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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
一章 真実と代償、偽りの相貌
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野比瑠奈はできる子だけど気持ちがどうも先走る(1)


 桜の木も緑に色づく頃、織原莉乃は相変わらず退屈に過ごしていた。

 彩音の研究室へ足を運ぶためサボったことは各所で問い詰められ、怒られるよりかは嘆かれ、謎に励まされるまでで終わった。それは問い詰められることに限らず、あれほど突拍子もなく訪れた非日常についても同じであったことは、莉乃にとって残念で仕方がないことだろう。


 あれから数日、彩音からはおと沙汰なしの日が続き、瑠奈に彼の電話番号を聞いてかけてみるも出ることは無かった。学校が休みのタイミングで国立神経科学研究センターへ再度足を運んでも、彩音はおらず代わりと言わんばかりに剛介が莉乃の対応役としてあてがわれた。

 剛介曰く「先生はあの坂上とかいう女にご執心だ」とのことだ。先日はあれほど莉乃に興味津々だった男が、とんだ浮気者だと言わんばかりにその場で剛介がサンドバックにされたことは言うまでもなかろう。もちろん、物理的ではないことも付け加えさせて頂きたい。

 瑠奈とは校内外問わずよく顔を合わせていた。瑠奈は莉乃へ独特な絡み方をするが、それがまたひとつ新鮮ではあり莉乃も嫌では無かったのだろう。だが、超能力者が二人集まったからと言って何が起こるわけではない。女子高生二人が、人並みにする程度のことしかしない。お弁当をお昼に食べたり、ウィンドウショッピングをしたり、新たな甘味を探してより栄えた地へ足を運ぶ。その程度だ。



 早くも定期考査をチラつかされる高校生の一人である莉乃だが、今日の授業も外を見て呆けているばかりであった。あの日の、澪とのやり取りを思い出しているのか。あるいはまた別の何かなのか。それは彼女のみ知ることである。


 だが親切なことに、莉乃の考えていたことは昼休みに答えあわせが出来るようだ。


 普段通り、学年が違う莉乃と瑠奈は適当な空き教室で昼食を取るため昇降口で待ち合わせをする。他の生徒は大抵自分の席周りと雑談を楽しみながら昼食を取り、食べ終えれば勉強を始めるものだ。帰宅部の莉乃が一人フラッと昼休みに消えることを不思議に思う人は少なくないが、言ってしまえばそれが彼らの人生を左右することでは無い。他の生徒達はあまり気にも留めず勉強に打ち込んでいた。それが幸いしてか、特に悪目立ちすることは無い。これは瑠奈にとっても同じことが言えるだろう。

 それゆえに、昼休みの校内は静まり返っており、二人はお互い以外の生徒を見ることは無かった。


「お待たせ、織原ちゃん」


 昇降口からは一年生の教室の方が近いのだが、決まって瑠奈が遅れてやってくる。特に時間に追われているわけでは無いが、莉乃は毎日思うところがあったのかとうとう口に出す。


「瑠奈さ、いつも遅いけど何かしてるわけ? 怒ってるとかじゃないけど、そっちの方が教室近いじゃん」

「ん? あぁ、こんな美人さんはべらせてご飯食べるんだもん、お色直しに少しくらい時間頂戴な」


 満面の笑みで瑠奈は返すが、莉乃としてはいつどのタイミングで見ても瑠奈は何も変化を感じない。化粧をしっかりしてるだとか、髪型がかわっただとか。莉乃も女子である、他人の変化にはそれなりに敏感で褒める習慣を持つが、それでも何も感じなかった。


「もしかしてアンタ、私に会う前いつもしてる……?」

「もっちろん! 髪型のセットカットから肌の色ツヤ出しまで、私の能力をフルに活用して最高の状態で織原ちゃんの隣に臨むわけよ!」


 莉乃としても、瑠奈がここまで気合いを入れて接してくる理由は未だにわからない。不可解さは残るが、それでも瑠奈の愛くるしい見た目と慕ってくる後輩というフィルターが莉乃に良しとさせているのだ。


「熱心なのは良いけど、その能力って――っと、行ってからにしましょうか」

「流石に妄言と取られてカウンセリング通いとか面倒だしね。今日はいい天気だし屋上でも良いかもね~」

「なら2階から降りなきゃ良かった……まぁ良いけどさ」


 莉乃は少し気だるげに長い髪をかきあげるが、瑠奈が軽快に笑い飛ばして引っ張っていくこととなる。


「あ、そういえば」


 階段を上りながら莉乃が思い出したように呟き、瑠奈の裾を引っ張る。


「橘先輩、どうなったんだろうって気になってたのよ。マジでマッチョになってる?」

「あぁ、あの人ね。この前の試したのって初めてやったからどうだろ? 筋肉なんて乙女の敵だしねぇ」


 瑠奈はその小さい右腕を上げ力瘤(ちからこぶ)をつくって見せるように肘を折る。だが、そこにあるのは今にも折れそうな可憐で細い筋肉を微塵も感じさせないものだった。莉乃は自分の腕に目を下ろし、瑠奈と比べて当たり前に太い自分の腕に苦い顔をした。


「ちょろっと覗いていく? 多分、可愛い後輩が教室覗いても受験期の3年生は気にも留めないでしょ」

「橘先輩って何組かわかんないんだけど……というか顔も覚えてるか怪しいわ……」

「それは全クラスちょろっと覗いて、筋肉ダルマがいるか見ればさ?」

「わけわかんないけど、それ名案」


 瑠奈の提案が採用され、二人は3階にある3年生の教室をゆっくり歩きながら覗く。橘の顔を二人とも覚えていない様子であるため、幾らか挙動不審な歩き方でそれらしい男子生徒がいないか出入口から少し距離を置いて見回した。


「……ねぇ織原ちゃん。あれ、多分あれじゃない?」


 4クラス目、D組の前に入った瞬間に瑠奈が気づいたのか、莉乃へ耳打ちをしながら両手で彼女の頭の照準を合わせてやる。

 莉乃もそれで一瞬でわかってしまった。そこには、明らかにバランスのおかしい男子学生の姿があった。首が異様に太く、シャツを第3ボタンまで開け、肩回りも筋肉で隆起していることが遠目でもわかる。しかし、その腕は人並みで、また胸以下も同様に比較的細身であった。背が高いのだろうことが座高からも推察でき、ペンを走らせて勉強するため前のめりになっている姿勢が、またアンバランスさを強調していた。


「瑠奈、あれじゃアンタのこと恨んでるわね」

「き、気が向いたら菓子折り持って謝りに行くよ」


 間違いない橘の姿を目視し、二人は足音を殺して静かに階段の方へと戻っていった。

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