた次回!
…6歳の女児に堕ちかけている19歳の従者とかなんて酷い絵図だろうか。ともあれ好感度上げには成功しただろう。この美形、乙女な顔をしているもの。
いまだフリーズしている乙女の手を握って書庫へ行く。父から指摘された“自分で身を守る方法”を調べるのだ。(ただしぼーっとしている従者が邪魔)